ワシントンポスト の読者若返り策、鍵は気候変動報道:サステナビリティに対する広告主・消費者の関心は上昇傾向

DIGIDAY

米紙ワシントンポスト(The Washington Post)は、2018年には6人だった気候変動と環境問題の取材班を30人超に増員した。この投資は同紙がこの問題を重要なテーマに位置づけていることの表れだ。読者層の若返りを図りたいワシントンポストは、若者が環境問題に大きな関心を抱いていると考えている。

気候問題を担当する副編集長のジュリエット・アイルペリン氏は、「この問題にいろいろな意味でもっとも情熱的な世代とつながることは途方もなく重要だ」と述べている。

新たに採用した欧州とアジアを拠点とする2人の海外特派員は近日中に発表される。2021年10月に、ワシントンポストは米DIGIDAYの取材に対して、気候問題の取材班を10人の記者と3人の編集者からなる体制に倍増させたと語っていた。翌年2月には、この陣容をさらに倍増する計画が発表された

課題は記事の重要性を理解する読者を増やすこと

気候変動および環境問題を担当するザッカリー・ゴールドファーブ編集員によると、このテーマがニュース編集室全体にまたがることを考えれば、この分野の報道に関わる記者や編集者の数は、いまや40人近くにのぼるという。同氏は増員の理由を「気候変動問題が今世紀最大のテーマのひとつだからだ」と説明している。「それは使命感であり、その使命感に対する読者の反響だ」。

課題はもちろん、「気候変動に関する記事の重要性を理解してくれる読者を継続的に増やすことだ」とゴールドファーブ氏は話す。「気候問題の記事に関心を持つ読者はすでにたくさんいる。今回、取材班を拡充し、新しい表現手法を導入した大きな理由のひとつは、気候問題の記事をより多くの読者に届けたいからにほかならない」。

ワシントンポストはこの主張の裏付けとなるデータや、この増員を支える広告主関連の数字については開示しなかった。同紙の広報担当者はこう述べている。「この増員は、環境問題の報道に対する読者の渇望と関心、このテーマの記事の影響力とニュースバリューを反映したものだ」。

オーディエンス開発とソーシャルメディアのストラテジストであり、コンサルタントでもあるエルスペス・ラウントリー氏はこう話す。「何をやるにもデータの裏付けが必要だ。当然、ワシントンポストも数字を見て、その数字と採算の見込みに基づいて増員を決断したのだろう」。

若い読者を対象としたコラムや特集を掲載

今後数週間で、ワシントンポストは気候変動チームを中心にスポンサーなしで4つの新たな連載企画を展開する計画だ。具体的には、「気候問題ラボ(Climate Lab)」という新たなカテゴリーを設け、データドリブンな記事、ビジュアルコンテンツ、インタラクティブな特集などを提供する。さらに、以下3つのコラムも近日中に公開される。

  • 気候変動問題に関するアドバイスコラム。名称は未定。より「グリーンな(環境に配慮した)」生活を送るための情報を提供する。2023年初頭に連載開始予定。
  • 「ヒドゥンプラネット(隠れた惑星)」。気象情報担当の副編集長を務めるカシャ・パテル氏が地球の変化を軽妙な語り口で綴る。11月28日に連載開始。
  • 「アニマリア」。動物、野生生物の回復と発見をテーマに、スタッフライターのディノ・グランドーニ氏が執筆する。11月28日に連載開始。

新しいコラムや特集は主に若い読者を対象としており、「フレンドリーで親しみやすい」読み物をめざしたとゴールドファーブ氏は話す。「誰にとっても何かしら楽しめる要素がある企画にしたい」。

ワシントンポストで多様性と包摂性を担当するマネジングエディターのクリサ・トンプソン氏は、この2月にビジュアルを活用したデータドリブンで解説的な記事とソーシャルメディアコンテンツを増やすという戦略を策定した。気候変動問題を扱うチームの拡大もこの戦略の一環という。6月には、インスタグラムに気候変動問題の記事を専門に扱うアカウントも開設。同紙のメインアカウントのフォロワー数が630万人であるのに対し、このアカウントのフォロワー数は早くも3万5000人を突破した。

マインドシェア(Mindshare)でグローバルチーフトランスフォーメーションオフィサーを務めるオリー・ジョイス氏は、この戦略を高く評価する。「大多数の読者はSNSのタイムラインでコンテンツを見る可能性が高く、視覚的にすばやく伝える能力は決定的に重要だ」。

気候変動報道に対する広告主の支持

昨年、パブリッシャーたちは気候変動とサステナビリティに関するコンテンツを求める広告主の増加を目の当たりにした。ジョイス氏はサステナビリティ関連のコンテンツに対する広告主や消費者の関心は、「2022年を通じてずっと上昇傾向をたどっている」と話す。

一方、広告エージェンシーのフィッツコ(Fitzco)でグループ全体のプランニングディレクターを務めるミッシェル・チョン氏は、その当時、「サステナビリティや気候変動問題に関するメディア露出は確かに増えているが、このカテゴリーで広告主からの発注が増えているわけでは必ずしもない」と話していた。電子メールによる取材で、「この傾向はいまも変わらない」と述べている。

その反面、フィッツコの調査には「若年層の読者が環境問題とサステナビリティを重要なテーマと位置づけている」ことが常に示されてきたとチョン氏はいう。さらに、「ソーシャルの重視とデータの視覚化は、若い読者が消費するタイプのコンテンツと軌を一にする」とも述べている。

アテンションをめぐる競争は激化

いずれにしても、この領域で読者と広告主のアテンションをめぐる競争が激化していることに変わりはない。昨年、ニューヨークタイムズ(The New York Times)やナインティーンス(The 19th)らはこの分野を担当する人員を拡充した。また、フィナンシャルタイムズ(Financial Times)やブルームバーグ(Bloomberg)らは、気候変動問題やサステナビリティの報道を専門に扱うハブを設置している。

ジョイス氏によると、このカテゴリーへの出稿を判断する際、マーケターは3つの条件を追求するという。とりわけ、富裕層ほどサステナビリティへの関心が高いことから、高所得の読者という条件は重要だ。そして質の高いコンテンツに、量も求められる。「ここ数年、多くのパブリッシャーが質より量を優先させている。残念な状況だったといわざるを得ない」と同氏は語った。

[原文:The Washington Post invests in climate coverage as its team expands to over 30 journalists

Sara Guaglione(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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