こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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多忙なホリデーシーズンにおいて、ブラックフライデー(11月25日金曜日)の週末の売上額は過去最高を記録したにもかかわらず、小売業界は11月、米国で雇用の減少を報告した数少ない部門のひとつとなった。
米国労働省(Bureau of Labor)の統計から得られた最新の季節調整済みデータによると、建設やヘルスケアなどのサービスは11月に雇用が増加したが、小売業界の雇用は3万人も減少した。
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小売業界の雇用はこの数カ月で増減を繰り返した。8月にはこの部門の雇用が4万4000人増加したが、9月には1100人減少し、10月には7200人増加した。
しかし、需要は依然として存在する。11月に小売の雇用が激減したが、感謝祭(11月24日木曜日)とサイバーマンデー(11月28日月曜日)のあいだの期間は、従来にも増して多くの顧客がセールを探し求めた。全米小売業協会(National Retail Federation)によると、この5日間に買い物客は購入ごとに平均325ドル(約4万4200円)を消費しており、昨年の約300ドル(約4万800円)を上回った。それでは、小売業界に何が起きているのだろうか? 専門家は、早期雇用や、労働力全体の変化など、いくつかの要因が関係している可能性が高いと述べている。
小売業界の雇用の減少は、輸送や倉庫の雇用減少と同様、ほかの堅調な労働者統計においては異常値であったことに注意する必要がある。全体として、米国の経済は11月、予測を上回り、26万3000人の雇用が増加した。もっとも雇用増が大きかったのはレジャーと、ホスピタリティおよびヘルスケアで、それぞれ8万8000人と4万5000人増加した。
「弱点のポケット」
小売業界における11月の雇用喪失の大部分は、雑貨、電子機器・家電製品、家具・家屋内装の店舗でのものだ。これらのカテゴリーは「2021年の非常に高い売上レベル、さらにはパンデミック後半の多くの点から脱却している」と、グローバルデータおよびコンサルティング企業のカンター(Kantar)でプリンシパルエコノミストを務めるダグ・ハーマンソン氏は米モダンリテールに語った。多くの買い物客はすでにこれらの商品を購入済みで、再度購入する必要はない。
「小売業界にはいくつかの弱点のポケットがあり、そのような部分では需要が減少しているため、従来ほど多くのホリデー従業員は必要ないだろう」と、同氏は述べている。
BLSによると、小売業界で堅調なセグメントのひとつは、自動車および部品ディーラーだ。これらの企業の雇用は10月に1万人増加した。ゼネラルモーターズ(General Motors)など多くの自動車メーカーにとって、金利の上昇やインフレの懸念にもかかわらず、米国における第3四半期の売上は増加した。
米国における消費者物価は、数十年ぶりの高さから落ち着きつつある。しかし、買い物客は今でも多くの予算を食料品やガソリンなどの必需品に多く費やしているかもしれないと、グローバル戦略およびコンサルティング企業のカーニー(Kearney)で消費者向け実践のパートナーを務めるシャノン・ワーナー氏は米モダンリテールに語った。「ほかの種類の小売品を購入する予算は減少する」と、同氏は述べている。
早期雇用
今年は、価格の上昇を避け、可能な限りお得に買い物をしようと、多くの顧客が何週間も前にギフトを購入したことから、例年の年末商戦の時期がずれた。買い物の期間を分散させる顧客にアピールするため、Amazonやターゲット(Target)などの企業は10月頃からホリデーセールを開始した。小売業者はこの需要に対応するため雇用を増やしたため、「実際にはわずかな減少として示されるものが、変化するかもしれない」と、ハーマンソン氏は述べている。
通常は、小売業者はホリデーシーズンに向けて雇用を増やし、注文の増加に対応できる十分な人手を確保する。しかし今年は、「小売業者は従来のように季節雇用を行っているのは間違いないが、これまでよりはるかに人数は少ない」と、ワーナー氏は述べている。たとえばウォルマート(Walmart)は今年4万人の季節作業員を雇用したが、2021年に雇用した15万人からはほど遠い数だ。ノードストローム(Nordstrom)は2万人の作業員を雇用し、これも昨年より9000人近く減少している。
また多くの小売業者は第4四半期に売上の減速を予測しており、その予測を雇用に反映していると、ワーナー氏は指摘する。「これらの業者は昨年の非常に堅調な売上に追いつこうとしている。今年は昨年に比べて1ケタの小さな減少か、ごくわずかな成長を予測している。そして当然ながら、雇用者数は、売上の予測を反映している」。
労働力の変化
また、企業は既存の労働力を保持したり、従業員の分類方法を変更しようとしている。たとえばウォルマートは2021年、年度末までに時間給作業員の3分の2をフルタイム作業員にすると発表した。ターゲットは、スタッフがシフトを入れ替えたり、追加労働時間の管理を行えるようにするアプリを運用しはじめた。
こうしたタイプの小売業者は、「既存のチームが、より多くのニーズ、より多くのギャップに対応しているため、季節作業員の需要が従来より減少している」とワーナー氏は述べる。
一方、2019年以降、「店舗での自動化とセルフサービスに向けた取り組みが激しくなった」と、ワーナー氏は述べる。「セルフチェックアウトや、より自動化されたエクスペリエンスの採用により、これらの店舗を運営するため必要な従業員の数が減少した」。多くの食料品店はスキャンアンドゴー、ジャストウォークアウト(Just Walk Out)、スマートカートなどのテクノロジーを採用してきた。しかし場合によっては、これが小売業者の頭痛の種になることもある。
ギグエコノミーもまた成長しており、人々は休暇中により柔軟になれる仕事を望んでいる。グローバルアセットマネージャーのリーガルアンドジェネラル(Legal & General)による新しい調査によると、ギグワーカーの69%は、予測可能な将来において、自分がギグエコノミーで働いている姿を想像できるとしている。ギグワークを離れ、より恒久的で伝統的な雇用形態に移ることを望む、または計画しているのは、回答者の10人に1人未満だった。
ローティスブルーコンサルティング(Lotis Blue Consulting)のパートナーで、同社のビジネストランスフォーメーションプラクティス(Business Transformation Practice)の責任者を務めるアーロン・セーレンセン氏は次のように述べている。「今年の労働市場には特に多くの混乱が見られた。小売業者は賃金闘争に巻き込まれ、人材はあちこちに移動し、小売作業員は賃上げを要求した。このような不安定性から、おそらく小売業者は必要以上の多くの作業員を獲得することになった。そして現在は、もう少し慎重に運営を行っている」。
[原文:Why retail employment plummeted in November]
JULIA WALDOW(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)