「抗生物質が大腸がんの発生リスクを高める可能性」が4万人以上のがん患者を対象にした大規模調査で示される

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抗生物質は人間にとって有害な細菌を殺したり、増殖を抑制したりする目的で処方されますが、近年では抗生物質が効かない耐性菌(スーパーバグ)の登場が問題視されているほか、抗生物質が大腸がん(結腸がん・直腸がん)の発生リスクを増加させる可能性も複数研究示されています。新たに医学誌のJournal of the National Cancer Instituteに発表された論文では、スウェーデンの4万人を超える大腸がん患者を対象にした調査の結果、抗生物質と大腸がんの発生リスク増加に関連が認められたと報告されました。

Antibiotics Use and Subsequent Risk of Colorectal Cancer: A Swedish Nationwide Population-Based Study | JNCI: Journal of the National Cancer Institute | Oxford Academic
https://academic.oup.com/jnci/advance-article/doi/10.1093/jnci/djab125/6360113

Antibiotics may raise colon cancer risk, massive study suggests | Live Science
https://www.livescience.com/colon-cancer-antibiotic-use-link.html

スウェーデンでは個人に一意のID番号が付与されており、この番号を基にさまざまな医療データのリンクを照合することができます。研究チームは全国的な医療データから、2010年~2016年にかけて大腸がんだと診断された4万545人の患者と、診断までの2年間に患者が処方された抗生物質の記録を収集し、大腸がんではない20万人以上の人々と比較しました。

分析の結果、抗生物質を6カ月以上にわたって服用し続けた人は、抗生物質を服用しなかった人と比較して、結腸の前半部にがんが発生するリスクが17%高いことが判明しました。一方、結腸の後半部や直腸におけるがんのリスクと抗生物質の服用には、関連が認められませんでした。

結腸は小腸盲腸に続いて右下腹部から始まり、側腹部を上に向かって伸びる上行結腸、腹部の右から左に伸びる横行結腸、左腹部を下方に伸びる下行結腸、末端に当たるS状結腸で構成されており、その先に肛門とつながる直腸が存在しています。抗生物質の服用とがんの発生リスクが関連していたのは、このうち上行結腸や横行結腸の右側だったそうで、特に上行結腸の小腸に近い側でリスクが高かったとのこと。

論文の上級著者でスウェーデン・ウメオ大学の腫瘍学研究者であるSophia Harlid氏は、「データを見れば、(がんの発生リスクが高い部位が)結腸の近位または右側に限定されていることは明らかです」と、科学系メディアのLive Scienceに語っています。


今回の研究結果は、あくまでも抗生物質の服用とがんの発生リスクの相関関係を見つけただけであり、「抗生物質を服用するとがんの発生リスクが上昇する」という因果関係を見つけたわけではありません。

しかし、抗生物質の服用によってがんの発生リスクが高くなるメカニズムについては、妥当性の高い仮説が存在します。服用した抗生物質が結腸までたどり着くと、結腸に存在する細菌が死滅し、腸内細菌叢のバランスが崩れます。これによって大腸菌やクレブシエラ・ニューモニエなどの有害な細菌が通常より増殖し、結腸における炎症が増えた結果、DNAに損傷を与えて腫瘍を形成する可能性がある化学物質が生成される可能性があるとのこと。また、腸内細菌がより結腸の内壁に浸透して、結腸がんの発生と関連がある微生物の生物膜「バイオフィルム」を形成しやすくなる可能性もあるそうです。

大腸にたどり着いた抗生物質は、中を進む過程で次第に分解されていきますが、小腸とつながっている結腸の入り口付近では、まだ抗生物質の分子が分解されきっていない場合が多いとのこと。そのため、今回の研究結果で結腸の前半部におけるがんの発生リスクのみが抗生物質の服用と関連していたことは、抗生物質の服用が結腸がんの発生リスクに影響していることを示唆しています。


研究チームは、抗生物質の使用によってがんの発生リスクが上昇する理由についての洞察を得るため、「メテナミンヒプル酸塩(ヒプル酸メテナミン)」という薬の処方記録についても調査しました。メテナミンヒプル酸塩は尿路感染症の再発を防ぐために使用される抗生物質であり、尿中の細菌増殖を抑える機能を持っていますが、腸内細菌叢を変化させることはありません。

メテナミンヒプル酸塩の服用と結腸がんの発生リスクについて分析したところ、やはりメテナミンヒプル酸塩は結腸がんの発生リスクと関係しておらず、腸の細菌に影響を及ぼす抗生物質のみが結腸がんと関連があることがわかりました。

今回の研究結果は抗生物質とがん発生リスクの関係を示唆していますが、データには個人の食習慣や喫煙・アルコール摂取の有無といった情報が含まれておらず、抗生物質を処方された人々が実際に服用したかどうかも特定できないなど、いくつかの限界があったとのこと。しかし、今回の研究はかなり大規模なものであり、Harlid氏は「これは間違いなく正しい方向を示唆しています」と述べています。


研究チームは今後、さらにデータが蓄積された時点で大規模な追跡調査を実施し、特定の抗生物質が結腸がんの発生リスクと強い関連を示すかどうかを確認したいとしています。

将来的には、抗生物質を服用しなければならない人のために、「腸内細菌叢のバランスを取り戻すために作られた栄養補助食品」が登場する可能性があるとのことです。

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