D2C新興企業の新バズワードは「コミュニティ」:チャットツールGenevaを使ったファンダム形成に注目集まる

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

D2C新興企業の分野で競合が激しくなってきたことから、自社の耐久力が持続していることを証明したいブランドにとって、「コミュニティ」が新しいバズワードになりつつある。

ワシントンポスト(Washington Post)のレポーターであるテイラー・ローレンツ氏は、「コミュニティはフォロワーの新しい数え方」と定義し、インフルエンサーがディスコード(Discord)やテレグラム(Telegram)などのチャットツールを使用して半プライベートのルームを作り出し、もっとも熱心な信奉者たちと、より密接に話し合うようになってきていることに注目する。

新興企業の世界でも、同じような現象が起きつつある。D2Cブランドにとってコミュニティの構築は長いあいだにわたり壮大な目標だったが、一方で漠然としたものでもあった。たとえば、サウザンドフェル(Thousand Fell)、メジュリ(Mejuri)、オーガスト(August)など一部の新興企業は、いわゆるブランドコミュニティを育成するため、ジェニーバ(Geneva)と呼ばれる新しいチャットツールに注目しつつある。ジェニーバは今年ベータ版から正式版になったばかりだが、D2Cの世界と多くの結びつきを持っている。同社の創業者であるジャスティン・ハウザー氏はシリアルアントレプレナーで、CBD飲料ブランドのレセス(Recess)の立ち上げにも携わった。ジェニーバは自社ウェブサイトで、自社のことを「グループ、クラブ、コミュニティ用の新しい、より整理されたコミュニケーションアプリ」と表現している。

対話のファシリテーターであること

その考え方は、商品のフィードバックから個人の健康上の問題点まで、あらゆることを話し合う熱心なファングループを育てることで、ブランドは競争力のある「堀」を作り上げることができる、というものだ。しかし、コミュニティ構築の取り組みについて過去にもっとも評価されたグロシエ(Glossier)アウトドアボイシズ(Outdoor Voices)などいくつかのD2C新興企業は財務的なトラブルに陥り、長期的なコミュニティを作り上げることがどれだけ変化の激しいものかを証明した。それでも、いくつかのブランドは自社のユーザーベースが十分な熱意を持ち、自社と行動をともにすると信じて、再度試みようとしている。

コミュニティと、単なる顧客のグループとを分ける境界線はあいまいなものだ。ジェニーバのコミュニティ責任者で、グロシエでもコミュニティ構築の取り組みを指揮していたキム・ジョンソン氏は、ブランドとそのフォロワーが双方向の対話を持てるような空間がコミュニティであると定義している。

同氏は次のように述べている。「真のコミュニティに必要なのは、対話の中心になることではなく、むしろ対話のファシリテーターになることだ。すなわち、特にブランドやクリエイターにとって、それは人々との密接な関係を作り上げると同時に、人々同士のつながりや関係性を作り上げることを意味する」。

宣伝による最新のマーケティング方針

コミュニティを作り上げるのは、D2Cブランドによって長年にわたり採用されてきた方針で、特にグロシエのようなブランドがこの方針を自社の立ち上げ戦略の中核に据え、広く人気になったことで注目されるようになった。美容ブランドである同社は、2015年の会社創設直後に、もっとも熱心な顧客を対象としたコミュニティのスラック(Slack)グループを開設した(そして、このコミュニティの管理をジョンソン氏が支援した)。

現在この用語が、D2Cブランドによってますます話し合われるようになってきているのには、いくつかの理由がある。まず、ジェニーバのように、D2Cブランドが顧客のためにチャットルームを構築できるツールが単純に増えていることだ。従来は、ほとんどのブランドはスラック(これは企業コミュニケーション用に設計されたツール)、Facebookグループ(Z世代の人々には好まれていない)、ディスコード(ユーザーベースを拡大するための努力がなされたにもかかわらず、筆者がインタビューした何人かの創業者は、このアプリがゲーマーに偏りすぎていると感じると述べた)を使用してきた。

ジェニーバは依然として小規模だ。同社はユーザー数を明かしておらず、「数百の」ブランドがジェニーバを使用していると述べるにとどまっている。ほかの新しいアプリと同様、同社もいずれ倒産したり、人気が急速に低下するリスクも存在する。たとえば、音声のみのチャットアプリであるクラブハウス(Clubhouse)はパンデミックの最中にブランドや創業者たちが集まる場所として急速に普及したが、ワクチンの接種開始のあとで人々が社会的な集まりを再開するようになってから使用量は先細りしはじめた

筆者がジェニーバを使用している創業者たちに話を聞いたところ、このツールのことを最初に知ったのは創業者仲間や投資家からだったそうで、ジェニーバの創業者チームがD2C新興企業の世界とつながりがあったことがうかがえる。そして、これらの創業者たちは、コミュニティを作り上げるためのツールとして、巨大企業のメタ(Meta)や、セールスフォース(Salesforce)に保有されているスラックではなく、自分たちと同じような新興企業を利用するという考えに共感した。

TikTok上のビジネスクリエイターで、D2C新興企業の戦略を解説することで7万4000人を超えるフォロワーを集めたダルマ・アルタン氏は、昨年のAppleによるiOS14のアップデート以降、各ブランドは新規の獲得および維持戦略に躍起になり、コミュニティの構築についてより多く語るようになっていると感じると述べた。

同氏は次のように述べている。「誰もが、いま何をすべきか、次に来る興味深いものは何か、を見つけようとしているようだ」。

アルタン氏は、「現在では、ブランドとして目立つために、何かもっと大きなものを代表する必要があり、そのような共有された価値観は、実際のコミュニティに変換することができると考えている」と付け加えている。同氏は、ブランドが大きな何かを代表しなければ、「人々が自社製品に抱いている共通の愛着によって、人々をチャットルームやディスコードに招き入れるのは困難だ。人々は、そのような話題について話して日々の時間を消費することに、十分な意義を見いださないだろう」と語っている。

正しいコミュニティ戦略を見つける

多くのD2C新興企業は、何か大きなものを代表していると主張することを好む。たとえば、トートバッグを販売するだけではなく、よりエコフレンドリーなライフスタイルへの入り口を提供しているのである。しかし、真にコミュニティ構築の戦略を中心として成長した企業というのは、その会社の製品以外の話題についても話し合うことを純粋に望んでいるようなフォロワーのグループを構築することができた企業のことだ。

その結果、コミュニティ構築戦略に適したカテゴリーやタイプの企業も存在する、筆者が対談したなかで、コミュニティ構築が最優先だと語った創業者の多くは、健康問題に取り組む企業の人々だった。これらの新興企業の創業者たちは、顧客の生活に影響するトピックについて常時顧客と対話するために時間を費やすことは、初期段階で顧客の関心を得るための重要な方法であり、自社の規模が拡大してもこの方針を続けていくことを望んでいると語る。

7月に創設されたばかりの月経関連の健康を取り扱う新興企業、ルーニー(Looni)の共同創業者であるチェルシー・レイランド氏も、8月にジェニーバでグループを立ち上げた。

「ルーニーは、私自身が子宮内膜症で苦しんだ経験から生まれたものだ。しかし、私はそれだけでなくほかにも慢性的な病気として、てんかんを抱えている」と、同氏は述べている。同氏は過去数年にわたって、このような不具合のいくつかを抱えている人々のため、ワッツアップ(WhatsApp)に各種のサポートグループを作り上げてきた。ひとつはてんかんを持つ女性向け、ひとつはてんかんを持つ子供がいる母親向け、もうひとつは妊活に特化したものだ。レイランド氏は、ルーニーの開設にあたって、特に後者のグループと多くの話し合いを持ち、最初の商品を「生理周期に関連する気分をサポートするための」サプリメントにしたと語っている。

ルーニーはジェニーバに「不妊に苦しんでいる女性」向けのグループを作った。ジェニーバ内ではグループを「ホーム」と呼び、それぞれの「ホーム」がさまざまなルームを作成できる。これは、スラックのグループが各種のチャンネルを作れるのと同じようなものだ。たとえばルーニーはジェニーバに、不妊治療や生理のサポートなど健康関連のトピックについて話し合う専門の各種ルームを作成した。ほかにも、「ルーニーテューンズ(Looni Tunes)」などのチャンネルでは、メンバーが音楽など個人の趣味について話し合うことができる。最後に、ルーニーはパイロットテスティング(Pilot Testing)というルームも保有しており、ここではメンバーが同社から発売される前の商品をテストし、フィードバックを共有できる。

ルーニーの継続的な課題のひとつは、コミュニティグループの構築をめざしているほかのブランドと同様に、ビジネスに関連する話し合いをどの程度促進するかを見いだすことだ。「正直なところ、この部分には非常に心を砕いてきた」と、レイモンド氏は語った。現在のところ、どのルームがルーニーとその商品についての話し合い用で、どのルームがメンバー相互の個人的なチャット用なのかを明確にすることが、対話をうまく促進するための適切な方法だと同氏は考えている。

アルタン氏は、ブランドがコミュニティを構築するときに陥りがちな誤りのひとつは、割り当てるリソースが少なすぎることだと語る。コミュニティ構築を正しく行えば、ブランドは「熱心なファンとの関係を深める」ことが可能だ。すなわち、そのブランドのコミュニティは、たとえばインスタグラムのフォロワーより規模が小さいだろうが、特に熱心なファンたちが四六時中互いにチャットし合う場所になるだろう。このためには、新興企業がコミュニティリーダーを割り当て、毎日話し合いの調整を行うことが必要な場合がある。「新興ブランドに、これを行うための余力があるとは限らない」と、アルタン氏は述べる。そして、コミュニティが大きくなると、ブランドで管理が困難になる可能性もある。

売上を生み出すのが目的ではない

生理ケアブランドのオーガスト(August)は、ジェニーバを最初に使いはじめたブランドのひとつで、このアプリ、そしてより広範なコミュニティ形成への取り組みが、今後のブランドのロードマップにどのように適合するかについて、青写真を示している。共同創業者のナディア・オカモト氏は、同氏の会社が創設されるよりも早く、ジェニーバにグループを開設したと語る。オカモト氏と同氏の共同創業者は、生理ケア分野の会社を立ち上げたいと考えていたが、どのような種類の生理ケア用品が求められているかを明らかにするため、まず人々のグループを集める必要があった。

「生理についての話をするためには、より深いレベルのコミュニティが必要だと、私は考えている。そして、生理に関してはあまり話し合わない風潮があるため、人々が本当に求めているものを正直に話してもらうには、強い信頼を得る必要がある」と、オカモト氏は述べている。

オーガストは現在、ジェニーバのグループに3000人を超えるメンバーを抱えている。オカモト氏は、同社がプレシードラウンドの資金調達に踏み切った際、そのことが同社をけん引するひとつの要素になったと語っている。指摘できたトラクションのひとつがこの点だったと、ビジネスオブファッション(Business of Fashion)に語った。オーガストはルーニーと同様に、交際関係やデート、腹痛や食欲、セルフケアなど、さまざまな個人的なトピックについてメンバーが話し合うため、さまざまなルームを設置している。また、「オーガスト・タウンホール(August Town Hall)」や「アスク・オーガスト(Ask August)」など、ビジネスに関する議論専用のチャンネルも存在する。

オカモト氏は、オーガストがジェニーバのグループから何人かの従業員を採用しており、将来的にはメンバーの一部をマーケティングキャンペーンに取り上げたいと語る。しかし全体としては、このグループに厳格なKPIを結びつけることはせず、コミュニティの目標は売上を生み出すことではないと断っている。

「もし、マーケティングセールスの観点からこのコミュニティを評価するなら、これはブランドのファンダムや、ブランドへの熱意などを育成するものだ」と、オカモト氏は述べている。

[原文: DTC Briefing: Why community building has become such a hot topic for startups ]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Geneva

Source

タイトルとURLをコピーしました