2022夏、消費者の購買行動は1年でどう変わったか?:「物価上昇」「新生活様式」の影響を読み解く

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消費者の買い物への支出は、昨夏より10%増加している。しかし、米国勢調査局の新しいデータによると、2022年7月の売上高は前月と比較してほぼ横ばいで、消費者は物価上昇のなか、引き続き必需品以外の物への支出に慎重になっていることがうかがえる。

8月17日の月次売上高速報値に見ると、2022年7月の米国の小売と飲食の売上高は、約6190億ドル(約84兆8000億円)だった前年に比べて、10.3%増の6828億ドル(約93兆5000億円)に達した。前の月の2022年6月に比べると、季節調整済み・価格調整なしで、わずか0.5%増だった。

買い物の場所と動機が変化している

小売店にとって、7月の予想値は、ガス価格の上昇に対する反発やインフレへの懸念に悩まされながらも、人々の消費が続いていることを示している。しかし、どこで、何のために消費するのかは、変化しているかもしれない。アパレルとスポーツ用品の売上は前年よりも増えているが、百貨店の売上と家電の売上は減っている。

IT分野の調査・アドバイザリ企業であるガートナー(Gartner)のアナリストであるマット・ムーラット氏は、価格の上昇はまだ消費者を脅かしていないが、さらなる値上げを見越して、今買い物をしている可能性があると述べている。ガートナーの調査によれば、回答者の75%が、今年の後半も値上げが続くと予想している。

ムーラット氏は、このような不安感は、ガスと食料の価格上昇が家計を逼迫させ続けているなかでも、必需品以外の商品の売上をいくらか押し上げている可能性があるという。ガスの売上高は前年と比べて40%近く上昇した。食料品カテゴリも前年比が大きく上昇し続けている。フードサービスは11.6%、飲食料品販売店は8.4%の上昇だ。

しかし、食料品カテゴリは、6月からほぼ横ばいになっている。ガス価格は、ガロンあたり価格の下落により、6月に1.8%低下した。これによってほかの消費財への支出が可能になったとムーラット氏は述べている。

「使える予算は変わらないが、どこで使うかが変わってきている」とムーラット氏はいう。

家庭用アウトドアゲームの需要は堅調

今夏、支出が移ってきている分野にはスポーツ用品とホビーショップがあり、前年比4.9%の上昇で、6月からは横ばいである。クリス・ミード氏は、「世界初の4方向バレーボール」と喧伝される家庭用アウトドアゲームのブランド、クロスネット(Crossnet)の共同創業者だ。この商品は、スポーツ用品小売店のディックススポーツグッズ(Dick’s Sporting Goods)や、会員制スーパーマーケットのサムズクラブ(Sam’s Club)などで、149ドル(約20500円)で販売されている。ミード氏は、家庭用アウトドアゲームの需要は堅調であると述べている。同社のAmazonでの業績も「絶好調」とのことだ。

同氏は、その原因はロックダウン後に人々が屋外で過ごすようになったことにあるとしている。「この24カ月で消費者の考え方はすっかり変化したと思う。屋外で過ごす時間は、かつてなく重要なものになった」。

ただし、ビジネスの視点から見れば、マクロ経済の状況は圧力を受けている。クロスネットは値上げをしていないが、20ポンド(約9キロ)の製品の送料が上がったため、利益が減っているとミード氏はいう。

「取得原価は2021年より50%下がっている」と同氏は語る。「利益を確保するため、支出も少し削減した。このところ、何でも値上がりしているためだ」。

買い控えをするカテゴリーも

衣類とアクセサリーの分野では、売上高は前年比2.3%上昇、6月からは0.6%低下で、約259億ドル(約3兆5500億円)に達した。この分野でも買い物客の行動は変化していて、オフィスに戻るために仕事着に投資したり、スケジュールし直された結婚式やパーティのための服を買ったりしている。オンラインリサイクルショップのスレッドアップ(ThredUp)は、同社の第2四半期決算発表で、ハイヒールの売上が前年同時期に比べて29%増加し、ウールのブレザーの売上は59%増にまで急上昇したとしている。

スレッドアップでは、アクティブユーザー数が前年比29%増の1700万人に達し、中古の衣類一式を探す消費者の数が増えていることを確認しているが、CEOのジェームズ・ラインハルト氏は業績発表の場で、特に予算が限られている層では、見るだけになりはじめている顧客がいると明かした。

「7月は、5月の同時期に比べて、当社で購入する高収入層の顧客の数はわずかに減っただけだが、割引や予算を重視する買い物客は、23%減少している」と同氏は述べている。「割引や予算を重視する買い物客は、当社の顧客の約3分の1を占めているため、実質的には、4人に1人が今、アパレルの購入を控えていることになる」。

消費者の買い控えの兆候は、ほかの分野でも見られる。百貨店での支出額は前年比1.4%低下し、家電販売店の売上は最大9.9%減少した。大手総合メーカーのLGでホームアプライアンスの国内販売担当バイスプレジデントを務めるポール・デュバル氏は、この需要が弱まった期間に同ブランドが市場シェアを維持できるよう、革新的で高品質な製品に注力したと述べている。また、売上維持の手段として、これもまた需要のピーク時に比べれば弱まっているが、住宅設備市場を挙げている。

「パンデミックの影響が薄れ、前倒し需要の量が調整されたことで、今年のホームアプライアンス業界の小売売上は、実際のところ弱まっている」と、デュバル氏はメールで述べている。「同時に、住宅設備市場は圧力を受けてはいるが、家に再投資する動きが増えたことにより、ホームアプライアンスの売上を強力にけん引している」。

新規顧客を確保する機会

マーケティングファームのベリキャスト(Vericast)で消費者行動を専門とするチップ・ウェスト氏は、家庭向けのカテゴリは2020年と2021年に前例のない急変動を見せたという。

「コロナ前の状態に戻りつつあると聞いている」と同氏は述べている。「この分野の製品の需要は、弱まるだろう」。

ウェスト氏は、全体として、今夏の支出が横ばいであることは、買い物客がプロモーションに飢えていることを意味している可能性があるという。予算の引き締めに合わせて、購入する新しいブランドを探しているところかもしれない。

「自社の顧客について固定観念を持っていると、商機を失うかもしれない」と、同氏は語る。「今は、小売店にとって、これまでその店で買い物をしなかった人々を顧客として確保できる最高のタイミングだ」。

[原文: How shopping habits are changing compared to last summer]

MELISSA DANIELS(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)
Illustrated by Ivy Liu

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