「 ゲーミング戦略 がマーケティングの『手札』に統合されると確信している」:電通 グローバルゲーミング担当リーダー兼エグゼクティブ・バイスプレジデント ブレント・コニング氏

DIGIDAY

広告代理店大手の電通は、米国の大手ゲーム開発販売会社エレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)の元eスポーツ担当バイスプレジデントであったブレント・コニング氏を、グローバルゲーミング担当リーダー兼エグゼクティブ・バイスプレジデントに起用した。

日本に拠点を置くエージェンシーホールディング・グループである電通は、2021年9月にゲーミング部門を立ち上げた。その名も「電通ゲーミング(Dentsu Gaming)」だ。ゲーム業界のベテランであり、エージェンシーとしての経験も豊富なコニング氏を採用することで、同社は拡大するメディア領域への次なる大きな一歩を踏み出した。

近年の急速なゲーミング人気の高まりにもかかわらず――あるいは急速であるがゆえかもしれないが――どうすればゲーミング・コミュニティにもっとも効果的にリーチできるのか、いまだに迷っているブランドやマーケターは多い。現時点では、ストリーミング、インフルエンサーマーケティング、ゲーム内アクティベーションといったチャネルはすべて、ゲーミング業界という壁のなかだけで限定的に行われている。端的にいうと、それは不確実な領域なのだ。だがコニング氏には、そんな不確かな海を進んでいくのに必要な、ゲーム業界に特化した知識が備わっている。

「2023年1月より、我が社は『One Dentsu』というビジョンのもと事業展開をしていくが、ゲーミングは日本発のイノベーションと、国際市場の規模、人材、リーチを融合させる最重要イニシアチブであり、組織を挙げて取り組むべき課題だ」。電通の最高統合ソリューション責任者(Chief Integrated Solutions Officer)の中村将也氏は、そう話している。

コニング氏の新たな仕事への着任日は11月30日だった。米DIGIDAYは、彼の電通における新しいポジションとゲーミング広告に関するビジョンについてより深く知るため、日本でのオンボーディングに向かう直前の同氏にインタビューを行った。

対談の内容は、長さと明確さを考慮して編集されている。

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ゲーミング広告のエコシステムのなかで、エージェンシーが担う役割は?

「広告やメディアには、ゲーミング戦略がまったく欠けている空白がある。うまくやっているとか下手だとかいうのではなくて、ただ欠落しているのだ。私がもっとも力を入れたいと思っているのは、eスポーツ、ゲーミング、web3、暗号資産、メタバースといった世界において、ブランディングが抱えている恐ろしい問題を正すことだ。みな、これらの言葉を置き換え可能な同じ言葉であるかのごとく使っている。私たちのプランとしては、土台からやり直して、ゲーミングとは何かという基礎を作り直す。私が日々行うべきことは何よりもまず教育であり、今起こっている変化にクライアントがついてこられるようにすることだ」

コニング氏が教育に焦点を絞っているということは、電通などのホールディング企業においてゲーミング部門の構成がこの1年でどのように変わってきたかを映し出している。2021年は、より小規模でエンデミックなエージェンシーのほうが大きなホールディンググループよりも優位に立っていた。

それはゲーマーからもたらされる確かな情報にもとづいて業界を把握していたからだ。コニング氏のようなエンデミックなエグゼクティブを雇うことで、電通はゲーミング業界における同社の真の実力を示し、学ぶ側ではなく指導する側になろうとしている。

ゲーム内広告の企業が、スポーツゲームによくあるビルボード広告を超えてゲーマーにリーチできるほどに規模を拡大するにはどうすればよいか?

「私がいいたいのは、この業界は怠慢になることもある、ということだ。小切手を切って、アドサーバーのモデルに最初から組み込まれている広告を流すだけなら実に簡単だからだ。でも、もう少し人の力が必要にはなるけれども、パートナーシップを使えば、それを超えないとしても同等程度の大きなインパクトは与えることができる。ただ時間が余計にかかるというだけで。スニーカー業界ではよくこれを目にする。思ってもみなかったような2つのグループ企業がコラボレーションをしたりしているだろう? スワロフスキー(Swarovski)とアディダス(Adidas)のシューズのように。それを見た人は、『ああ、なるほど!』という風に思うだろう。こういう類のエクスペリエンスは、これからの時代でも大きな部分を占めるようになっていくと考えている」

ゲーム内のプログラマティック広告は確かにプレーヤーたちのあいだでのブランド認知を向上させるのに役立つが、コニング氏のコメントは、自社のブランドをゲーミングファンのなかによりしっかりと定着させたいと考えるマーケターたちの、ゲーム内アクティベーションに対する関心の高さを反映している。

スワロフスキーはその好例だ。2022年のフォートナイト・チャンピオンシリーズ(Fortnite Champion Series)で使われるトロフィーのデザインに協力することで、あっさりと無視されてしまうゲーム内のビルボード広告よりも、深くフォートナイトのプレーヤーたちの記憶に刻まれる瞬間を作り出したのだ。

現時点ではまだ、このような特定のニーズに合わせたブランドインテグレーションよりも、ゲーム内のプログラマティック広告の方がパフォーマンス指標の追跡がはるかに容易だ。だが、いずれ業界内での測定方法が改善されるにつれて、個別の目的に対応するブランド・パートナーシップの人気は高まっていくだろう。

ブランドのマーケティング予算をより多くゲームに振り向けるために、エージェンシーはどのような支援ができるか?

「自分のお気に入りのものについて適切な内容の広告を見たい、と私は思う。そしてそれは、その消費者にとってもっとも重要なものについての、データドリブンかつオプトイン方式の意思決定である必要がある。つまり、もし私に向けて、ビューティケアブランドのダヴ(Dove)のボディウォッシュの広告を打とうとするならそれは失敗だが、男性化粧品ブランドであるアックス(Axe)のボディスプレーの広告なら正解というわけだ。私たちはさらなるデータ活用や機械学習の利用に着手しているが、そうして消費者との摩擦が少なくなればなるほど、予算の獲得が容易になる」

ゲームクリエイターというのはブランドに対するこだわりが強いことで知られており、ブランドとそれにふさわしいゲーミングオーディエンスやインフルエンサーをマッチングさせることが、ゲーミング広告キャンペーンの成功の鍵となる。

ブランドは、リーチするゲーマーについてよりターゲティングされた情報を求めるため、ゲーム開発者がこうした仮想の競技空間を所有すれば、ますます有益な資産となる。たとえば、ゲーム開発会社のエピックゲームズ(Epic Games)は、自社ゲームのフォートナイトや3D制作プラットフォームのアンリアルエンジン(Unreal Engine)で構築されたそのほかのゲームを通じて、豊富なユーザー情報にアクセスできる。メタバースでは、ユーザーの行動のほぼすべてが、ブランドにとって有益な情報に変換できる。ゲーム環境というのは本質的に、このようなインターネットの進化のための予行演習なのだ。

より広範なブランドマーケティング戦略のなかでゲーミング分野が果たす役割は?

「これは10~15年前のソーシャルメディアとよく似ている。当時はマーケティングプランとは別に、ソーシャルメディアプランも持っていた。今なら、プランを2つも抱えていたらクビになるだろう。現在では、ソーシャルメディアプランはマーケティングプランに完全に統合されている。私は、このプロセスの次のステップとして、ゲーミング戦略がマーケティングの手札に統合される必要があると確信している。その結果、消費者がその信頼性を認めてくれれば、企業やブランドは成功を収めることができるだろう」

今のところ、この業界はまだ先行き不透明な中間地点にいる。マーケティング・チャネルとしてのゲーミングの価値は明白だが、多くのマーケターは、ゲーミングを従来のチャネルと直接競合するものではなく、まったく別のオーディエンスやメディア形態として捉えている。コニング氏が彼に求められた仕事をきちんと果たせば、グローバルゲーミング担当リーダーという彼の特別な肩書きは、電通のような企業のなかでは将来的に廃止されるのかもしれない。

[原文:Dentsu’s new global gaming lead reflects on gaming strategy ‘void’ in advertising, media

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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