変わりつつある米 メディア企業 のニューヨーク不動産事情: 次世代の働き方が与える影響とは

DIGIDAY

いまもフレックス勤務やリモート勤務を継続しているメディア企業は、ニューヨークのような賃料の高い立地を中心に、使われていないオフィススペースの見直しを進めている。実際、このような立地にオフィスを構えるメディア企業は少なくない。

ハイブリッド勤務への移行や現在の不安定な経済状況を背景に、一部のメディア企業は削減すべき無駄な経費として不動産に目を向けている。たとえば、ワーナーメディア(Warner Media)とBuzzFeed(バズフィード)は、すでに数十万平方フィートにおよぶオフィススペースを転貸しており、ボックスメディア(Vox Media)も未使用スペースの整理縮小を検討している。一方、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のように、従業員にオフィス勤務への復帰を強く要請するパブリッシャーも現れており、メディア企業の不動産事情は秋に入っても落ち着きそうにない。

コスト削減として不動産に着目する企業たち

不動産会社のサヴィルズ(Savills)で北東地域調査部門のシニアディレクターを務めるマリシャ・クリントン氏によると、現在ワーナーブラザースディスカバリー(Warner Bros. Discovery)の傘下にあるワーナーメディアは、マンハッタンのミッドタウンにそびえ立つ30ハドソンヤーズ内にオフィスを構えるが、前四半期に同オフィスビル内の入居面積のうち、約45万平方フィートをサブリース(転貸)に出した。

一方、米DIGIDAYが入手したマンハッタンのサブリース市場に関するサヴィルズの報告書によると、フィナンシャルディストリクト(金融街)のオフィスビルに入居するドットダッシュメレディス(Dotdash Meredith)も、今年第1四半期に30万平方フィート超のオフィススペースをサブリースに出した。ドットダッシュメレディスの広報担当者は、「同スペースは2020年からサブリース市場で転貸先を募集しているが、いまもテナントは見つからず、昨年の合併を機に再度募集を出すことになった」と説明している。

なお、ワーナーブラザースディスカバリーにコメントを求めたが、本記事公開までに返答はなかった。

BuzzFeedは昨年12月にコンプレックスネットワークス(Complex Networks)を買収して以降、両社がニューヨークに構える2カ所分のオフィス賃料を支払っていたが、先月、マンハッタン18丁目の同社オフィスを、業務管理ソフトウェアを提供するMonday.com(マンデードットコム)にサブリースした(この契約でサヴィルズはMonday.comの代理人を務めている)。これに伴い、BuzzFeedは43丁目にあるコンプレックスのオフィスに本社を移し、同社のニューヨークオフィスの面積は事実上半減することになった。ちなみに、43丁目のオフィスの面積は10万7000平方フィート、18丁目の物件は11万平方フィートとなっている。

一方、ボックスメディアは今後数ヶ月のうちにオフィススペースを再編したいとしている。現在、同社はニューヨークに3つ、ロサンゼルスに2つ、ワシントンDCとサンフランシスコにそれぞれ1つのオフィスを置いているが、今年1月からワシントンDCのオフィスの11階部分をサブリースしている。

同社の広報担当者は「秋までに必要なオフィススペースの詳細を把握し、有効に活用されていないスペースについて見直しを行う予定だ」と話すが、計画の詳しい内容については明らかにされなかった。

メディア企業が不動産を整理する背景

クリントン氏によると、フォーチュン500社のリストに載るような大企業の場合、オフィス賃料は営業予算総額の最大5%を占めるという。

北米サヴィルズでエグゼクティブマネジングディレクターを務めるニコラス・ファーマキス氏は、「オフィス賃料は企業にとって削減しやすい経費だ」と指摘する。また、苦境にあえぐ企業がコスト削減の一環で不動産を整理する際、ハイブリッド勤務は格好の口実になるとも述べている。

ハイブリッド勤務は「企業にとって体面を保つためのちょっとした隠れ蓑になる」と、ファーマキス氏は話す。「自分たちは従業員に優しい、最先端の企業だというアピールになる。またとないPRの機会だ」。

調査会社のガートナー(Gartner)の調べによると、7月現在、このさき12ヶ月に予算削減の対象になる可能性がもっとも高い費目のひとつが不動産であるという。また、職場の座席や会議室の予約管理ツールを提供するロビン(Robin)が先月出した報告書によると、「2023年に現在のオフィススペースを半分以下に縮小する予定がある」と回答したワークスペースの管理責任者は59%にのぼる。同様に、「現在、利用可能なオフィス面積の利用率が半分もしくはそれ以下」と回答した企業は46%に達した。

不動産会社のコリアーズ(Colliers)の調べによると、今年、マンハッタンのオフィス空室率は17%前後で推移している。その反面、同社の8月の報告書を見る限り、8月にマンハッタンで締結された賃貸契約件数は前月7月と比べて7.8%、前年比では39.5%増加しており、同地区の月間契約数としては2020年1月以来もっとも好調な数字を記録した。

サヴィルズのクリントン氏によると、2022年の上半期にメディア企業がサブリース契約を結んだオフィススペースは延べ41万平方フィートにのぼる。2021年の上半期は約13万平方フィートだった。

従業員はオフィススペースの縮小によるコスト削減を歓迎

コロナ禍以前なら、勤務先をユニオンスクエアからミッドタウンに変えろといわれただけで、一部のニューヨーカーは不満の声を上げただろう。しかし、BuzzFeedはハイブリッド勤務をいまも認めており、従業員はニューヨークのオフィスに出勤する必要は必ずしもない。BuzzFeedで働くある編集者は、匿名を条件にこう語っている。「オフィスが移転しても、出社に対する私の気持ちは変わらない。今後もリモート中心で働くつもりだ」。

この編集者は、移転後の旧オフィスを転貸し、賃料を稼ぐのは悪くない考えだと述べている。Monday.comがBuzzFeedに支払う賃料は月額75万7000ドル(約1億円)だ。ただし、BuzzFeedはこの賃料収入がコスト削減につながる理由や、その使い道については明らかにしていない。

「旧オフィスを手放すことで、会社の財政が安定するなら大賛成だ」とこの編集者は語っている。

ボックスメディアもハイブリッド勤務を継続している。同社の広報担当者によると、自主的に出社する従業員もおり、特定のオフィスでチーム別のデスクを割り当てられることもあれば、ホテルの部屋を予約するように、任意のオフィスでデスクを予約して使うこともできるという。

ボックスメディアに所属するあるジャーナリストに、未使用のオフィススペースを整理するという同社の計画について訊ねたところ、匿名を条件に、「オフィススペースの縮小は当然だ」という答えが返された。「曜日にかかわらず、出社する従業員が大幅に減るなら、広いオフィスの賃料を負担しつづけたいとは思わないだろう」。

サヴィルズのクリントン氏とファーマキス氏は、メディア企業の不動産事情はレイバーデー(米国の「勤労者の日」)の祝日明けにはより明らかになると見ている。この日を機に、オフィス勤務の再開計画を次の段階に進める企業が増えるためだ。たとえば、伝えられるところによると、ニューヨーク・タイムズの経営陣はこの7月、従業員に対して9月12日までにオフィス勤務を再開するよう通告したという。

クリントン氏いわく、「オフィス勤務再開の方針により、不動産に関する企業の意思決定に拍車がかかるだろう」。

[原文:Media companies downsize office spaces in NYC

Sara Guaglione(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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