景気後退のなか、パブリッシャーは購読者の リテンション を再検討:「サブスクはコスト、と受け止められれば削減の対象になる」

DIGIDAY

景気後退はパブリッシャーの広告事業にさまざまな影響を及ぼしている。活況とはいえなかった2022年第4四半期だが、一部の広告主がギリギリまで四半期中のキャンペーンに奔走する一方、そのほかのパブリッシャーはスポンサーに時間的余裕を与えることで増収につながることを期待して、2023年へイベントスケジュールの延期を決定した。

だが、この経済状況がサブスクリプション収益に及ぼす影響は今なお不透明だ。それは購読者もメディア企業も、2023年にどのサブスクリプションなら費用をかけられるかと見極めをしているからだ。

各社の状況は

インフレが進み、主な購読者、すなわち高額な購読料を支払っている企業や個人が、ビジネス情報を得るためにどれだけのコストをかけてよいのかと精査するようになったため、こうした動きは自社の損益バランスをとろうとするメディア企業にとって重圧となるだろう。

  • このようなプレミアムサブスクリプションの多くは企業や法人の顧客を対象としており、その価格帯は幅広い。
  • ブルームバーグ(Bloomberg)のデジタルサブスクリプションは、月額35ドル(約4550円)から年額300ドル(約3万9000円)(月額2ドル[約260円]で3カ月間の有料試用期間が終了した後)。同社ではグループ利用の料金設定もあり、5名で契約の場合、年間ひとりあたり275ドル(約3万5750円)。
  • 有料サブスクリプションサービス「アクシオス・プロ(Axios Pro)」のニュースレターは、1トピックあたり年額600ドル(約7万8000円)。または年額2500ドル(約32万5000円)で、すべてのコンテンツにアクセスできるオールアクセスパスを契約することができる。価格は非公表だが、グループ契約の設定も用意されている。
  • 政治ニュースサイト「ポリティコ・プロ(Politico Pro)」の年間サブスクリプションは数万ドル(数百万円)以上で、カスタマイズ内容やアクセス可能な従業員数によってはさらに高額になる場合がある。

各パブリッシャーの関係者によると、今のところアクシオス・プロ、ブルームバーグ、ポリティコ・プロのサブスクリプションのリテンション(契約継続)率に、景気後退による直接的な低下は見られないという。だが昨今の経済状況から、各社のサブスクリプション担当チームでは購読契約総数に対する購読料収益の向上に注力しており、その方法として、購読者からの直接のフィードバックを募っている。

読者とのコミュニケーションを増やし、フィードバックを得る

アクシオス・プロはサービス開始からちょうど1年が経過したところで、初めての更新時期を迎えている。

アクシオスは3000人の有料サブスクリプション購読者のうち何人が更新時期を迎えたかについて明かそうとしないが、同社のニック・ジョンストン氏は、これまでのところ景気後退に起因する解約はないと述べている。さらに、すでに更新を済ませた購読者(中にはオールアクセス・メンバーシップを受けるため、あるいは法人契約で多くの従業員のアクセスを可能にするためにより高額なプランに変更した者もいる)のデータから、2023年のアクシオス・プロによる収益は、新規サブスクリプション契約を除いて240万ドル(約3億1200万円)と、2020年の200万ドル(約2億6000万円)から20%の増加を予測している。

2023年の契約更新で既存のクライアントに高価格帯での更新をさせるために、ジョンストン氏が掲げる主な戦略は、購読者にフォローアップの電話をかけ、アクシオス・プロの製品について気に入っている点や不足している点などのフィードバックを聞き出すということである。こうした電話を週あたり何回程度かけているのかは言及しなかったが、この作戦が同氏の役割のなかで重要な部分を占めており、2021年9月からこうした方法を実施していると付け加えた。

ポリティコは、2022年10月にプロフェッショナル・サブスクリプション事業のヘッドとしてレイチェル・ロフラー氏を採用して以来、この数カ月間にサブスクリプション購読者への調査アプローチを変え、有料購読者への直接の訪問を増やした。同社を直接知る人の話では、ポリティコ・プロのサブスクリプション担当チームのメンバーには各々、サブスクリプション購読者との対面ミーティングの目標回数が割り当てられており、それが職務明細にも記載されているのだという。

「お金を支払う側の人間の仕事は、コストの削減」

「サブスクリプションは実際にはコストであって、価値を産み出すものではないとみなされてしまえば、コスト削減の対象になってくる」と、ある情報筋はいう。DIGIDAYはこれらの関係者に対し、より率直な意見を語ってもらうために、匿名での取材を提案した。「大企業に販売する場合、その製品を実際に使用している人と費用負担をする人とがおり、それらがいつも同じとは限らない。お金を支払う側の人間の仕事は、コストの削減なのだ」と、ポリティコの内部情報に詳しい人物は語り、「小切手にサインする権限を持つ人々との会談の際には、製品ミックスの価格交渉戦略が役に立つ」と、付け加えた。

訪問総数や面談したクライアントの肩書は役割によってさまざまだが、それぞれの会談の中身は面談記録の形で証拠を残さねばならない。「単にチェックボックスに印をつけるだけではない」と、ポリティコのサブスクリプション事業に詳しい人物はいう。サブスクリプション担当チームとしては、ポリティコのプラットフォーム上で行われる定量調査と併せることで、各クライアントが望むものを正確に把握することができるのではと期待している。

また、「我々とクライアントとは密接なパートナーの関係にあるため、こちらがお届けするものの価値と彼らがそれに対して支払ってもよいと考える金額とを必ず一致させる。かなり柔軟で機敏な対応をしている」とも語っている。これまでのところ、経済不況の影響で解約率が上がったり、サブスクリプション契約1件あたりの平均価格が下がったりといった変化は見られないようだ。ポリティコの広報担当者は、解約率だけでなく、1件あたりの平均価格についてもコメントは差し控えている。

インフレ下としても、なお高い価格設定

ジョンストン氏は、経済不況を理由にアクシオス・プロの価格を下げることはしない。たとえアクシオス・プロがその高すぎる価格設定ゆえに顧客を失うとしてもだ。新製品発売の際には、たとえば初年度100ドル(約1万3000円)割引きなどのキャンペーン価格が提示されることもあるが、ジョンストン氏としては、単に加入者数を求めるよりも平均収益の可能性を優先したいのだという。

「ファネルの最後のステップまで進んできて『いいえ』をクリックする人がいたら、我々はしっかりと調査を行ってその理由を見つけ出す。すると大抵の場合、かかるコストの高さが『いいえ』の理由だ」とジョンストン氏は話している。

2022年のブルームバーグのサブスクリプション購読者数は45万人に達した。これは前年比20%の伸びを示しており、ブルームバーグメディアのCEOであるスコット・ヘイブンズ氏がパンデミックブームと呼んでいた一時的な盛り上がりよりもやや少ない数である。だが同氏は、2023年の購読者数についても2022年と同程度の成長率を見込んでいると付け加えた。

入会をライトにするよりも、年間購読の割引率に注視

「購読者が何人いるかということよりも、どれだけビジネスを大きくできるかが重要だ。最初の6カ月間を無料にして数字をよく見せることはできるが、結局のところ、そうした人々の多くは定着しない」とヘイブンズ氏はいう。そして「今年は、リテンション率をさらに高めるために、年間契約への移行に力を入れている」と言い添えた。ただ同氏は、月ぎめと年間のそれぞれの契約者数については明らかにしていない。

月ぎめ購読者を年間購読者に変えるための主要な戦略のひとつは、「無料トライアルを減らして登録ウォールを設置し、ペイウォールに叩き込む前に読者との関係を構築し始めることだ」と、ヘイブンズ氏は述べている。これによりブルームバーグは、月に数百から数千の登録者を獲得することが可能になるのだ。同氏は「長期的には、加入者がより長く定着するという形で報われるものと信じている」というが、まだ公表できるデータはないようだ。

サブスクリプション契約総数よりも1件あたりの平均収益を優先するやり方は、2023年にさらにクライアントの注目を集める人気の戦略になると、ピアノ(Piano)の戦略およびソーシャル担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのマイケル・シルバーマン氏は述べている。

つまりパブリッシャーは、無料トライアルや長期にわたる初回導入時割引を提供することに変わって、質の高い顧客の獲得、つまり最初から正規料金またはそれに近い金額を支払う購読者の掘り起こしに集中することで、全体的なリテンションを向上させるのだと、同氏は付け加えた。

「収益増強にシフトするための重要な方法は、年間購読と月ぎめ購読に絞って目をむけさせ、年間購読を選択するインセンティブを与えることだ」とシルバーマン氏はいう。「年間購読の約15%というのが典型的な割引率で、購読者は10カ月分の料金で12カ月利用することができる。これを30%や40%にしてもいい。年間購読者のリテンション率の高さを考えれば、年間購読は月ぎめ購読よりはるかに価値がある」。

[原文:Bloomberg, Axios, Politico, other business publishers rethink subscriber retention during the economic downturn

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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