Cookieレス 、アドテクの争い、プライバシー規制についてマーケターたちの考えは?:DIGIDAY Programmatic Marketing Summitレポート

DIGIDAY

どうやらプログラマティックマーケティングは、これまでにないほど複雑な取り組みのようだ。

サードパーティCookieは(ようやく)なくなりつつあるものの、Cookieレスの識別子はいささか中途半端な状態である。ファーストパーティデータがますます重要になる一方で、プライバシーに対する懸念や規制も高まりを見せているからだ。多くの広告主にとってパーソナライゼーションは最優先課題だが、それにはプラスαのコストがかかる。アドテク企業の能力が向上するなか、プログラマティックのサプライチェーンは少しばかり複雑化している。

2023年5月22日、カリフォルニア州パームスプリングスで「DIGIDAY Programmatic Marketing Summit」が行われたが、ブランドやエージェンシーの幹部が集う非公式セッションで話題にのぼった内容も、そうしたテーマだった。

セッションはチャタムハウスルール(会議の内容は、発言者の素性を伏せたうえで、引用・公開可能)に基づき実施されたため、米DIGIDAYでも幹部の匿名性を維持したうえで、情報共有が可能になった。ここでは、その一部を会話形式で紹介する。

Cookieレスの今後について

私に必要なのは測定可能で実績のある方法だ。ただし、GoogleはNG。100%測定可能でユビキタスなものが必要だ。

複数のDSPを利用している場合、このCookieレス識別子でうまくいくのか? という疑問が出てくる。その答えは『Yesでもあり、Noでもある』だ。つまり、『これならうまくいくが、あれはダメだ』という状態といえる。だから次の手を見つけなければならず、その次の手を見つけるのにまた一苦労する。

LiveRamp(ライブランプ)はよく利用している。頭痛の種は、データ活用方法の標準化だ。マッチ率、つまり、どれだけCookieデータを投入したらどれだけ戻ってくるのか、それがいつも大きな問題になる。

ソリューションはいろいろあり、うまくいくものもあるかもしれないが、今は利益相反も多くある。ひとつかふたつ、うまくいっても内容が同じだったり、競合したりしかねない。だから、試験は欠かせないし、どうにもならないこともある。

判断するには時期尚早だ。

似たものを使うときは、たとえばこれまでどういう人がチーズケーキファクトリーに来たことがあるのか、これまでどういう人が注文を決めかねているのか、それが問題だ。

ユビキタスでなければいけない。誰でも同じものが選べなければならず、誰もがこのメニューからテストして、ここで少しあそこで少しといった感じで使う。加えて、利益相反があれば、切り離そうとする人もいるだろう。それで、もしそのSSPと統合したら、特定のサイトリストに載ることになる。必要なのは、データ企業とSSPの認識が一致しているとはっきりわかることだ。何にでも取り替えられるからといって、全面的な拡張が可能なわけはない。

広告主は今、ファーストパーティデータの保護に真剣に取り組んでいる。だから、自社データをこれから保管する場所の選択では、当然データ流出にとてもうるさい。難しいのが適切な場所を見つけることだ。その点、LiveRampは当初からすでに信頼されていたため、業界内で絶妙な立ち位置にある。

私たちは画一的なソリューションを欲しがる傾向にあるが、そのくせ怖がっているのではないだろうか。それに、そうしたソリューションは実際のところ邪魔にしかならないものだったりする。というのも、『LiveRamp? トレードデスク(The Trade Desk)? UID 2.0? いずれにせよ、Googleが一括りにしようと躍起になっているのでは?』ということになるからだ。厄介なのは私たちが皆、相互運用性関連の問題がないものを選びたいと思っていることだ。

フォーチュン500企業がすでに考え出したものを利用することが可能だ。こうした優良企業には独自のプラットフォームがあり、汎用的なソリューションができるのを待っていない。すでに独自で構築し、自社サーバーに存在する。一方でブランドによっては、予算があったりなかったりするため、私たちエージェンシーとしては何らかのソリューションを期待している。つまり、『次はどうなる?』を待っている状態だ。

この新しいユビキタス体験を生み出そうとしたところで、だれも(プログラマティック広告のサプライチェーンを)コントロールできない。おそらく、これからは複数のデータプラットフォームのあいだで協働していかなければならない仲介的存在になるのだろう。エージェンシーの仕事は複雑になるだけだ。『それにお金を払ってくれるクライアントがいるのだろうか?』と私は問いたい。

(サードパーティCookieからの撤退は)今すぐ対応が必要だ。Googleが手を伸ばしているが、年内移行完了の話は、そこまで信じられない。

これまで調子は上々だった。聞く話聞く話、どれも先が読めていたからだ。だが、今度の話はそうはいかない。

アドテクの縄張り争いについて

古参のアドネットワークはアドエクスチェンジを導入し、すべてを統合した。私たちに必要なのはID用アドエクスチェンジで、立場が中立なサードパーティのものだ。トレードデスクで問題なのは、中立ではないこと。同社はデマンド側であり、ファーストパーティデータキーの大半を握っているのは、パブリッシャーだ。

(TTDの)言い訳をするわけではないが、同社は中立的な立場を取ろうとしていた。しかしその一方で、Googleなどほかの企業にはサプライ側の要素がある。価値取引を試みる場合、たとえばトレードデスクとジョイントベンチャーの提携を模索しようとする場合、トレードデスクに取引できるものが同じくらいあるとは限らない。

またしても、何もかもが細分化しすぎだ。トレードデスクと同じ関係があるのはどこなのか? YahooはSSPとしての要素を取り除こうとしているようだが、おそらくやっていることは変わらない。それでは、マグナイト(Magnite)の役割はどうか? マグナイトからは電話で、『弊社はCTVショップだ』と言われたが、その類のことはすでにトレードデスクが始めている。

どこも『(当社は)CTVショップだ」という。

サプライに近づこうとするあまり、何もかもさらに複雑になっている。

ほしいものを手に入れるために、なぜSSPとDSPの両方とやっていかなければならないのか? まずはっきりさせなければならないのは、どうしたいのかだと思う。

リアルな規制について

ここにいるメンバーは皆、規制はOKだと思う。ただし、規制する側が頼りにできるような保守的な企業はここにはいないと感じる。

何を決めなければならないのか、何が規制されるのかに関しては、企業が集まって建設的な話し合いの場を持つ必要があるのではないか。

何らかの標準化がなければいけない。

IAB(インタラクティブ広告協議会)内はいくつもの派に分かれているが、これからは国対応の新たな波が必要だ。米国議会の公聴会を観て、尋ねる質問を聞いていると、どれも『話にならない』としか思えない。

今、とやかく言われているのは、消費者の信用が失われてしまったからだ。自分のデータがどこにいくのか、どうやって使われているのか、という話だけではない。どうやって集められているのかも問題なのだ。

これから規制を作るとしたら、なかなか厳しいだろう。売る側、データチーム、買う側の調整が必要だからだ。皆を同じ方向を向かせるとなると、一筋縄ではいかない。

苦境にあるパーソナライゼーションについて

現状の傾向を見る限り、中小規模ブランドとは対照的に、大手ブランドはパーソナライゼーションの準備を整えている。これで、中小規模ブランドもその方向に引きずり込まれる。

顧客の消費財ブランドは、パーソナライゼーションを進めている。それで私たちも、これまでの規模の大きな戦略的オーディエンスから、『スポーツや旅行に関心のあるオーディエンスを知りたい。そうしたオーディエンスには、それぞれの興味に即した違う広告を用意する』といった方向に動いている。だから、顧客はどこもこの手のパーソナライゼーションを推しているのだが、私たちは私たちで、『それは本当に必要か? 消費者のデータをそこまで深掘りする必要が本当にあるのか? CPMが2倍になるため、その分コストもかかるが、本当に必要か?』と問うことにしている。

コンテンツはパーソナライゼーションしている。議論の余地はない。我々はたまたま広告という手段を使っているだけだ。つまり、パーソナライゼーションを求めているのはオーディエンスなのだ。そこそこの規模のパブリッシャーで私の知る限り、顧客のランディング体験を完璧にパーソナライゼーションしていないところはない。

主にアッパーファネルの仕事をしているが、いつも『なぜここまでパーソナライゼーションしなくてはいけないのか?』と感じている。

私が思うに、パーソナライゼーションしないと消費者が離れていくリスクが高くなる。

重要なのは、一目瞭然になるまで細分化するのではなく、パーソナライゼーションにどれだけ資金を投入するのかだ。キャンペーンでも価値があるのか?。

消費者の欲求と個人情報の取得について

消費者に注目する理由が、データの最終的なニーズを分析しようとするためでないとしたらどうなるのか? 単に『消費者の情報がほしいから、お金を払っているだけだ』と言い始めたらどうなるのか?。

その資金はいったいどこから出てくるのか?。

私は、どこであれ広告を載せているところだと思う。パブリッシャーも含まれる。

しっかりとした効果を得るには、金額も高くならざるを得ない。しかし、広告ごとに広告主がいくら払っているのかという情報を公開したところで、消費者が自分のデータを広告主に教えて構わないと思えるほど説得力はないだろう。

Webサイトにアクセスしたら、メールアドレスを教えなければ、コンテンツを見ることができない、それが新しい常識なのか? つまり、『CDP(カスタマーデータプラットフォーム)の提示を許諾したくないのなら、何も見れない』というのと同じだ。これがデータに依存するエージェンシーやブランドに残された唯一の道、ということなのか?

イングランドでは基本、許諾しなければコンテンツを見ることはできない。私見だが、このくらい状況はひどい。つまりユーザーには、CDPの提示をするかしないかの選択肢しかない。しかしながらもっと平和的で、そのあいだを取った着地点があるのではないかと思う。ユーザーとブランドのニーズを満たし、かつユーザー自身がコントロールできる着地点だ。

ユーザー重視は空言だ。英国でもそうだが、以前読めていたものが『はい、同意』でようやく読めるようになる。

これまではやってこなかったが、これからは消費者との対話が必要になる。Twitchでやっていたようなことだ。Twitchでは、スポンサー広告を掲載したいかどうかストリーマーが選ばなければならない。それと同じで、見たいコンテンツがあるなら、広告掲載を選択すれば、そのコンテンツをサポートできるようになる。個人的には、一般大衆を教育する必要があると感じている。

皆、無料で何でも手に入る状況に慣れてしまった。私も消費者として、この記事を読みたいと思ったときに、ペイウォールに阻まれるとイライラする。そもそも私は読む気満々なため、『その記事が読めるならログインして、自身の情報を提供しよう』となる。つまり、価値交換という概念を人々に教えなければならないということだ。インターネットはこれまでずっと無料だが、何かが無料であるときは、自分自身が売り物になっているときだと、消費者は理解しなければならない。

先日、スマートなペイウォールを見た。ある地方紙を読んでいたら、ログインしなければならないところにたどり着いた。そこにあったのが『サインインしてください。もしくは、質問に回答してください』だ。調査の類であり、『これはスマートではないか』と感じた。それから質問に回答して、記事を読んだ。新聞社は必要な情報を得ることができ、私はログインしなくてもコンテンツを読めて、ストレスも感じなかった。

この問題はコンテンツの売り方、つまり、『この体験を楽しんでもらいたい、この価値交換を体験してもらいたい』という姿勢にも原因がある。たとえ提供側が『普通の人はこのコンテンツをつまらないとは思わないだろう』と考えたとしても、残念ながらたいていは『つまらない』と思うからだ。

医薬品業界で働いている。管理したいのは処方の頻度、メッセージの流れ、作業の手順だ。しつこく、無理強いしないようにしたい。誰だって患者を相手に、ガンを患っていることを17回も自覚させたくないものだ。しかし、目の前にいる人に対して、きっとその人の役に立つ情報を提示するのは重要である。もっとも、相手を動揺させては元も子もないが。

我々は一時、広告する側の考え方をやめて、データを使う側の考え方を持たなければならない。プログラマティックの文脈では多くの場合、いかにして顧客のニーズを満たせるのかが重要だ。

[原文:‘We need an ad exchange for identity’: Overheard at the Digiday Programmatic Marketing Summit

Tim Peterson and Sara Jerde(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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