ブランドセーフティ ツールが広告主を分断している?:「メディアバイイングを阻害するほどの不平等要因になっている」

DIGIDAY

最近の衝撃的なニュースの急増がオンライン広告にまつわる消しがたい格差問題を改めて浮き彫りにしている。その格差とは、不穏な記事に隣接した場所であっても広告を出す余裕のある企業と、そうでない企業との格差だ。

そうした余裕のある企業のマーケターにとって、ニュース配信面での広告出稿を微妙なさじ加減で扱えるアドテクは非常に重宝する存在のようだ。それはインテグラルアドサイエンス(IAS)の直近の業績にもよく現れている。デリケートな広告出稿に長じたアドテクとして、IASは前四半期に前年同期比34%増の1億30万ドルの売上を計上した。

マーケターの頭の中は?

急転するニュースサイクルのなかで、マーケターたちはしばしば広告予算の投資先を大きく修正する必要に迫られる。IASのようなアドテク企業は、こうしたマーケターを支援する形で、資金力のある広告主に利益をもたらしている。

その一方で、アドテクを活用しない広告主も存在する。たとえば、英国の新聞社グループ、リーチ(Reach plc)もそのひとつだが、ウクライナでの戦争が広告主の需要を大きく削いだと同社は述べている。

これを意外だと思う人はいないだろう。実のところ、減速傾向はあまりに急激な一方、好材料はほとんど見えない現状で、多くのマーケターにできることといえば、世論を二分するようなニュースは極力避けるということくらいだ。

とはいえ、すべてのマーケターがこう考えているわけではない。彼らとしても、できるならニュースサイトに広告を出したい。ただもう少し巧妙な出し方が必要なだけだ。

「重大なニュースがあれば支出は落ち込む」

トラストX(TRUSTX)のプレジデント兼CEOであるデヴィッド・コール氏は、「今年はニュースになるような大きな事件があっても、広告需要に例年ほどの変化は見られない」と述べている。TRUSTXはニュースを含むさまざまなカテゴリーで優良なパブリッシャーの広告在庫を扱うプログラマティックマーケットプレイスで、(ボットではなく)人間による、ビューアブルなインプレッションにのみ広告費が支払われる。

コール氏によると、ウクライナ戦争や人工妊娠中絶の合憲性を覆した米連邦最高裁判所の判決など、何か重大な事件が発生すると、トラストXで取引するニュースメディアのあいだでは、通常は1週間ほど広告支出が落ち込み、その後回復するという。

トラストX以外では、ニュース分野での支出回復がこのペースで進むとは限らない。トラストX同様、広告支出の抑制(あるいは広告ブロックなど)が起きると、回復にはもっと長い時間がかかる。

コール氏の説明はこうだ。「我々の広告主はトラストXとそこで取引するパブリッシャーを信頼している。トラストXには、洗練された手法と、ニュースメディアに対する敬意を持ったバイヤーが集まっている」。

もっと一般的なマーケットプレイスには、大荒れのニュースサイクルを嫌うマーケターや、ブランドスータビリティ(適合性)の問題に多くのリソースを割けない小規模な広告主が数多く存在する。そのようなマーケットプレイスで適合性の懸念が生じた場合、彼らのようなマーケターたちは撤退するか、支出を一時控えるか、あるいは別の(ときに品質の良くない)コンテンツ群に切り替えるしかない。このようなエクスチェンジを利用するロングテールのマーケターたちのあいだでは、キャンペーンが再開されるか否かにかかわらず、不足を補う新たな需要が常にある。

「持つ者」と「持たざる者」の格差

「金融サービスやファーストフードなど、いくつかの業種の広告主が、ブランドセーフティ上の懸念から、ニュース配信面での広告出稿を敬遠しているのは確かだ」。こう証言するのは、アドテクグループのダイレクトデジタルホールディングス(Direct Digital Holdings)でCEOを務めるマーク・ウォーカー氏だ。「問題は、ブランドセーフティ問題を解決できるテクノロジーへのアクセスの有無だ。もちろん、ニュース配信面には広告を出さないとはじめから決めている広告主もいるのだが」。

「持つ者」と「持たざる者」の格差は、ニュース配信面での広告出稿に対する方針や態勢にも現れている。端的にいって、前者は後者ほど慌てない。物議を醸しそうな重大なニュースが発生すると、彼らはある種のプロセスを発動させる。まず、マーケティング担当者がブランドセーフティツールを起動させ、当該のコンテンツがしかるべくブロックされていることを確認する。そして企業としての方針が決まったら、メディアからコンテンツ制作に至るあらゆる側面で、重要な意見や視点を支持する方向で微妙な編集作業を開始する。

「プログラマティックマーケットプレイスにおける不平等が、マーケターのメディア購入を阻害するほど広がっていることは間違いない」と、ウォーカー氏は述べている。

それはプログラマティックの現実だ。世論を二分するような記事の隣に広告を出したくないと思っても、それは持続可能なアプローチではない。そのような記事が無限にあるとき、そのようなアプローチを続けられるわけがない。

いまに始まった事態ではないが、ヨーロッパでの戦争から現在進行中の社会問題、あるいは新たな伝染病勃発の可能性など、メディアが扱う事件の規模はかつてないほど大きくなっている。マーケティング担当者は何らかの対処法を見つけなければならない。広告予算を最大限有効に活用しなければならない景気後退期であればなおさらだ。

「個別対応」はもはや不可能

電通インターナショナルでブランド保証部門担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるデヴァ・ブロンソン氏によると、同社では「クライアントと連携して危機管理の手順を策定することにした」という。「非常に残念なことだが、学校内での銃乱射事件や中絶権に関する米連邦最高裁での判決、さまざまな社会不安など、陰鬱な事件があまりにも多く発生している。このような事件を単独の案件として個別に扱うことはもはや不可能だ。そこで我々は、クライアントと連携して危機管理の手順を策定し、危機管理に関するあらゆるテーマについて議論しはじめた。悲しいことだが、我々の生きるこの時代は、こういった事件を個別の案件として扱うことを許してはくれない。それは誰の目にも明らかだ。もっと大局的な議論が必要なのだ」。

あまりにも多くの事件が起こり、それぞれに固有のブランドセーフティの懸念があるのだから、事件が起こるたびに個別に対応するのはもはや不可能ということだ。

6月に米連邦最高裁が中絶の権利を否定する判決を下したことで、このような手順作りにより大きな注目が集まっている。

コンテクスチュアルインテリジェンスプラットフォームのGumGum(ガムガム)でCEOを務めるフィル・シュレーダー氏によると、インバウンドマーケティングに注力する広告主やエージェンシーから、「ロー対ウェイド判決(人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の米連邦最高裁判決)に関する記事について、広告出稿上の安全対策は講じられているか、『中絶』のようなキーワードを回避しているか、再確認したいという要望が相次いだ」という。

回避すべきニュース、すべきでないニュース

マーケターたちにはいわば補助輪を付けて走行する準備期間があったため、このような事前チェックが可能だったのだろう。実は、この判決は実際に発表される数週間前にリークされており、広告主側はその影響に備えて先手を打つことができた。主な対策として、広告を出したいサイトを厳しく吟味して、出稿可能な掲載面を一覧化した、いわゆるインクルージョンリストを作成していた。

マーケターたちは、広告を掲載されたくないサイトをリスト化するよりも、安心して広告を出稿できるパブリッシャーに注目した。具体的なコンテンツや記事の内容ではなく、パブリッシャーの名声や評判を重視した結果である。逆にいえば、マーケターが安全でない、あるいは適切でないとみなす「ウクライナ」や「中絶」といったセンシティブなキーワードに基づいて、回避すべきニュース、あるいは回避すべきでないニュースを判断している場合、インクルージョンリストのような手法を採用するのは難しい。

「我々は会社の方針として、キーワードのブロックリストを容認も使用もしていない。結果的に、質の高いコンテンツを過度にブロックすることになりかねないからだ。ブロックリストはUGC環境ではうまく機能しない」。こう語るのは、動画広告のブランドスータビリティソリューションを提供するゼファー(Zefr)で、戦略およびマーケティング担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるアンドルー・サービー氏だ。

「その代わり、広告主が懸念を抱くテーマを避けながら、適切なコンテンツの配信面に広告を出しつづける方法として、議論の的になる敏感な問題に対してはGARM(Global Alliance of Responsible Media:責任あるメディアの世界同盟)モデルを適用することにした」。

多少の「不穏さ」は必要

おそらく、問題の一端はアドテクそのものではなく、もっと広範なニュースに対する態度にこそある。

アテンション計測のプレイグラウンドXYZ(Playground XYZ)でCEOを務めるロブ・ホール氏は、「ある研究によると、コンテンツに少々『不穏』なところがあると、人間の脳はむしろ活発に働き、近くにある広告への関心も高まる」と述べている。

ホール氏は「気分修復」と呼ばれる現象に言及し、消費者が不快なコンテンツを見たとき、広告が(潜在意識レベルで)このコンテンツから注意をそらす役割を果たし、さらにはポジティブな気分に引き戻すことさえあると話した。

「もちろん、ブランドが定期的にネガティブな広告を出しているとはいわないが、現実には微妙な陰影がつく一方、テクノロジーの活用に陰影などつかない。それでもいつの日か、こういう議論が大手広告主と中小企業の格差縮小に一役買う日がくるかもしれない」。

[原文:‘A key impediment’: Brand safety tech continues to divide advertisers into haves and have-nots

Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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