2022年8月最終週、Netflixがスナップ(Snap)から広告営業トップの2人――ジェレミー・ゴーマン氏とピーター・ネイラー氏――を引き抜いたというニュースは、CTV関連ニュースの見出しを独占した。米DIGIDAYでもこの話題を取り上げている。
しかし、9月以降の第3四半期から第4四半期のスキャターマーケット(アップフロントでの売れ残りを取り扱う)の軟調さと、それがNetflixの新サービスや、ほかのリニアTV向けおよびCTV/ストリーミング向けのインベントリにどう影響するかについては、スナップからの役員引き抜きよりはるかに大きな話題だ。これらは(公言こそされていないが)複数のメディアバイヤーとの会話から明らかになったものだ。
混乱状態にある動画広告市場
一言で言えば、動画市場の広告価格はいくつかの理由からかなり軟調だ。ひとつには、バイヤーによると、一部のクライアントがいくつかのアップフロントでのオーダーをキャンセルしている。つまり、購入予約をした時間を売り手に返し始めているというものだ。もうひとつは、11月1日のNetflixの広告付きプラン開始と12月のディズニープラス(Disney+)による広告付きプランの開始に伴い、マーケットプレイスで利用可能な広告インベントリーが供給過剰になっていて、今後数カ月でさらに利用可能になるインベントリーが増えそうだということだ。
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ある大手メディアバイヤーは、「いま、大きな動きは第4四半期に集中している」と指摘する一方で、利用できるインベントリがもっとも少ないリニアTV(放送およびケーブルネットワーク)に多くの広告費を支出するよう求める、やや時代遅れのモデルにクライアントは依然として依存していると語る。
別の大手バイヤーは次のように話す。「CTVやストリーミングへの供給が増え、それに伴いリニアTVへの供給が減っている。クライアントもいずれリニアの供給から離れるはずだが、スピードが伴っていない。我々は、クライアントに対して支出先を切り替えるように、そして消費者の動向に従うよう訴え続けている。市場ミックス・モデルでケーブルTVが有効だと言われるからというだけで、リニアケーブルTVに必要以上の支出をし続けている。いまは少し混乱状態になっていると言える」。
さらに別のバイヤーによると、ストリーミングサービスは広告ボリュームが減少するのを防ぐため、有利な価格でインベントリを提供することを検討しているという。ほとんどの取引は「横ばいか、(アップフロントの価格設定から)1~2%下がっている」と、このバイヤーは付け加える。
状況が悪化しているストリーミング市場
別のバイヤーは、広告を販売するためのリニアとストリーミングの両方のアセットを持つハイブリッドプレイヤーは、デジタルのみのストリーマーよりも有利な立場にあると指摘する。一方、デジタル専門のプレイヤーには交渉の余地があまりない。
「デジタルファーストの企業で、基本的にデジタル製品しか提供していない場合、一定以上の広告ボリュームを得るのは現状難しい。そして、そのボリュームを得るための唯一の方法は、価格でのインセンティブを提供することだ」とバイヤーは述べる。「たとえば、YouTubeのような企業は、毎年30~40%の成長を続けてきた。そんなことは、いまはあり得ない」(YouTubeは2022年第2四半期に成長が劇的に鈍化し、アナリストの予想を下回る4.8%という比較的弱い数字となった。その時、親会社アルファベット[Alphabet]のCFOであるルース・ポラット氏は、YouTubeが「一部の広告主による支出の引き揚げ」を経験していると語った)。
つまり、デジタル専門のプレイヤーであるNetflixが参入している市場は、そういうところだ。そしてNetflixは、その広告販売パートナーであるMicrosoftおよびザンダー(Xandr)によるメディアバイイング・コミュニティへの最初のアプローチが無秩序と受け止められ、しかも広告付きプランで利用できるコンテンツの詳細をほとんど提供しないことで、自らの課題をさらに悪化させている。
あるバイヤーは次のように説明する。「彼らはとにかく混乱している。彼らは我々に対し、コンテンツを秒単位で分類するという、いくつかの魅力的な言葉を口にしていた。私は、いつになったらカテゴリーリストを送ってくれるのか、と問い合わせた。Netflixである以上、銃の存在、ドラッグの存在、ヌードの存在、汚い言葉などを説明するリストを予想しているが(中略)最大のヒット作は、『オザークへようこそ(Ozark)』や『ピーキー・ブラインダーズ(Peaky Blinders)』などもっとも暴力的な作品だ。彼らは基本的に、我々にトップ10とジャンルのターゲティングを提供するだけで、年齢や性別、人口統計的なターゲティングはできない」。
プラスとマイナスの整理
とはいえ、コンテンツの魅力と、視聴者がリニアTVやケーブルTVよりもストリーミングの視聴に多くの時間を費やしているという現実を考えれば、Netflixとディズニープラスを買いたいという需要はあるだろう。バイヤーは、クライアントにとってのプラス面とマイナス面を整理し、クライアントに判断してほしいと言う必要がある。
つまり、この軟弱な市場で65ドル(約9300円)のCPMを要求されても、この市場では間違いなくそれは下がるだろう。コストに関するこのニュースは、Netflixを揶揄するミームの一群を生み出している。
あるバイヤーはこう言った。「我々が行っていることは、ほかに説明する言葉を思いつかないのだが、比較の場を作り、事実を提示することだ。その上でクライアントがエンゲージしたいと思えば、彼らはそうすることができ、我々は、可能な限り最高の価格を交渉することになる」。
[原文:Media Buying Briefing: Digital-only video players will struggle to get price increases in Q4]
Michael Bürgi(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)