ロブロックス(Roblox)は、メタバースに対するマーケターの高まる欲求に対応するためのアップデートを準備しているが、消費者保護団体は、同プラットフォームが一部のユーザーにマイナスな印象を残したと警告している。
ロブロックスは9月9日、3Dのデジタルビルボードや、ある体験から別の体験へ、そして最終的に動画広告にユーザーを誘導するゲーム内「ポータル」など、新たな「没入型」フォーマットを構築することを目的とした新しい広告フォーマットを発表した。没入型広告フォーマットの料金が、どの程度になるのかについて、同社は明らかにしていない。だが、「バナー広告を無造作に配置するようなものではない」と、ロブロックスでマネタイゼーション担当シニア製品ディレクターを務めるリチャード・シムズ氏は言う。新ツールは、ロブロックスと開発者に新たな収益源をもたらす一方で、コンテンツのレーティングや制限を設けることで、年齢に応じたコンテンツ提供を可能にしている。
これまでに、ワーナー・ブラザース(Warner Bros)や VANS(バンズ)が新しいフォーマットをテスト済みだが、広範な展開は2023年以降になる見込みだ。潜在的な機会をすでに見いだす者がいる一方で、新たな安全対策が十分かどうか懐疑的な者もいる。
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マーケティングの自動化に役立つ
今まで企業は、Twitch(ツイッチ)やTwitter、TikTokのようなほかのプラットフォームで、ブランド化されたロブロックス体験を宣伝するか、ロブロックスのインフルエンサーを頼りにすることが多かった。だが、近い将来、ターゲティング広告によってロブロックス内でユーザーにリーチできるようになることから、ゲーム内で、ロブロックスユーザーにリーチする新たな手段を生み出すのに役立つ可能性があるというマーケターもいる。
「つくるからといって、ユーザーを獲得できるとは限らない。それに、よりバーチャルなトラフィックを誘導する創造的な方法を見つけなければならない」と、大手広告エージェンシー、ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)のイノベーション担当責任者、キース・ソルジャチク氏は語る。
レストランチェーンのチポトレ(Chipotle)、玩具メーカーのマテル(Mattel)、カジュアルアパレルのパクサン(Pacsun)のような企業向けにバーチャル体験を構築しているスタジオ、メロン(MELON)のプレジデント、ジョシュ・ニューマン氏によれば、このアップデートは、インフルエンサーや開発者、ほかのパートナーに個別に働きかけるより、マーケティングを自動化するのに役立つという。
「ポータルは、新しい体験に新たなトラフィックを誘導するのに大成功してきた。だが、それは、マニュアル車を運転するようなものだ」とニューマン氏は話す。
子供にとって「安全ではない」と警告
今回のアップデートは、(ロブロックスのユーザー基盤の柱である)子どもに対する企業によるマーケティング方法を精査する動きが高まるなかで行われた。一方、消費者保護団体は、ブランド体験やほかのコンテンツからのアプリ内購入について、ロブロックスが十分な開示を行ってこなかったことに懸念を抱いている。4月には、非営利の消費者保護団体「広告の真実(Truth in Advertising:TINA)」が、誤解を招く広告戦略やほかのさまざまな懸念材料についてロブロックスを非難する申立書をFTC(米連邦取引委員会)に提出している。
TINAによると、ブランド体験やゲーム内購入、その他のコンテンツは、ロブロックスでのマーケティングとして適切に情報公開されていなかったという。TINAは、ロブロックス上のインフルエンサーと人工知能(AI)によるボットが、ブランドとの提携について適切に情報を開示していないという主張も行っている。TINAのエグゼクティブディレクターで共同創設者のボニー・パッテン氏によれば、子どもは幼いうちは認知能力が発達していないため、マーケティングを理解してほかのコンテンツと区別することができないという。
「商品の広告が目的のアドバゲーム(ゲーム内広告を含む)を額面どおりに受け止めている。一方、大人の場合は、そのマーケティングが、実際の製品やサービスよりも優れている可能性を理解しているため、マーケティングに対して健全な懐疑心を持つようになる」とパッテン氏は語る。
今年はじめ、デジタル未来委員会(Digital Futures Commission)は、8つのオンラインプラットフォームについて調査を実施し、ロブロックスとフォートナイト(Fortnite)が、最も「中毒性がある」「商業的に搾取している」「安全ではない」と子どもに見なされていることがわかった。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授で、このレポートの筆者のひとりであるソニア・リビングストーン氏によると、これは、主にさまざまなブランド体験とともに、ゲーム内通貨から資金を得ているビジネスモデルのせいでもあるという。
「ビジネスモデルを理解していないために、これらはすべて、子どもにとって心配の種となる」とリビングストーン氏は話す。「子どもは誰もビジネスモデルを理解していない」。
年齢に応じてユーザーに新たな制限も
ロブロックスによるゲーム内広告機能の拡大に伴い、新たなウォールドガーデンを構築するのか、それとも、広告主とゲーム内広告会社間の提携について、よりオープンな方針を採るのかという疑問がある。ブランドや開発者と共にゲーム内経済をすでに発展させているが、ロブロックスは、サードパーティデータのパートナーや広告ネットワークの参入を認める気はない。これは、プライバシーが守られる環境を作り、FacebookやTwitterのようなほかのプラットフォームが陥った落とし穴を避ける意図がある動きだ。
ロブロックスは、年齢に応じてユーザーに新たな制限も課そうとしている。13歳以上のユーザーでないと、没入型広告を視聴できないようになる。ゲームも、13歳以上を対象、9歳以上を対象、全年齢対象の3つのカテゴリーに分かれるようになる。これらのアップデートが、ユーザーと開発者向けの適切なガイドラインを構築するのに十分かどうかは、まだ検証されていない。だが、9月上旬、FTCの公聴会で、モジラ(Mozilla)の最高セキュリティ責任者、マーシャル・アーウィン氏は、具体的にロブロックスに言及したわけではないが、子どもがまだ利用するかもしれない状況では、新たな規制で成人向けプラットフォームに対処することが重要だと述べた。
「子どもをターゲットにしていなくても、利用しているのが子どもだと確信するもっともな根拠がある時には、何かしらの対策を講じることへの積極的な義務を大手プラットフォームに課す規則が必要だ。一例を挙げると、YouTube KidsではなくYouTubeだ。それに、そうすれば、いささか気がかりな子ども向けコンプライアンスシアターのようなものを避けられる」とアーウィン氏は指摘する。
「広告予算はまだ実験段階を過ぎていない」
広告やほかのコンテンツに関する懸念に加えて、別のより高次の疑問がまだある。ユーザーはメタバースに広告を求めるだろうか? 世論調査機関ユーゴヴ(YouGov)とデジタルネイティブのテクノロジーサービス会社のグロバント(Globant)が実施した7月の調査によると、ゲーマーのあいだでは、広告に不満がないのは35%、まだ判断が付かないのが35%だった(広告に不満がないゲーマーのうち約半数は、年齢が18~29歳だった)。
調査会社ガートナー(Gartner)のマーケティングアナリスト、アンドリュー・フランク氏は、広告予算に関しては、ロブロックスはまだ実験段階を過ぎていないと語る。ブランドは新しいフォーマットを試す場合が多いが、実験的な広告フォーマットは、高い料金や規模拡大の問題、管理の問題のいずれかが理由で、テスト後に不採用になるケースが少なくないという。そのうえ、ロブロックスは、どちらかと言えばソーシャルメディアプラットフォームというよりゲームプラットフォームだ。そして、10年以上存在し、メディア予算の一項目になったり、コネクティッドTVのような成熟期に達したりする前に、プラットフォームを大幅に進化させる必要がある、とフランク氏は言う。
「ゲーム内広告は今やメディアだと何度耳にしただろうか? だが、ソーシャルメディアと比べると、TikTokでこれまで目にしたのと同様の規模やエンゲージメントになるとは思わない」とフランク氏は語った。
Marty Swant and Alexander Lee(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:黒田千聖)