eスポーツ への 広告投資 なら、「格闘ゲーム」を検討すべき

DIGIDAY

パンダ・グローバル(Panda Global)、ゴールデン・ガーディアンズ(Golden Guardians)などのeスポーツ組織はファンエンゲージメントを生み出し、ブランドパートナーシップを確保するため、格闘ゲームコミュニティとの関係を活用している。パンダ・グローバルは2015年の設立からずっと、ゴールデン・ガーディアンズは2020年に「大乱闘スマッシュブラザーズ」のプレイヤーと契約してから、格闘ゲームコミュニティに関与してきた。強力なブランドアイデンティティを確立したいeスポーツ組織にとって、格闘ゲームは未開拓の肥沃(ひよく)な大地なのだ。

「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」「カウンターストライク: グローバル・オフェンシブ(Counter-Strike: Global Offensive)」といったトップレベルのゲームからすれば、カラフルなアバターを1対1で対戦させる格闘ゲームはニッチな存在だ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが到来する前、最後に開催された世界規模の格闘ゲームコミュニティ(fighting game community:以下、FGC)選手権であるエボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ(Evolution Championship Series:以下、Evo)2019は、ピーク時の視聴者数が24万5000人強で、同年のリーグ・オブ・レジェンドのワールド・チャンピオンシップ(World Championship)に比べると、小さな数字に見える。

こうした状況にあっても、FGCで存在感を示しているeスポーツ組織は一貫して、格闘ゲームプレイヤーの熱狂的なファンから桁外れのエンゲージメントを獲得している。ゴールデン・ガーディアンズの親会社であるゴールデン・ステート・ウォリアーズ(Golden State Warriors)の業務責任者ダニエル・ビエリー氏が引き出したデータによれば、「大乱闘スマッシュブラザーズDX」に特化したゴールデン・ガーディアンズのYouTubeチャンネルは2021年半ばの時点で、100シーブス(100 Thieves)、チーム・リキッド(Team Liquid)といったリーグ・オブ・レジェンドの主要団体より再生回数が上回っていた。

ゴールデン・ガーディアンズのソーシャルメディアコーディネーターを務めるジュリアン・パリアッチョ氏は「最前線で毎日ファンの反応を見ている身として、我々がどれだけ歓迎されているかについて、言葉では言い尽くせない」と話す。

主なポイント

  • 現代の格闘ゲームは1987年、「ストリートファイター」の発売から始まり、「ギルティギア」「マーベル・バーサス・カプコン」「鉄拳」「モータルコンバット」などの長寿シリーズが存在する。2人のプレイヤーが1画面で対戦すること、技を連続させる「コンボ」が共通点だ。世界でもっとも人気が高い格闘ゲームは、任天堂の大乱闘スマッシュブラザーズだ。ユーガブ(YouGov)が2021年に実施した調査によれば、筋金入りのeスポーツファンの14%がこのゲームの競技シーンをフォローしている。これはどの格闘ゲームより多い数字だ。パンダ・グローバルのタレント業務を統括するジョシュ・マーコット氏は「はっきりさせておこう。私が格闘ゲームと言ったら、スマッシュは必ず含まれる」と述べている。
  • ゴールデン・ガーディアンズは2021年4月にスマッシュのタレントと契約してから、スマッシュのコミュニティに定着するため、コンテンツとソーシャルメディアの活動を強化し、大成功を収めている。ゲームとeスポーツを専門とするデータプラットフォームGEEIQによれば、ゴールデン・ガーディアンズのソーシャルメディアのフォロワー数はこの6カ月で100万以上も増加している。ゴールデン・ガーディアンズが契約したプレイヤーたちも、チームのソーシャルチャネルに関連性の高いオーガニックなコンテンツを絶えず供給し、この成長に拍車を掛けている。「スマッシュDXのプレイヤーがこの空間で成功するには、コンテンツの制作、ストリーミング、好感度などが必要であることは明らかだ」とパリアッチョ氏は話す。「リーグ・オブ・レジェンドのようなゲームでは、腕を磨くことにすべての時間を使えば、才能だけで成功できるが、スマッシュDXの場合、どれだけ結果を出しても、コンテンツの方が重視される状況は変わらない」
  • FGCの主要なeスポーツ組織になることは、パンダ・グローバルにとって、当初からゲームプランの一部だった。そのニッチな視点はブランドパートナーシップの確保につながっている。「パッケージの一部だと思っている。これらのコミュニティで権威と見なされていることを伝えなければ、私たちのような組織は自分を売り込むことさえできない」とマーコット氏は話す。ガイコ(GEICO)、ハイパーX(HyperX)といったブランドに加えて、2021年に任天堂と前例のないパートナーシップを結ぶことができたのも、このような本物のブランドアイデンティティがあるためだとマーコット氏は考えている。
  • 格闘ゲームは前途有望だ。ライアットゲームズ(Riot Games)は現在、プロジェクトL(Project L)というコードネームを持つ独自の格闘ゲームを開発している。この数カ月、「ヴァロラント(Valorant)」のシーンは爆発的な盛り上がりを見せている。これが何かを示唆しているとしたら、ライアットの格闘ゲームもおそらく、発売直後から競技シーンが盛り上がるだろう。FGCが長年育んできた草の根コミュニティにライアットの後方支援と金銭的支援が加われば、大きな力が生まれることは確実だ。

小さいが、長く続く投資効果

格闘ゲームは、eスポーツ組織が新しいファンを獲得するのに有効なだけではない。投資額も比較的低く抑えることができる。「スマッシュDXは自給自足が進んでいるため、契約のROI(投資対効果)が高い傾向にある」とパリアッチョ氏は話す。「リーグ・オブ・レジェンドのようなゲームでは、5人以上のプレイヤー、コーチ、アナリストなど、すべてを用意しなければ始めることさえできない。スマッシュDXの場合、1人の有望なタレントと契約すれば、それだけで有利なスタートを切ることができる。歴史を振り返ってみても、TSMのレフェン(Leffen)、10年前のように感じられるが、クラウド9(Cloud9)のマンゴー(Mang0)など、上位プレイヤーと契約したチームには素晴らしい反響がある」。

格闘ゲームの競技シーンは比較的小さいものの、有名だが企業化しているeスポーツリーグより、eスポーツ組織の長期投資に適していると考える専門家もいる。フリーのeスポーツキャスター兼トーナメント主催者で、Twitch(ツイッチ)のパートナーシップリーダーとeスポーツプログラムマネージャーを務めた経歴を持つアリアン・ファシエ氏は「違いを度外視して比較すると、eスポーツへの投資では、スマッシュとFGCが間違いなく最高だと思う。すべてのeスポーツチームに最低1人のスマッシュプレイヤーがいるべきで、少なくとも年間10万~20万ドル(約1000万〜2000万円)をスマッシュに投じるべきだ。そうしないのはバカげている」と断言する。「数字がすべてを物語っている。チーム・リキッドでもっとも視聴されているストリーマーはハングリーボックスだ。スマッシュのプレイヤーは数字を稼ぐことができる」。

集客力

スマッシュとFGCは視聴者を獲得できるだけでなく、ライブイベントに多くのプレイヤーを集めることができる。伝統的に、格闘ゲームのネットプレイツールはレベルが低いため、プレイヤーはトーナメントに足を運び、対戦することになじんでいる。ラスベガスで開催されたEvo 2019には、約9000人のプレイヤーが集結した。同じ年、ダラス・フューエル(Dallas Fuel)の「本拠地」でオーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)が開催されたが、1日当たりの動員数は約半分だった。「一般的に、ブランドはライブイベントが大好きだ」とファシエ氏は話す。「マーケティング担当バイスプレジデントをイベントに連れて行くと、『目の前に2000人もいる』という反応を示す。スタジオ番組に連れて行き、『信じてほしい。オンラインで視聴している人々がいるから』というより、目の前に本物がいた方が信じてくれる」。

ライブイベントの秘訣を得たいほかのeスポーツは、FGCからヒントを得るのが賢明かもしれない。「私たちはいつもスマッシュのイベントにモッダーやアーティストを呼んでいる。アーティストとその作品がずらりと並ぶ風景は、FGCでもおなじみのものだ」とマーコット氏は語る。「CEO、コンボ・ブレーカー(Combo Breaker)、スマッシュ・コン(Smash Con)など、私たちはコンベンションの機能を持つトーナメントを開催してきた」。

風向き

格闘ゲームシーンは多くの意味で、eスポーツ業界の広範なトレンドを先導する役割を果たしてきた。アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)、ライアットといったゲーム開発企業から切り離されたFGCのキャスターやコメンテーターが無修正のスタイルを築き上げ、ルートヴィヒ・アーグレン氏のようなストリーマーが主流の仲間入りを果たすまでになった。「一般的に、FGCやスマッシュのコメンテーターは自分の言いたいことを自由に発言している」とファシエ氏は話す。アーグレン氏はスマッシュシーンに特化したストリーマーとしてスタートしたが、Twitchでもっとも登録者の多いクリエイターになり、2021年、YouTubeと専属契約を結んだ。「もちろん、アーグレン氏はスマッシュDX出身だ」とマーコット氏は語る。「私たちは彼をスマッシュDXコミュニティの一員だと思っている」。

また、eスポーツ全体から見ると、格闘ゲームシーンは多様性に富んでいる。ほかのeスポーツコミュニティと異なり、高性能なPCではなくゲーム機で遊ぶことができ、社会経済的な障壁が低いことが一因だ。eスポーツ組織とゲーム開発企業が有害な労働環境や多様性に欠ける労働力で非難を浴びるなか、FGCのような歴史的に多様なeスポーツシーンと関われば、競技ゲーマーにリーチしたいブランドの利益になるだろう。

「富裕層から中間層に偏っているeスポーツもあるが、FGCは有色人種や低所得層も多く、実に幅広い層が参加している」とマーコット氏は話す。「平均すると、FGCは人類の広範囲に及ぶのではないだろうか」。

[原文:The Rundown: Why fighting games are an underutilized resource for esports-minded brands and their partners

ALEXANDER LEE(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU

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