地政学的緊張、プライバシー問題、社内の緊張、懸念すべきコンテンツなど、TikTokには問題が山積している。
しかし、TikTokに夢中なマーケティング担当者にとっても、そのユーザーにとっても、これらは何も問題ではないようだ。これは広告業界で何度も起きてきたことだ。広告費はオーディエンスの存在するところに流れる。
そして、広告費はFacebook、YouTube、スナップチャット(Snapchat)、さらにはテレビなど、ほかのチャンネルからTikTokに移り続けている。中国を拠点とするバイトダンス(ByteDance)が所有する同プラットフォームに対して、国家安全保障上の懸念から規制措置が発動される可能性があると米国で政治家たちが最近警告を発したにもかかわらず、このトレンドは進行している。
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警戒はしているものの「ある程度」
デジタルマーケティングエージェンシーのスプレッド・グレート・アイデア(Spread Great Idea)創業者であるブライアン・デーヴィッド・クレーン氏は、「中国とのつながりを理由とした特定の国でのTikTok禁止や、中国の過激な政策に対する反発が、広告主の短期的な支出に影響を与える可能性がある」と述べている。「しかし、広告費は常に回復しており、このプラットフォームにおけるユーザーの滞在時間を維持するテクニックが、極めて高いレベルに達していることを示している」。
TikTokの広報担当者からコメントは得られていないが、同社にとって、マーケターが注ぎ込んでいるいまの広告費を維持することが重要なのは明らかだ。このような需要は、どのメディアビジネスにとっても「恩恵」となる。特に、広告市場が縮小する可能性のある不況時にはさらにいい知らせだ。
もちろん、マーケティング担当者がTikTokが抱える悩みの種をすべて忘れているわけではない。ただし、彼らは警戒心を持っているが、「ある程度」までにとどまる。
ニュー・エンゲン(New Engen)のメディアサービス担当バイスプレジデント、アダム・テリアン氏は、具体的なクライアント名は挙げなかったが、「セキュリティチームのプロトコルや期待に沿わなかったため、TikTokピクセルをサイトに掲載しないブランドをいくつか見てきた」と述べた。「彼らはTikTok上で広告を出してはいるが、ファーストパーティデータへのアクセスを許可していない」。
コスト面で他プラットフォームを凌ぐ存在
しかし現実には、TikTokは多くのマーケターにとって新規の顧客にリーチするための最良のプラットフォームのひとつであり続けている。いまのところ(TikTokの利用を)止める必要はなく、同プラットフォームの活用を止めることは時間とお金を無駄にするだけである。
「通常、こういった(新しい)広告支出はほかのソーシャルメディア予算か、経済情勢の変化によって割り当てられたブランド支出の増加のいずれかから得られる」とアルファ・デジタル(Alpha Digital)の有料ソーシャル部門を率いるアレックス・ジェームズ氏は述べた。「オーストラリアでは、TikTokのコマース広告商品の大半はまだ手の届かないところにある。しかし、実際には(TikTokへ広告を出すことは)標準的なスクロール可能なフィードよりも魅力的な環境で、若いユーザー層を取り込むことが目的だ」。
若いオーディエンスにリーチという意味では、ほかのプラットフォームでの費用対効果が上がりにくいなか、相対的にTikTokは費用対効果が高くなっている。また、Appleのプライバシー変更により、ソーシャルプラットフォームで視聴者にリーチすることがますます困難になり、コストも高くなっている。こうした変化の影響を受けているが、TikTokの広告価格はFacebookやインスタグラムよりも安いままである。
パワーデジタル・マーケティング(Power Digital Marketing)の最高グロース責任者であるロブ・ジェウェル氏は、「平均すると、TikTokのCPCとCPMはFacebookやインスタグラムよりも25%から50%少ない」と述べたが、具体的な数字は示さなかった。「すべてのマーケティングプラットフォームでトラフィックコストが高騰しているなか、より多くのブランドがTikTokに目を向け、サイトへのトラフィックコストを削減しようとしている」。
TikTokに流れ込む広告費
この1年でTikTokへ流れ込む予算がどれだけ増えたかを見れば、明らかだ。2019年以降、TikTokのネクストステージへの成長は、マーケティングファネルのさらに下部に向けられていた。当時、TikTokの意思決定者たちは、広告主にとって「安価なリーチの選択肢」のひとつになることを懸念していたが、同プラットフォームにおいて、コマース分野がブランディングだけでなく、パフォーマンス目的の広告の場所になり得るかを示すことができると考えていた。
とはいえ、このアイデアはここ半年ほどでようやくマーケティング担当者の間で浸透し始めた。これはTikTokがマーケターたちにそう叩き込んだからだ。
ユーザー数が10億人に達したと発表した同社は、広告主向けの新しいツールによって広告事業を強化している。「ユーザーベースの規模は非常に大きくなり、TikTokはクライアントのためにファンネル全体における成果を導く能力を証明した」とニュー・エンゲンのテリアン氏は説明した。「ピクセルとデータのキャプチャ機能を改善することで、TikTokは下部ファンネルでよりよい結果を得ている。TikTokは、コンバージョンを促す能力があることを証明した」。
サイトリー(Sightly)のビジネス開発およびパートナーシップ担当シニアディレクターのアナリース・カーヴェロ氏は、 「この一年間でTikTokに流れる広告予算は膨れ上がり、2021年第4四半期と比較して広告費が数倍に増加した」と述べている。「メタのようなプラットフォームからTikTokのキャンペーンに資金が流れている」。
Facebookと比較すると?
実際のところ、Facebookの損失はTikTokの利益のようである。
「予算を引っ張ってくる場所としては(Facebookは)自然な場所だ」とテリアン氏は言う。プラットフォーム上での存在感を求める需要が高まる一方で、広告費はあらゆる方向から引き抜かれるだろう。「消費者が動画を見る場所としてTikTokを選ぶようになるにつれ、リニアTVの支出がTikTokに流れるようになる」と同氏は説明する。
「(予算は)FacebookやYouTube(に割り当てられていた予算)からもたらされるだろう。ブランドのオーディエンスがいる場所に予算は流れていくし、パフォーマンスが見られる場所にお金が流れていく」。
誤解のないように言っておくと、広告収入の点でTikTokはFacebookやインスタグラムのライバルではない。これらのプラットフォームはメディア予算の最大部分を占め続けている。ただ、広告が頭打ちになっているか、(Appleのおかげで)以前ほど効果的ではないため、マーケティング担当者は広告費を以前ほどこれらのプラットフォームで使っていない。実際のところ、スナップチャットやピンタレスト(Pinterest)のような小規模なプラットフォームに関して、マーケターが二者択一の窮地に立たされているが、TikTokが勝利を収めるケースは増えている。
オンライン・オプティミズム(Online Optimism)のソーシャルメディア担当ディレクター、メラ・マクニット氏は「マルチプラットフォームのキャンペーンにおける予算と戦略の中核はメタのプラットフォームにいまだにあるが、ほかのプラットフォーム(スナップやピンタレストなど)と比べて、TikTokへの支出が大幅に増えている」と述べた。「同プラットフォームが検索の場に移行したことで、ユーザーはブランド発見を中心とした広告にオープンになった」。
いずれライブコマースに再びフォーカスする
これを念頭に置いて、デジタルエージェンシーVMLY&Rのソーシャル部門の責任者であるクリスティーナ・ミラー氏は、TikTokはすでに夏以降、ホリデーシーズンの取り組みを強化していると説明した。
「TikTokは、ホリデーキャンペーンの計画が行われる直前の8月に、ショッピング広告を発表したが、これは購買プロセスの様々なステージにいる買い物客に広告主が会えるようにすることを目的としている」と述べた。
新しい広告は、ビデオショッピング、カタログ掲載、ライブショッピングに及ぶ。「コマースプロダクトが増えたことは、TikTokがこの分野に今後も継続して投資を行うこと、そして近い将来、再び動画やライブショッピングに参加する広告主に重点を置くことを示唆している」とミラー氏は付け加えた。
[原文:TikTok continues to be a brand marketer darling despite its geopolitical dramas]
Krystal Scanlon(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)