夏の終わりに、買収のニュースがいくつか滑り込んできた。コックス・エンタープライズ(Cox Enterprises)がアクシオス(Axios)を5億2500万ドル(約682億5000万円)で、タイムがソフトウェアライセンス事業のブランドキャスト(Brandcast)を非公開の金額で買収したのだ。
2021年のM&A合戦を思い出し、ふと思った。2022年が終わるまでに、ほかにどのようなメディア企業が合併するだろうか。
第一報が出る前に次のM&Aを予測すべく、筆者がメディア企業のマッチングを試みた結果を以下にお伝えする。
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メディア企業マッチング
- BDGとバイス・メディア(Vice Media)は新たな買い手を探しているが、一番良いのはこの2社の合併かもしれない。
- 億万長者ジェフ・ベゾス氏はフォーブス(Forbes)にとって素晴らしい新オーナーになる可能性がある。
- タイム(Time)の仮想通貨熱はまだ終わっていない。
1.BDG-バイス・メディア
2021年、BDGとバイス・メディアはどちらもSPAC(特別目的買収会社)による上場をほのめかしていたが、SPACを巡るBuzzFeedの大失態を見て思いとどまったのか、それとも単に投資資金を十分にかき集めることができなかったのか、両社ともその話は立ち消えになった。だが、この2社がいまもほかのメディア企業との提携や、さらには完全買収を探っていたとしても、誰も驚かないだろう。ならばいっそのこと、2社が合併すればいいのではないだろうか。
オーディエンス的には、年齢層とコンテンツのカテゴリーの路線はほぼ同じ。バイス・メディアはリファイナリー29(Refinery29)を買収しているが、それはバイス・メディアがもっと女性中心のオーディエンスを求めていたことを示しており、そういう意味ではBDGのライフスタイルグループはちょうどよい受け皿になるだろう。その一方、バイス・メディアのi-DとBDGのWマガジン(W Mag)は、BDGが2020年にWマガジンを買収して以来取り組んでいるラグジュアリー系の広告主獲得でお互いを補完できる。
BDGのカルチャー&イノベーションのポートフォリオにはゴーカー(Gawker)、マイク(Mic)、インバース(Inverse)、インプット(Input)が名を連ねているが、バイス・メディア、そしてそのサブブランドのマンチーズ(Munchies)とマザーボード(Motherboard)は、機会さえ与えられれば容易にこのグループの看板タイトルになることができるだろう。BDGとしては目下のところニュース報道は眼中にないとしても、バイス・ニュース(Vice News)はニュース・カテゴリー進出の足掛かりになるし、ソーシャルメディア戦略と動画コンテンツ構築の主軸ともなることができる。
リファイナリー29が各地を巡って開催する「29 Rooms」は、バイス・メディアのイベント事業で重要な位置付けを占めるが、BDGのライブイベント収益化の試みがこれまで主にスポンサー収入に頼っていたことを考えれば、「29 Rooms」のチケット収入はメリットが大きいかもしれない。
理論上は、この2つのブランドは相性が良いように見える。バイス・メディアの動画のIPライセンスとBDGの子育てカテゴリーなど、相手にはない収益源をお互いに持ち寄ることもできる。だが、どちらも買収を望むこの2つのパブリッシャーは、新しい親会社を探す代わりに合併するという道を受け入れるだろうか。
2.ワシントン・ポスト(The Washington Post)-フォーブス
ワシントン・ポストが2013年に億万長者のジェフ・ベゾス氏に買収されたのは有名な話だが、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の報道によると、この1年は荒波に直面しているという。そこで、厳しい時に頼れる兄弟分をベゾス氏に買収してもらい、デジタル広告収入の減少(2022年上半期は前年同期比15%減)と有料デジタル購読者数の落ち込み(現時点で300万人を下回る)を埋め合わせる、というのはどうだろう。その時々のニュースによって広告収入に影響が及ぶことを避けようと、ニューヨーク・タイムズがアスレティック(The Athletic)を買収したのと同じ理屈だ。
実際、ニューヨーク・タイムズは2022年9月第1週に、ワシントン・ポストの経営に詳しい筋の話として、同社の首脳陣が過去にAP通信(Associated Press)、エコノミスト(The Economist)、ガーディアン(The Guardian)の買収を考えていたらしいと報じたが、個人的にはワシントン・ポストはニュースの世界の外を探ったほうがいいのではないかと思う。
8月初めに、ニューヨーク・タイムズはフォーブスもSPAC計画を放棄したあと、売却先を探していると報じた。フォーブスの売却価格は少なくとも6億3000万ドル(約819億円)になる。同社の2021年の売上は2億ドル(約260億円)を超え、利益は4000万ドル(約52億円)以上に上る。
ニューヨーク・タイムズにとってのアスレティックのように、フォーブスも、ニュース中心のワシントン・ポストのデジタル広告収入の安定化を助けることができる。つまり、特別にやっかいなニュースによってメディアバイヤーの禁止キーワードが多くなってしまった場合でも、フォーブスの特集中心の雑誌的な報道なら、広告収入を丸々失うことはないだろう。
少なくとも、金銭と富に関するあらゆる話題を報じるのがフォーブスだし、ベゾス氏以上に自身の億万長者ぶりと際限のない財を大っぴらに祝う人がいるだろうか。
3.タイムはブロックチェーンを追求
タイムは2022年9月第1週に買収を発表した。これは、2018年にマーク・ベニオフ氏とその妻のリン・ベニオフ氏の所有下に入って以降初めてだ。買収するのはソフトウェアライセンス事業を行う企業のブランドキャスト。そのウェブサイト構築プラットフォーム名称をTime Sitesに変えたブランドキャストは、以前からタイムにとって兄弟分のようなものだった。マーク・ベニオフ氏が同社の初期投資家であったからで、その縁でタイムの経営幹部がブランドキャストを知るようになったとアクシオスは報じている。となると気になるのは、ベニオフ氏の投資先で次にタイムに買収される企業はどこだろう、ということだ。
個人的には、次にタイムの買収が向かうのは仮想通貨だと思う。タイムは元来仮想通貨と関係の深いパブリッシャーではないにもかかわらず、ここ1年はブロックチェーンの試みや各種NFTプロジェクトをかなり意欲的に進めている。NFTプロジェクトでは1000万ドル(約13億円)以上の利益を出し、最近ではメタバースのプラットフォームであるサンドボックス(The Sandbox)上に「TIME Square」という仮想の土地を開発している。
タイムにとっては残念なことに、ブロックチェーン関連のテック企業の評価額は従来のパブリッシャーの予算を超える場合が多い。ベニオフ夫妻でさえも手が届かないだろう。たとえば2022年にブルームバーグ(Bloomberg)はサンドボックスが評価額40億ドル(約5200億円)で4億ドル(約520億円)の資金調達を目指していると報じた。だが、仮想通貨市場が低迷を続けるなか、テクノロジーまたは人材の面で魅力的なブロックチェーン関連の小規模なスタートアップ企業が売却を図る可能性もある。ベニオフ氏は過去にもブロックチェーンに投資しているし、同氏の投資会社タイムベンチャーズ(Time Ventures)は仮想通貨交換所ムーンペイ(MoonPay)を初期段階から支援している。
メディア企業がテクノロジー系の収益源に事業を拡大することは特に珍しいことではない。アクシオス、ワシントン・ポスト、ボックス・メディア(Vox Media)など多くのパブリッシャーが、購読料やメンバー会費以外の経常収益を増やそうと、SaaS事業を構築している。
タイムは、主な編集方針としてタイムというブランド内に留まることに留意しながら、再びテクノロジーを追求する道へと進むかもしれない。だが筆者としては、タイムが現在はリーチしていない仮想通貨を熱烈に支持する「クリプトブロ」オーディエンスを狙って、まさにそのオーディエンスにリーチしているコインデスク(CoinDesk)、ブロックワークス(Blockworks)、デクリプト(Decrypt)などの仮想金融関連の独立系メディアの買収を目指していくと思う。
[原文:Media Briefing:Media company matchmakers, September 2022 edition]
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)