ファッションブランド が独立したジムをオープンする理由:フィットネスとファッション融合の勢い増す

DIGIDAY

ファッションとフィットネスの融合がますます勢いを増すなかで、ブランドはフィットネススタジオで着用する服装の販売から一歩踏み込み、ジムそのものの開設に乗り出している。

ルルレモン(Lululemon)、スウェッティ・ベティ(Sweaty Betty)、アスレタ(Athleta)などのアクティブウェアブランドは、長らく店舗体験の一環としてオンサイトでのワークアウトを提供してきたが、それでもフィットネススペースを単独でオープンさせるまでには至らなかった。だがその一方で、アビエーター・ネーション(Aviator Nation)、リボルブ(Revolve)、エルメス(Hermès)、アローヨガ(Alo Yoga)などはワークアウトのクラスを開講したり、特化したポップアップを実施したり、本格的なスタジオを単独で開くなど、フィットネスのコンセプトに本腰を入れる。

ウェルネスとメンタルヘルスを推進するために考案

社会的な孤立を強いられた苦しいパンデミック期間のあとで、スウェットパンツと共にセッションを販売しようというのは、フィットネスの利用者からすれば納得がいくだろう。

「世界は、リアルライフでの体験に飢えている」と語るのは、アビエーター・ネーションの設立者であるペイジ・マイコスキー氏。同ブランドはロサンゼルスに本拠を置く、70年代に着想を得たアスレジャーブランドだ。

今年4月にマイコスキー氏はカリフォルニア州サンタモニカに、ヨガとフィットネスバイクのスタジオ「ライド(RIDE)」をオープンさせた。バイクの利用は初回20ドル(約2,800円)で、入門クラス3回分で60ドル(約8,400円)というパッケージや、常連客向けのパッケージも用意されている。RIDEではアビエーター・ネーションのアクティブウェアや、RIDEブランドのグッズを販売しており、両ブランドのアパレルの売上高は一日あたり3,000~10,000ドル(約42万~140万円)。「クラスが満員になり、新しいクラスが追加になるにつれ、小売の売上高は増え続けていく」と、マイコスキー氏は予想する。RIDEのインストラクターは全員アビエーター・ネーションのアクティブウェアを着用しており、アビエーター・ネーションのブティックで働く従業員はRIDEのクラスを無料で受講できる。

「私はブランドを拡大したり、トレンディなことをするためにRIDEを立ち上げたわけではない」と同氏。「ウェルネスとメンタルヘルスを推進するために考案したものだ」。

パンデミック後のリアルライフ回帰でアビエーター・ネーションの売上が伸びたことも、モチベーションのひとつになっている。「イベントや地域にまつわる特別なコレクションを展開すると、いつも飛ぶように売れた」とマイコスキー氏。その例を挙げると、ベイル(コロラド州)、ヴェニス(カリフォルニア州)、マイアミ(フロリダ州)に関連したコレクションの他、サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)やマリブ・チリ・クック・オフ(Malibu Chili Cook-Off)で販売した限定コレクションなどがある。

全体として、マイコスキー氏はRIDEを、アビエーター・ネーションならびにRIDEの「ショールーム、小売スペース、フィットネススタジオ」のハイブリッドととらえている。

これまでのところRIDEのデモには、アビエーター・ネーションの既存顧客と新規顧客が混在している。「スタジオはサンタモニカのにぎやかな通りにあるので、どんなに閑散な日でも200~400人ほどが、ふらっと立ち寄って私たちの新しい設備を見ていく」とマイコスキー氏。「顧客獲得がプラスになることは間違いない」。

とても柔らかいスウェットを150~200ドル(約21,000~28,000円)で販売するアビエーター・ネーションは、2006年、カリフォルニア州ヴェニスにあるマイコスキー氏のガレージで誕生した。2021年の売上高は1.1億ドル(約154億円)で、2020年(7,000万ドル、約98億円)から大きく増加しており、2023年までに収益は2021年の2倍に伸びる見通しだ。同ブランドは米国内に16店舗を構えるほか、ロサンゼルスの複数の拠点で取り扱いがあるが、RIDEはマイコスキー氏が初めてサンタモニカに構えた店舗になる。

中核はコミュニティ構築

一方、アローヨガは2016年にビバリーヒルズで初の実店舗をオープンしたときから、店内に「サンクチュアリ」と呼ばれるスタジオやカフェを設け、フィットネスクラスをリテール体験に取り入れてきたと、同社のバイスプレジデント兼グローバルマーケティング責任者のアンジェリーク・ヴェンデット氏は語る。

「私たちの旗艦店であるサンクチュアリストアは、小売とヨガスタジオを融合させている。マインドフル・ムーブメントを広め、ウェルネスへの意欲を高め、コミュニティを作ることが、私たちのあらゆる活動の中核だからだ」と同氏。アローヨガの17店舗のうち5店舗では、毎日2~3つのクラス(ヨガフロー、ヨガスカルプト、瞑想など)が開かれ、それ以外の12店舗でもウェルネス・プログラムが毎月行われる。1クラスあたり32ドル(約4,500円)、入門パッケージ(3クラス)は3ドル(約420円)と、価格帯は太平洋・大西洋沿岸の主要都市にあるブティック系フィットネススタジオと同等だ。2018年にはフィットネスアプリ「アロームーブス(Alo Moves)」もリリースし、こちらでは現在、100以上の新しいクラスを毎月提供している。

今年4月には、初となる「アロー・ウェルネス・クラブ(Alo Wellness Club)」をロサンゼルスに開設した。ヨガスタジオ、パーソナルトレーナーのいる最先端のアロージム、フェイシャル、マッサージ、グリーンジュースのバーといった、ウェルネスとフィットネスの設備が揃っている。この秋には、2つ目のアロー・ウェルネス・クラブがニューヨーク市のソーホー地区にオープンした。「長いあいだ、ファッションとフィットネスは密接につながってきたが、これは非常に理にかなっている。気分が良いときは、見た目も良いものだから」とヴェンデット氏は述べる。

メンバーシップは「現時点では、アローのコミュニティーやパートナーに向けた招待制のみ」とヴェンデット氏は述べる。そしてそのリストに載った人たちは、すべて無料だという。

フィットネススタジオとアパレルの合同事業の変化

ハンプトンズ(ニューヨーク州)で生まれたバンディエ(Bandier)も、2016年にフラットアイアン地区(ニューヨーク市)で1号店をオープンして以来、洗練されたアクティブウェアの販売や、流行最先端のワークアウトの提供に注力してきた。

異業種が合同で事業を進めることは目新しいものではないが、通常はこれらとは逆の流れ、つまりフィットネススタジオがアパレルに力を入れる形で生まれてきた。バリーズ・ブートキャンプ(Barry’s Bootcamp)、ペロトン(Peloton)、さらにはニューヨーク・ピラテス(New York Pilates)、ランブル(Rumble)などニッチなフィットネススタジオが、ルルレモン、ウルトラコー(Ultracor)、ヴァーリー(Varley)、アララ(Alala)などのレギンス、ブラ、フーディーに、おなじみのロゴを目立つように配置してきたのがその例だ。

ソウルサイクル(SoulCycle)の小売への野望は、さらに大きなものだ。本格的なD2Cファッションブランドになることを目指し、華やかなアスレジャーを販売する「カーボン38(Carbon38)」の共同設立者、キャロライン・ゴゴラック氏を小売担当バイスプレジデントとして2017年に採用した。同氏は約3年間、eコマースの立ち上げと拡大を主導。さらに、他ブランドのワークアウトウェアに自社ブランドのロゴをプリントするだけでなく、独自のアパレルのデザインや製造をプロダクトチームが内製化するように移行した。この内製チームには、バーニーズ ニューヨーク(Barneys New York)やヴィクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)で働いていた人たちも含まれているという。また、社内のアパレルブランド「ソウル・バイ・ソウルサイクル(Soul by SoulCycle)」が、ノードストローム(Nordstrom)で発売された。

リボルブは2016~2019年に運営していた会員限定のソーシャル・クラブを、今年3月に「リボルブ・ソーシャル・クラブ(Revolve Social Club)」としてリローンチし、一般消費者向けのポップアップストアを6週間出店した。どちらのソーシャル・クラブもショッピングを存分に楽しめるものになっており、インスタグラム用の写真を撮りたくなる場が用意された。今回のイニシアチブではさらに、シティーロウ(Cityrow)などブティック系フィットネススタジオ、地元のフィットネスエキスパートならびにトレーナーを招いて4日間のワークアウトクラスを提供する、ウェルネスセンターやジムが用意された。

リボブルの共同設立者兼共同CEOであるマイケル・メンテ氏は、ソーシャル・クラブのリローンチに関するプレスリリースで、このようにコメントしている。「フィジカル・ライフスタイルの側面は、製品と同じくらいに重要。だから顧客が行く場所に、私たちも行く」。

アビエーター・ネーションのRIDEへ投資について、マイコスキー氏は「私は常に、金銭的な利益よりも品質を重視してきた」と述べる。同氏はさらに多くのフィットネススタジオを開設し、リモートでのフィットネスクラスやポップアップイベントも開催する予定だ。当然のことながら、そこでは小売も展開する。

「独立した事業としてのフィットネススタジオは、フィットネスクラスのみで多く稼ぐことはできない」と同氏。「収益源になるのは、商品販売だ。そのためこのコンセプトは私たちにとって、財務的な観点から効果的といえる」。

アビエーター・ネーションのアクティブウェアはこれまで「コレクション全体の、ごく一部に過ぎないもの」だったが、RIDEの進化に合わせてアクティブウェアの品ぞろえを増やしていると、マイコスキー氏は話す。

「この種のアパレル事業に私たちが真剣に取り組んでいることを、人々に知ってもらうことが重要」とマイコスキー氏。「フィットネススタジオを持つことで、私たちがアクティブウェアやそれを取り巻くライフスタイルに強い関心を持ち、本気で取り組んでいることを示せる。それだけでなく、毎日ワークアウトを行う人々を引き付けて、新商品を紹介することもできる」。

[原文:Why fashion brands are opening standalone gyms

Alexandra Ilyashov (翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)

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