「値ごろ感」を前面に押し出すブランドたち:インフレのさなか、マーケティング戦略を変更

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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景気後退への不安が増すなか、一部のeコマースブランドは、マーケティング戦略を変更し、今年のコマーシャルやプロモーションにおいて、価格の「手頃さ」を前面に押し出そうとしている。

米モダンリテールが対談した3つのブランドは、お買い得の商品を求めている消費者にアピールするため、マーケティングの方針を変更し、見込み顧客に対して価格に見合う価値を約束することを前面に押し出すため、価格を強調した新しいキャンペーンを開始した。もちろん、これらの企業の多くは昨夏に40年ぶりのインフレが起こる前から、価格の手頃さを重視してきたが、現在はさらにこの点を強調している。

たとえばD2Cのアイウェア企業のアイバイダイレクト(Eyebuydirect)は、価格の手頃さを自社のオーディエンスに伝えるため、コネクテッドTVとYouTube用に2つのコマーシャルを今年中に開始すると語った。ラグジュアリー再販売プラットフォームのファッションフィル(Fashionphile)は、同社から購入すると小売価格よりどれだけ安く買えるのかを買い物客に正確に伝えるための表現を、以前にもまして重視していくと語る。また、レンタルサービスのヌーリー(Nuuly)が先週公開した新しいキャンペーンは、レンタルと再販売によって衣服の寿命を延ばすよう買い物客に訴えかけ、価格に見合う価値の提案をブランドとして重視していくものだ。

価格に敏感な消費者たち

ラグジュアリー再販売プラットフォームであるファッションフィルのブランドマーケティング担当ディレクターを務めるローレン・リージャー氏は、現在同社の消費者の大部分は価格を気にしており、同プラットフォームはこれらの消費者と的確なコミュニケーションを行う方法を考えていると語る。「再販売において、当社は従来型のプロモーションと同じようなセールを行えるだけでなく、品物の状態に応じて小売価格より割引を行えるという独自の立場にある。この点を従来にも増して強調していく」と、同氏は米モダンリテールに述べている。

ファッションフィルは自社のホームページで、標準小売価格より50%以上割り引かれていると主張する、割引商品のコレクションを掲載している。同社はこのセクションを2019年から自社サイトに設けてきた。「これらの商品のなかには、値札が付いたままで、新品同様だが、店舗で販売されていたときとは価格が異なるため、リセラーである当社はこの表現を使うことができる」と、同氏は述べている。

1999年に設立された同社は、運営開始から何回もの景気後退の時期を経験してきた。現在のマーケティングメッセージは、同社が2021年と2022年に使用してきた「待たずに今欲しい商品を入手しよう」というスローガンと決別するものだ。

リージャー氏は次のように説明する。「昨年、超高級アクセサリー業界では供給が限られていた。店舗に行っても自分が本当に欲しいハンドバッグが見つかるとは限らなかった。それに対して現在は、価格に敏感な消費者が、超高級アクセサリーにどのようにお金を投資するのが最適なのか、ということがテーマになっている」。

手頃さを強調するための戦略

もちろん、価格の手頃さをプロモートする最大の鍵のひとつは、価格への意識が高い消費者にアピールできる商品を幅広く揃えることだ。ルックスオティカ(Luxottica)傘下のアイバイダイレクトは、同社が提供している安価な商品のポートフォリオを過去2年間に200%も拡大し、SKUは4000を超え、もっとも安価なフレームは6ドル(約792円)だと述べている。

「当社は、高品質かつ手頃な価格で、ごく簡単に入手できる度付き眼鏡について人々が考えるとき、アイバイダイレクトの名前が真っ先に頭に浮かぶようにしたいと考えている。また、当社を通して手頃な価格で自分自身のスタイリングができる。当社は常に、この認識を作り上げるよう努力している」と、アイバイダイレクトのブランドディレクターを務めるジム・メルク氏は語る。「そのために、今年前半にはいくつかの新しいコマーシャルが開始される」と、同氏は付け加えている。

「アイバイダイレクトの価格の手頃さを伝えるため、当社はペイド及びアーンドのマーケティングチャネルにおける、ブランドまたは商品キャンペーンで、新しいコレクション、毎週のスタイルドロップ、限定版のフレームなどの価格を明示し続ける」と、同社のシニアブランドマーケティングマネージャーを務めるブランデン・マエス氏は、メールの回答に記している。

不確実性からの恩恵

専門家は、2023年に景気後退を予測している。昨年10月に行われた四半期ごとのウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)の調査によれば、アナリストは平均して今後12カ月に景気が後退するリスクは63%だと予測した。

ヌーリーのマーケティングおよび顧客サクセス担当ディレクターであるキム・ギャラガー氏は、衣服のレンタルサービスはマクロ経済の不確実性から恩恵を受けていると語る。同社は買い物客に対して月額88ドル(約1万1600円)で、150以上のブランドから6つの商品をレンタルできるサービスを行っている。多くの人々は、特別なイベントや行事のために新しい衣服を購入するよりも、同社のサービスはコストパフォーマンスがいいと考え加入していると、同氏は付け加えている。

親会社のアーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters, Inc.)によると、2022年第3四半期に、ヌーリーの純売上は前年同期比で2260万ドル(約29億8000万円)増加した。ヌーリーの成長は、加入者の数が前年同期より185%増えたことが大きな要因となった。「実は、現状が当社のような企業にとって有利だと感じている」と、ギャラガー氏は付け加えている。

「当社の既存顧客はすでに、当社が価格に見合う大きな価値があると話している。当社は創設以来、顧客からこのような声を聞いているが、この点を見込み顧客に対してもう少し前面に押し出す必要があるだろうと思っている」と、同氏は語っている。

同社のメッセージングは、創造性、持続可能性、金額に見合う価値という3つの異なる柱を中心にしている。「そして、購入するなら数千ドルになる商品を、88ドルでレンタルできるということを、新規顧客が十分に理解するように努めている。この方法は多くの共感を生んでいる」と、同氏は説明する。

「レンタル市場はいまだ黎明期だ」

同社の最新キャンペーン「衣服を長く大事にしよう(More Life in Your Clothes)」は、有料ソーシャルチャネル、ポッドキャストに加え、フールー(Hulu)におけるいくつかのコネクテッドTVコマーシャルで実施されている。これは同ブランドにとってはじめての試みだと、同氏は述べている。同社の最新のコマーシャルは、レンタルと再販売によって、ワードローブの寿命を延ばすというものだ。同社は何人かのオンラインクリエイターや歌手・女優・モデルのマリア・イサベル氏と協力し、価格に見合う価値などについて伝えている。「当社は、価格に見合う価値、創造性、持続可能性のいずれかにつながる、さまざまなメッセージを発信している」と、同氏は述べている。

同社のマーケティングでは従来、景気後退などのマクロ経済的的な要素より、持続可能性に重きを置いてきた。これは、顧客が同社のサブスクリプションを中断またはキャンセルするとき、季節性の要因が顧客の意思決定に大きな影響を与えているためだと、ギャラガー氏は述べている。

しかし同社は今年、「景気後退に目を向け」、レンタルそれ自体が、購入という選択肢に対して、より価格に見合う価値があるいう認識を広めたいと考えている。「当社は現在そのような段階にあり、レンタル市場はいまだ黎明期だ。そのため、当社のブランドについて啓蒙し、認知を促進する必要がある。今年はこの分野に強く注力する」と、同氏は付け加えている。

ファッションフィルのリージャー氏は、最終的に「2023年の核心になるのは、買い求めやすい価格だ。人によって『買い求めやすい』がどんな意味であれ、それがすべてだ」と述べている。

[原文:Brands are promoting affordability in their marketing amid inflation]

Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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