人工知能(AI)で、オンライン広告の成長を支える方法が鮮明になってきている。
この数週間、広告エージェンシー、アドテクベンダー、プラットフォームは皆、この技術の展開策やビジョンを語り始めている。そして、すでに共有されている情報から判断すると、広告キャンペーンのプランニングやバイイングに関して、自動化できるものはすべて自動化するようだ。
ニュー・ストリート・リサーチ(New Street Research)のダン・サーモン氏のアナリストノートによれば、グループエム(GroupM)は最近、2027年までにデジタル広告キャンペーンの90%がAIの影響を受けると試算している。すでにメディアエージェンシーでは、クリエイティブの動的最適化からブランドセーフティの保証まで、さまざまな業務でAIが幅広く活用されていることを考えると、今後5年間の用途は、広さだけでなく深さも前提になりそうだ。
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単純な仕事の多くをAIに任せる流れ
ハバス(Havas)を例にとってみよう。ハバスはこれまで、AIや機械学習技術をファネル下部のパフォーマンス最適化に使用してきた。そして現在、キャンペーンプロセスのもっと多くの段階にこの技術を組み込もうとしている。ハバス・メディア・グループ(Havas Media Group:以下、HMG)の最高データ責任者であるマイク・ブレグマン氏は、「HMGでは、今後2~3年のあいだにAIをエージェンシーに導入し、すべてのメディアバイイングを最適化したり、入札者のカスタムアルゴリズムを作成したり、プランナーに合うトレーニングモジュールを特定したり、タイムシート記入などの手作業を自動化したりするなど、できるところに到達したい」と述べている。
誤解のないようにいっておくと、AIがこの部門の仕事を急速に奪うということではない。また、メディアエージェンシーが機械によって根底から覆されるということでもない。むしろ、ほとんどの機械がそうであるように、AIがメディア選定や取引の平凡な部分を引き継ぐことを示唆しているように見える。
メディアエージェンシーのホライゾン・メディア(Horizon Media)はその好例だ。同社は1月、AIベースの予測分析ツールを発表し、クライアントのeコマース売上を20%向上させるためのものだと説明した。
マーケターは何のためにAIを使うのか
オムニコム(Omnicom)もAIに投資している。同社傘下のDDBは1月末、クリエイティブプロセスのための新しいAI技術の開発と実装に焦点を当てたハイブリッドクリエイティブプラットフォーム「RAND」を発表した。また、RANDはスウェーデンを拠点とする正式なセンターになる予定で、DDBは新しいクリエイティブ拡張ツールを構築するため、クリエイティブテクノロジストと機械学習の経験者を募集している。
過去に起きた技術の爆発的進歩は、クリエイティブエージェンシーとしてのDDBのDNAには合わないと感じられることもあったが、同社でEMEA担当の最高戦略責任者を務めるジョージ・ストラホフ氏は、AIは投資の価値があると断言する。なぜなら、「根本的に、クリエイティブプロセスの次なる一歩となるためだ」という。また、「メディアバイイングがより最適化されてパーソナライズされれば、クリエイティブ制作者がその需要を満たすのに十分なコンテンツを開発するうえで、ジェネレーティブAIはさらに重要になる」とストラホフ氏は続ける。しかし同氏は、重要な疑問についても検討することが必要だとも言い添える。つまり、マーケターは何のために最適化するのかということだ。
「当然、測定可能なものを最適化するわけだが、現時点では、そのほとんどがアトリビューションだ」とストラホフ氏は話す。「しかし、即座の行動、即座のクリックスルーのみを最適化すると、すべてがTikTok化してしまう危険がある。つまり、見てもらうことさえできれば何でもありということになりかねない。そして、それは私たちがめざすところではないと思う」。
ガートナー(Gartner)のマーケティング活動において、シニアディレクターアナリストを務めるニコール・グリーン氏は、独自モデルを持たないエージェンシーはさまざまなAIベンダーとの連携を望む可能性が高いと予想する。また、選択アーキテクチャとそれが、人々をさまざまな行動へと駆り立てる役割を研究することは「刺激的であると同時に恐ろしい」とも述べている。
「AIはあらゆるものに搭載されているが、マーケターやエージェンシーは、AIが私たちの生活にどれほど浸透しているかを十分に理解していないと思う」とグリーン氏は話す。「ChatGPTの急速な進化が、本当の意味でAIを最前線に押し出した」。
GoogleやMetaはAI活用の広告製品を提供
もちろん、オンラインプラットフォームもさまざまな広告製品のAI機能を宣伝するようになっている。 Google、Meta、Snapchat(スナップチャット)、マイクロソフトのCEOは皆、アナリストとの直近の電話会議で、AI機能を強調することを忘れなかった。これらのセッションで合わせて105回も言及するほど、CEOたちはAIについて熱心に語っていた。本物のAIというより、機械学習に近いツールに焦点を当てた発言もあったが、最終目標は明白だ。
Metaのグローバルビジネスグループ担当バイスプレジデントであるニコラ・メンデルソーン氏はDIGIDAYの取材に対し、次のように要約している。「『ユーザー、クリエイター、企業のコンテンツ制作、加えて消費の未来において、AIが本当に重要な役割を果たすという言葉の意味がようやくわかった』と私たちに語る広告主がどんどん増えている」。
マーケターはこのようなプラットフォームからの売り込みを受け入れ始めている。MetaのAdvantage+スイートは、マーケターがキャンペーンの全段階を自動化できる機械学習ベースのツールセットであり、実際、最も急成長している製品のひとつだ。GoogleのP-MAXも同様である。P-MAXは機械学習を使用し、Googleのエコシステム全体でマーケターのターゲティング、クリエイティブの決定、プレースメントを自動化するツールだ。Googleの最高事業責任者であるフィリップ・シンドラー氏は、2月2日に行われた決算発表でその重要性を説いた。
それでも、すべてが上向きというわけではない。この話には注意点がある。それは、多くのこれらの技術に共通するブラックボックスのような性質だ。GoogleとMetaが提案するソリューションを例に挙げると、確かに、これらの製品のパフォーマンスは明白だが、そこに問題がある。Advantage+であれ、P-MAXであれ、マーケターは広告をコントロールする権限をプラットフォームに譲り、その成果を検証できない状態でAIを信頼するしかないのだ。
Seb Joseph & Marty Swant(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:島田涼平)