なぜ今リセール企業買収が急増しているか?:「最大の魅力は貴重なユーザーデータへのアクセス」

DIGIDAY

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2022年はまだ2カ月残っているが、アパレルのリセールプラットフォームの買収が非常に多い年であったことはすでに確定している。

ゴートグループ(GOAT Group)は10月17日、ルイヴィトン(Louis Vuitton)やナイキ(Nike)などのブランドを販売するストリートウェアとデザイナーズブランドのピアツーピアーのリセールサイト、グレイルド(Grailed)を非公開の金額で買い取ることを発表した。10月初めには、韓国のインターネット大手のネイバー(Naver)が、中古品マーケットプレイスのポッシュマーク(Poshmark)を12億ドル(約1810億円)で買い取ることに合意した。さらに3月には、ラグジュアリーブランドのリセールプラットフォームであるベスティエールコレクティブ(Vestiaire Collective)が、女性向けファッションのデザイナーズブランドに特化したリセールサイト、トラデシー(Tradesy)を非公開の総額で買収した。

これらの統合は、リセールへの需要が前代未聞の高まりを見せた時期に起きたものだ。米国での中古品市場は2021年に記録的な成長を見せ、スレッドアップ(ThredUp)の2022年リセールレポート(Resale Report)によると、再販市場は2026年に820億ドル(約12兆4000億円)に達することが予測されている。全世界のリセール市場は2026年までに127%成長すると予測されているが、北米では中古品アパレル分野がアパレル市場全体より8倍の速さで成長しつつある。しかし、ポッシュマークやザ・リアルリアル(The RealReal)のような一部のリセール新興企業は、関心が高まっているにもかかわらず、利益をあげるために苦戦している。実に多くのプレイヤーが売上を競い合うなか、企業が自社のマーチャンダイズを多様化し、より多くの買い物客にリーチし、コストを整理するためにも、買収はますます魅力的な方法になりつつある。

ポートフォリオ拡大

ネイバーは、ポッシュマークをポートフォリオに加えることで、8000万人の登録ユーザーによって自社コミュニティを成長させ、世界の中古ファッション市場での存在感を高めることができると語っている。ゴートグループは、グレイルドの買収により170カ国にわたる5000万人のメンバーにリーチし、「急成長するアパレルとアクセサリーのカテゴリー」を構築することができると述べている。2019年にフットロッカー(Foot Locker)から1億ドル(約151億円)の出資を受けたゴートグループは、ほかのファッションカテゴリーにも手を広げているが、主にスニーカーで知られている。グレイルドについて、「通常はゴートで取り扱わない幅広いブランドが販売されている」と、コンサルティング企業のエー・ライン・パートナーズ(A Line Partners)の創設者でCEOを務めるガブリエラ・サンタニエロ氏は米モダンリテールに語った。「同社にとって、自社商品を大幅に拡大する機会だ」。

今日のリセールの構図はいくつにも分かれており、企業は「万全の手を打っている」と、NPDグループ(The NPD Group)でフットウェアとアクセサリーのアナリストを務めるベス・ゴールドシュタイン氏は語る。ザ・リアルリアルとリバッグ(Rebag)はシャネル(Chanel)の財布などのラグジュアリーアイテムを販売し、一方でポッシュマークとスレッドアップ(どちらも2021年に株式を公開した)はジェイクルー(J. Crew)やH&Mのようなよりメインストリームのブランドを扱っている。この1年間は、ブランド所有のリセールも増加し、オールバーズ(Allbirds)、スティーブマデン(Steve Madden)、ルルレモン(Lululemon)、ティンバーランド(Timberland)のような企業が、状態の良い中古品を安価で販売するプログラムを開始した。

ゴールドシュタイン氏は米モダンリテールにメールで次のように語った。「ブランドは、消費者が自社商品を再販したり、誰かが所有していた自社ブランド商品を購入するのであれば、その顧客をブランド内に留めておいたほうが良いと考えている。しかし、ここには大きな参入障壁がある。この分野が成長中であるということも加わって、最初からブランドをはじめるよりも買収するほうが魅力的なため、買収が盛んになっている」。

統合の可能性も

買収の結果、統合されることもある。ヴォーグビジネス(Vogue Business)は8月、ベスティエールコレクティブが買収してからわずか数カ月のトラデシーが廃止されると報じた。そのときトラデシーの創設者であるトレーシー・ディナンジィオ氏は、トラデシーの買い手はトラデシーよりもベスティエールで「より積極的に」ショッピングを行っていると語った。「ベスティエールコレクティブの品揃えと価格はとにかく驚異的だ。5倍以上の在庫から選ぶことができるのだ」。

「ラストマイルの配送企業に見られている統合と同様、単純に現在存在する数のリセール事業のためのスペースがない」と、カンター(Kantar)で小売インサイト担当ディレクターを務めるティファニー・ホーガン氏は米モダンリテールに語った。「より大規模で成功した企業が、競合他社を買収することでシェアの獲得と規模の拡大を求めていることから、多少の統合は確実に発生するだろう」。

リセール分野全体も、収益獲得に苦戦している。初期のデジタルネイティブのリセールアプリのいくつかは、多くの業者がこの分野に参入してくるにつれ、成長率で対抗するため苦闘している。ネイバーによる企業取得を発表する少し前、ポッシュマークは第2四半期について2290万ドル(約34億6000万円)の純損失を報告した。ポッシュマークが1月に株式を公開したとき、70億ドル(約1兆600億円)の評価額を誇っていた。同社はその20%未満の価格でネイバーに売却された。ザ・リアルリアルは2019年に25億ドル(約3780億円)の評価額で初日の取引を終了したが、8月には第2四半期の純損失が5320万ドル(約80億3000万円)であると投稿した

リソースの共有

重要な点は、買収によってネイバーやポッシュマークのような企業が市場を超えてリソースを共有できることだ。ネイバーは韓国の証券取引所に記載されているが、米国を拠点とするポッシュマークを買収することで、北米への進出をより有利に進めることができる。ポッシュマークは、韓国でトップの検索エンジンであるNAVER(ネイバー)「と、日本でトップのメッセージングアプリのLINEを含む、アジアにおけるネイバーのネットワークを活用できる。

ネイバーのCEOを務めるチョイ・ソー・ヨン氏は、この買収についての声明で次のように述べている。「この組み合わせにより、コミュニティを動かし、コマースを再構築するための最強のプラットフォームが誕生するだろう。ポッシュマークはアパレルの売買のためにソーシャルネットワークを提供している、米国におけるファッションブランドの決定版だ。ネイバーの検索機能や、AIレコメンデーション、eコマースツールにおける最先端のテクノロジーは、ポッシュマークがグローバルに成長するための次のフェーズを後押ししてくれるだろう」。

このテクノロジー、特にネイバーのAIツールは、ポッシュマークのようなプラットフォームにとって鍵となる。ポッシュマークでは、注目を集めるために商品に無関係のハッシュタグ(ほかのブランドの名前も含む)を追加するユーザーもいるとサンタニエロ氏は語る。「ネイバーによるこの買収は、ポッシュマークをはるかに正確で効率的なものにするだろう」と、同氏は述べている。

「リセールがなくなることはない」

しかし、リセール企業を取得する最大の魅力は、貴重なユーザーデータへのアクセスであり、「特に切望されている若い顧客のもの」にアクセスできることだろうと、ゴールドシュタイン氏は語る。今月初めにリリースされたボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)とベスティエールコレクティブの共同レポートでは、Z世代の消費者が中古品の売買をする傾向がもっとも強いという。ネイバーはこの点も強調しており、ポッシュマークの買収を支持する際、同社の「ミレニアル世代とZ世代のユーザーの主要な層」に言及した。ポッシュマークのオーディエンスを把握しておくことで、ネイバーは広告とマーケティングをより的確にカスタマイズすることができるのだ。

顧客は、商品を売り買いするときに、デポップ(Depop)や、カーテシー(Curtsy)、ポッシュマークなどさまざまなeコマースプラットフォームから選択することができるようになった。しかし、これだけ競争が激しくても、リセールがなくなることはないと、サンタニエロ氏は強調する。「インフレと、この数年間のラグジュアリー商品のブームで、この市場にはさらに多くのリセールが発生するだろうと私は考える」と同氏は述べている。

[原文:What’s driving the recent spike in resale acquisitions]

JULIA WALDOW(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Grailed

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