エリザベス女王 崩御に対するブランドの反応、その真意は:追悼投稿ラッシュの裏側

DIGIDAY

世の中何が起ころうと、ひとつだけ確かなことがある。どのような状況においても、マーケターはそこに自社ブランドを絡ませる方法を必ず見つけ出すということだ。

それゆえ、9月8日にエリザベス女王2世が亡くなったときに追悼投稿ラッシュがあったのは、特段驚くようなことではない。だが、即座に追悼投稿を用意できるからといって、必ずしもそれを実際に投稿すべきだということにはならないだろう。

世の中の動きにはリアルタイムに反応すべき?

ドミノ・ピザ(Domino’s Pizza)やピザ・エクスプレス(Pizza Express)が女王について何を語るのかを、人々が固唾をのんで待っていたわけではない。ソーセージロールのグレッグス(Greggs)や全品1ポンド(約160円)の低価格コンビニチェーンのポンドランド(Poundland)など、厳粛な文言に(ときに)それが適切なのか疑問に思うようなイラストを添えた急ごしらえの投稿をした無数の企業についても同じことがいえる。

イルク・エージェンシー(ilk Agency)のマネージングディレクター、ネブ・リドリー氏は次のように話す。「ロゴをモノクロにするなど、シンプルな弔意の表明が国際的な物議を醸す可能性は低い。その一方で、今回のような歴史的な出来事では、どのブランドがTwitterのヘッダー画像を配慮を感じさせるものに新しくアップロードしたのか、どのブランドがしばらくの、あいだ活動を停止したかを顧客は覚えていないだろう」。

とはいうものの、この歴史的な瞬間の一部になりたいと願うマーケターを、誰が非難できようか。2013年にオレオ(Oreo)が発信したツイートがスーパーボウルのお祭り騒ぎのなかでひとり目立ちすることに成功して以来、ニュース機関と同じように、マーケターも世の中の出来事にリアルタイムに反応すべきだというのが定石になった。

そうすることで、彼らが極めて大切にするフォロワーとのつながりがよりいっそう深くなる、という理屈である。マーケターたちはこれを熱心に信奉した。それは必要以上の熱心さだったかもしれない。以来、成功を収めた発信の裏には、うまく行かなかった発信が数えきれないほどあるからだ。さらに、反応型マーケティングの成功例は、悲劇とは無縁のものである。

企業はバランスをとるのに苦戦

「追悼投稿が『マーケティング』として捉えられかねないという事実を考えただけでも、これがどれほど悪趣味に見られる可能性があるかが十分にわかる」と語るのは、メディアエージェンシーのセブンスターズ(the7stars)のビッグ・テック・アクティベーション責任者、アダム・チャッグ氏だ。「ブランドは、多くのことに関して誰も彼らの意見を聞きたいとは思っていない、ということを忘れがちだ。今回のように重要な公人が死去した際でも控えめに言及する程度、というのがぎりぎりの線で、それもおそらくは本当に関係がある場合(公共サービスと関連のあるブランドなど)に限られるだろう」。

いくつか例証を挙げるとするならば、ブリティッシュ・ケバブ・アワード(The British Kebab Awards)、プレイモービル(Playmobil)、アン・サマーズ(Ann Summers)のアカウントから発信された追悼メッセージに対する反応を見るといい。戸惑い、皮肉、いら立ち。英国が喪に服すなか、マーケターたちは明らかに空気を読めていなかった。

ブランドテック・グループ(The Brandtech Group)のインフルエンサーマーケティングテクノロジー企業であるコレクティブリー(Collectively)の最高イノベーション責任者を務めるナタリー・シルバースタイン氏は「重要な時期に何も発信しなかったとして非難される可能性と、あらゆる話題に首を突っ込んでわずらわしく思われてしまうこととのバランスをとろうとしている広報・ソーシャルメディア担当マネージャーたちに同情する」という。

注意を促すエージェンシー幹部

このような落とし穴を用心してか、一部のエージェンシー幹部はクライアントに慎重を期すべきと助言する。

ヴェイナーメディア(VaynerMedia)のEMEA地域担当マネージングディレクター、デイジー・ドメンギーニ氏は「最終的にはブランドセーフティや適切性に関する社内規程に従いつつも、活動を24時間から48時間停止して経緯を見守るか、責任ある丁重な姿勢で積極的に対応するかのどちらかにすべきとクライアントに提言しているところだ」と話す。

イルク・エージェンシーのリドリー氏もこの点について説明を加えた。「公共部門の大手クライアントまたは女王に直接関係のある組織を代表する場合を除いては、単に一時休止すべきと助言することが多い。感情的になりやすい状況では、誤った対応のほうが、何もしなかった場合よりコストが必ず高くなる」。

本来のマーケターの役目とは

最高にうまくいっている場合、リアルタイムマーケティングでは、変わりつつある状況に対しデータに基づいて即座に反応を変えることができる。ダイレクト・デジタル・ホールディングス(Direct Digital Holdings)傘下の需要創出・デジタル広告企業オレンジ・ワン・フォーティーツー(Orange142)のCEO、ロス・ラモン氏は「天気がとても良い例だ。屋外が暑くなったら、マーケターは冷えたドリンクの広告を投稿する」といいながら、「だが、世界的に大きな出来事となると、ブランド側も行動を起こす前にひと呼吸ふた呼吸置くべきだ」と述べた。

確かに、言うは易しである。リドリー氏は、多くのマーケターにとって自分のブランドが宇宙の中心にある、と指摘する。最も大きくて重要な声を持ち、当然、最も優先されるべきものだ。だが、より大きなビジネスの全体像に目を配るのがマーケターの役目である。ときには会話に参加しなくてもいい。聞き耳を立て、じっくり考えてもいい。そして、今のような時にはそうすべきなのだ、とリドリー氏は語った。

[原文:Brands’ reactions to Queen’s death call into question the authenticity of their messages

Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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