イーロン・マスク氏がVine(ヴァイン)の復活を計画するなか、同じショート動画プラットフォームのYouTubeショートがファッションブランドやクリエイターのあいだでトラクションを獲得している。
ショート動画は主にTikTokが米国人のスクリーンタイムを支配しており、この機に乗じるさまざまな価格帯やカテゴリーのブランドが増えている。これに対し、他のコンテンツ形式を専門とするソーシャルプラットフォームは、このトレンドを受け入れた機能を展開している。コンテンツ需要が高いなかでも、ブランドが注目する価値があることを示しているのが、YouTubeのショートだ。
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ショートは最小限の努力で「価値ある」投資
ソーシャルメディアのリーダーやインフルエンサーによると、YouTubeショートはいきなり高いエンゲージメントを獲得するなど、TikTokのアーリーアダプターが報告したようなファーストムーバーアドバンテージ(先行者利益)がある。また、長い動画に投資することなく、YouTubeの登録者数を増やすといった、すばやい戦略的取り組みでもあり、売上も伸ばせる。
ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)、エルメス(Hermès)、プラダ(Prada)から動画に特化した有料パートナーシップを定期的に得ているパリ在住のコンテンツクリエイター、フレデリコ・スタウファー氏は、ショートで「実験」するために10月20日からYouTubeチャンネルを始めた。彼は、7万3000人のフォロワーがいるインスタグラムや、フォロワー3万1000人のTikTokに以前投稿したお気に入りの動画をYouTubeに投稿した。「初の(ショート)動画を投稿した後、最初の1時間で20人の購読者と4000ビューを得た」と彼は言う。その動画は現在1万3000ビューとなっており、3回目のショートの投稿は3900ビュー、4回目は5000ビューを獲得している。スタウファー氏は、ブランドのクライアントにこのプラットフォームを勧めていくと語り、特にブランドはすでに動画コンテンツを量産しているため、これは最小限の努力で「価値ある」投資だという。
ショートをマーケティング・ミックスに加えたアパレルブランドには、ナイキ(Nike)、スキムス(Skims)、アメリカンイーグル(American Eagle)がある。また、グッチ(Gucci)、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)、ルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドも参入している。YouTubeによると、ショートの動画は、ビュー数は毎日300億以上、毎月15億人のログインユーザーを引きつけている。
YouTubeの登録者を獲得す有用なツール
パクサン(Pacsun)のインフルエンサー&ソーシャルメディア・シニアマネージャー、タイラー・マクドナルド氏は、同社では過去2カ月間一貫してショートを投稿し、その数カ月前からこのプラットフォームで存在感を示してきたと語る。彼とソーシャルに特化した5人のチームはショートコンテンツに「試行錯誤」のアプローチを取っており、パクサンのTikTokおよびリールの「ベスト・オブ」動画に、インフルエンサーの衣装チェックや社内の様子を紹介する動画といったオリジナルの投稿を織り交ぜている。5000ビューを達成した最近のショートの動画は、同社の会社員がオフィスにやってくる様子や出社時間を紹介するものだ。だが、パクサンはまた、このプラットフォームに「多くの失敗作」も投稿していると、マクドナルド氏は述べた。投稿の約70%はパクサンが制作し、30%はインフルエンサーが作成している。
パクサンにとって、ショートはYouTubeの登録者を獲得するためのツールとしてもっとも有用であることが証明されている。2023年は、YouTubeと長編動画コンテンツが同社の大きな焦点となるだろう。ショート以前は、YouTubeのコンテンツ制作に多大な労力を費やしたものの、結果としてそれに見合うエンゲージメントは得られなかった。パクサンは現在、2万6000人のYouTube登録者を抱えている。マクドナルド氏いわく、今年中にYouTubeユーザーのあいだでもっとも反響のあるショートのコンテンツのタイプをしっかりと把握できるようになることを同社は期待している。現在パクサンはショートに広告を出していると彼は「みなしている」のだ。
スタウファー氏も同様に、将来的に写真チュートリアルなどの長編コンテンツで、ショートで加速したYouTubeのフォロワーを取り込むことを目標としている。
そのクリックは絶対にドルに変わる
一方、『プロジェクト・ランウェイ(Project Runway)』の出身のガナー・デスレッジ氏は、ショートの180万人の視聴者をパトレオン(Patreon)の自分の長編コンテンツに誘導している。そこでは、毎月3ドル(約420円)から14ドル(約1950円)を支払う会員が、ファッションのデザインや構造に関してより深く説明している動画を視聴することができる。また、デザインパターンをダウンロードしたり、Discordのコミュニティへの独占的なアクセスも得られる。
「YouTubeで儲かるのは再生回数だけと思われがちだ」と彼は言う。「しかし、そのクリックは絶対にドルに変わる。それが必要な金を稼ぐんだ」。
さらにデスレッジ氏は、本物と感じられるブランドとの提携も行っており、そのほとんどが、自社が宣伝するものに基づくデザインの制作に彼を起用している。Netflixの場合、『クイーンズ・ギャンビット』の主人公ベス・ハーモンにふさわしいドレスがそうだ。
主に短い形式の動画クリエイターであるデスレッジ氏が初めてソーシャルメディアで活動するようになったのは、パンデミックの時だったという。2021年半ばに彼は最初のショート動画を投稿した。YouTubeのアルゴリズムによるエクスプロアハブ(Explore Hub)が視聴者数を増やし、現在では月間2000万から3000万回の再生回数がある。
デスレッジ氏は、デザイナーを含む技術のある人々にとって、ショートは大きな可能性を秘めていると語った。ファッションウィークのランウェイで発表する前に、このプラットフォーム上にコレクションの制作過程を記録し、コレクションへの期待感を高めるという計画を共有している。
また彼は「デジタル裁縫パターンのフルカタログがあり、いつも売り込もうとしている」ので、YouTubeの進化したショッピングツールの利用を楽しみにしている。
短編動画をショッパブルに
7月に発表されたShopifyとの提携により、YouTubeでは長編動画、ショート、ライブストリームにユーザーが製品販売を組み込むことができるようになった。
この提携についてShopifyのプレジデントであるハーレイ・フィンケルシュタイン氏は「本当に時期尚早なので、まだ本格的な普及にはいたっていない」とGlossyに語った。「だが2023年に非常に大きなものになりそうなのは、欧米におけるライブショッピングだ。そしてそれは、中国とは異なる方法で行われるだろう」。
YouTubeショッピングパートナーシップのマネージングディレクター、ブリジット・ドーラン氏は、このプラットフォームで販売されている一番人気のあるカテゴリーは、美容、ファッション、テクノロジーだと述べている。
「私たちは、ショート動画をショッパブルにしたので、さらに多くの(ショッパブルな)活動を目にしている」と彼女は言う。「これは、楽しい体験の一部だ。クリエイターを目にして、その人が商品について話しているのを見て、その意見を尊重し、信頼する。そしてその場でその商品を購入することができる」。
さらに「見る側にとっても有益だが、作り手にとっても有益で、制作を続けていく動機となる」と彼女は付け加えた。
人々が求める即興のコンテンツ
ブランドや人気クリエイターのための人気の舞台であり続けることは、競争が激化するなか、ソーシャルプラットフォームにとってますます困難になってきている。YouTubeの場合、アフィリエイト・プログラムや、商品へのタグ付けの異なる方法と連動した支払いプログラムなど、さまざまな収益化モデルをテストしているとドーラン氏は述べた。
人々が求める即興コンテンツの類にさらに貢献するショート動画のハブがYouTubeにできたことは、スタウファー氏の経験に基づくと、正しい方向への大きな一歩だ。スタウファー氏は、ルイ・ヴィトンのキャンペーン撮影現場でソーシャルコンテンツを撮影したときのことを振り返った。クルーは1日中、4つの異なる部屋でそれぞれ2~3時間かけて、完璧なスタイリングを行った動画を撮影していた。その一方で、スタウファー氏は各部屋で5~10分の動画撮影を行った。ルイ・ヴィトンの10分間の動画はTikTokでは20万ビュー強だったが、スタウファー氏の5秒間の動画は260万ビューを記録した。
「自分たちが隅っこで撮った動画の方が、結局はより大きなインパクトがあった」と彼は言う。彼は、ラグジュアリーブランドの「エレガンス」の基準を満たすと同時に、プラットフォームのトレンドに乗ることに常に重点を置いていると指摘した。
Vineの復活の可能性
基準といえば、Vineの復活の可能性について、デスレッジ氏は距離を置くと話す。ショートの60秒の動画制限は、彼が望んでいるのと同じくらいの長さだ。Vineの動画の本来の長さをについて、彼は「自分のキャリアや技術を6秒間に収めるのは、少し冒涜のような感じがする」と述べた。
一方、パクサンはすべてを受け入れるだろう。「私たちは常に新しいものを見るための準備がいつでも整っている。Z世代のオーディエンスとともに発見し、Z世代がいる場所にいたい」とマクドナルド氏は言う。「いまはBeRealをやっているし、間違いなくVineも使う」。
[原文:Fashion Briefing: Fashion brands on YouTube Shorts are gaining a first-mover advantage]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)