カリスマ的存在だった「 ガールボス 」の没落に、女性創業者は複雑な思い

DIGIDAY

混沌とした2020年のある時点で、一夜にして生活を一変させたパンデミックが何カ月も続き、世の中では人種差別が行われているという状況を背景に「ガールボス」の死が宣告された。

かつてのエンパワメントの象徴が非難される存在に

ガールボスと呼ばれる「彼女」はシャネルのバッグを持った年配のミレニアル世代のCEOであり、起業家精神にあふれ、それに見合うカリスマ性と知性が備わっていた。大抵が魅力的な人物で、また大抵が白人だった。ガールボスという称号は、公式には2014年に出版されたナスティギャル(Nasty Gal)創業者ソフィア・アモルーソ氏による自伝「#GIRLBOSS(ガールボス)万引きやゴミあさりをしていたギャルがたった8年で100億円企業を作り上げた話(原題:#Girlboss)」に由来する。

この称号にふさわしいとされた女性には、アウトドアヴォイシズ(Outdoor Voices)のタイ・ヘイニー氏、ザ・ウィング(The Wing)のオードリー・ゲルマン氏、マン・リペラー(Man Repeller)のレアンドラ・メディーン氏、アウェイ(Away)のステフ・コーリー氏、グロシエ(Glossier)のエミリー・ワイス氏などがいる。エミリー・ワイス氏は、このリストのほかの女性たちとは異なり、現在も会社を率いている。もともとこの肩書きにはエンパワメントという意味が含まれていたはずだが、その後、これらの「ガールボス」の多くが、有害な職場環境や人種差別を助長していると非難されるようになった。

ムーブメントとしての役割は終わった

ガールボスの「死」については、多くのすばらしい記事が書かれている。2014年、ガールボスになることは憧れだった。だが今日では、TikTokで人気を博した「ゲートキープ、ガスライティング、ガールボス(註:生きる、笑う、愛するという格言のパロディ)」というフレーズにも使われるなど、ジョークのネタにされることも多い。Z世代にとって「ドン引き」の存在なのだ。このフレーズとハッシュタグ#girlbossが52億ビューとなっているTikTokでの存在感について、最近では「ザ・カット(The Cut)」がZ世代に話を聞いている

多くの人がガールボスを葬り去り、その時代が終わることを喜ばしく思っているが、自身のTikTokアカウントを「女性のためのビジネススクール」と称しているダルマ・アルタン氏はやや異なる見方をしている。

「現在、私たちがみな、ガールボスという概念の粗探しをしては、不完全だ、不十分だ、十分にインクルーシブではないと言っているということは、実際にムーブメントとしての役割を果たしたという証拠だ。『女性だってボスになれる、女性も起業家になるべきだ、私たちはそういう女性を応援できる、あとほかには何がある?』という会話のきっかけとなった。でもそれだけでは十分ではない。私たちが排除しているのは誰か。どうすればこの会話をもっと繊細でインクルーシブなものにできるのか。また、Z世代が懐疑的なハッスル文化を、これがどのように悪化させているのか。本来の意味でのガールボスからさらに前に進もうではないか。でもガールボスが道を切り拓いてきたという事実も認めよう」。

1月、Modern Retailは、元祖ミレニアルピンクというべき存在であるグロシエが、80人の従業員を解雇したことを報じた。「我々は、ある戦略的なプロジェクトを優先させ、コアビジネスであるビューティブランドの拡大という集中すべき課題から目をそらした」とワイス氏はEメールで書いている。それ以降、数え切れないほどの見出しが同社の没落を宣言している。ビジネスインサイダー(Business Insider)は「グロシエ創業者エミリー・ワイス氏のテックドリームは、いかにしてもっともホットなミレニアルビューティブランドをダメにしたか」と題した記事を掲載し、リファイナリー29(Refinery29)は「グロシエは何がいけなかったのか?」と問いかけている

女性起業家は成功すれば賞賛され、失敗すればさらに注目を浴びる

「ガールボス」というフレーズに付随した名前を取り除くと、そのコンセプトはシンプルだった。それは、家父長制の中で築かれた資本主義構造において、不利な状況にも負けずにビジネスで成功する女性たちのことだった。「ガールボスの死」と題したボックス(Vox)の記事では、ライターのアレックス・アバド=サントス氏が、「ガールボス・ムーブメントについて研究し、それに関する小説も執筆している、間違いなく世界的な権威」であるリー・スタイン氏に話を聞いている。

「ガールボスが率いている企業における差別や有害な労働文化の疑いは、間違いなく深刻だ」とスタイン氏は言う。「しかし同時に、そうしたビジネスの失敗について私たちがどう語るかということに関しては、ある種の罠が存在する」。ボックスの記事で彼女は、説明責任を見失うことなく、あるいはこれらの失敗をデカデカと女性のせいにするのではなく、何が悪かったのかについて話し合うことは可能だと主張している。

ガールボスの没落と、その輝かしい業績であるグロシエの凋落と思われることに関する記事を読み、知っているすべての女性創業者に思いを馳せた。成功すれば賞賛され、失敗すればさらに注目されて騒がれる(あるいは少なくとも追い回される)社会で、彼女たちが直面しているパラドックスについて考えてしまう。

「エミリー・ワイス氏が行った悪質な行為ばかりに注目が集まったようだ。だが、そこで指摘されていることはすべて、多かれ少なかれ、資本金を集めすぎて、ベンチャーキャピタルが支援する企業としての制約に合わせようとした結果なのだ。ベンチャーキャピタルが支援するCPG(消費財)ブランドだったということも結局は信じられないほど難しいもので、自社に注ぎ込まれた20億ドル(約2474億円)近い評価額に見合う業績を上げるのは事実上不可能だ」とアルタン氏は指摘している。

これは「女性創業者を祭り上げた後で引きずり下ろす」という、より広範で「有害」な傾向の一部だとアルタン氏は言う。彼女は多くの女性創業者と話をして、彼女たちが自分の会社の顔になることを恐れてはいないにせよ、警戒するようになっていることに気づいたという。

女性のリーダーに対して人はなぜイラつくのか

アイシェトゥ・ドジエ氏は、女性の野心を臆せず称えるブランド、ボッシーコスメティクス(Bossy Cosmetics)の創業者だ。彼女もInsiderの記事を読んだ。

「すべての(男性の)ビジネスリーダーは、いつでも間違いを犯すことができるし、彼らは度胸があるといって賞賛される。『うまくいかなかったが、彼らはやってみたんだ! そして彼らはこんなことを学び、それからこんなことをやった!』という調子だ」とドジエ氏は語った。くだんの記事では、パンデミックが発生した時にワイス氏と彼女の婚約者が街を出てノースカロライナに向かったことについてもコメントしている。「CEOが美しい家に住んでいることに驚いた?」とドジエ氏は言う。「当然、そうあるべきだ!」。

「もし彼女が男だったら、人々は『まあ何があったにせよ、彼は美しい家に住んでるよね』と実際に言うんだろうなと、私にはわかっている。批判の裏には『なぜこの女は自分にないものを持っているのか?』という思いがある。女性のCEOがそういう暮らしをしていることにイライラしてしまうのはなぜなのか、多くの人が自分を振り返って考えてみるべきだ」。

グロシエのBIPOC(黒人、先住民、有色人種)の社員が経験したあらゆる不平等は「解消される」べきだが、「文字通りひとつの業界を築いた女性を引きずりおろそうとしたり、罵倒したりするようなことに関わるつもりはない。D2Cビューティとはワイス氏のことだ」とドジエ氏は述べた。

女性リーダーはいまだに社会から厳しく判断される

「女性の創業者を批判することは、本質的には反フェミニストではない。優れていて親切で、思いやりのあるリーダーシップがあり、経営もできて誠実である、そうした基準を満たしていないリーダーは、性別に関係なく非難されるべきだ」とアルタン氏は言う。

そうは言うものの、有色人種の女性創業者がこうした記事を読むと、「そう、それはよくないこどだけど、でも私たちは本当のことを話をしていない」と思うことが多いとアルタン氏は付け加えた。つまり、ワイス氏のような女性は投資家が好む何かを持っていて、それらもこの典型的なアーキタイプを作りだした一部なのである。そして基本的に、黒人女性はいまだに白人女性のように失敗するチャンスが与えられていない

ガールボスが別の形で生まれ変わるかどうかはさておき、女性リーダーをどのように扱うかという点では、社会はいまだ長い道のりを歩んでいる最中だ。「私たちは女性により高い基準を課している。女性は資金調達へのアクセスも少なく、サポートへのアクセスも少ない」とアルタン氏は指摘している。「そして、彼女たちがようやくブレイクして、成功した新興スタートアップや会社を指揮することができるようになったとき、リーダーシップやマネジメントに対してより厳しく高い基準を要求されるのだ」。

[原文:Glossy Pop Newsletter: For female founders, the fall of the girlboss is complicated]

SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:Maya Kishida 編集:猿渡さとみ)

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