近年は月や火星などに有人宇宙船を送り込む計画が進行していますが、地球を遠く離れた宇宙開発における課題の1つが、負傷者や病人を手術できる医師の不足です。そこでアメリカ航空宇宙局(NASA)は、ネブラスカ大学リンカーン校の研究者らが開発した小型遠隔手術ロボット「Miniaturized In-vivo Robotic Assistant(MIRA)」を国際宇宙ステーションに送り込み、テストミッションを実施する予定とのことです。
Virtual Incision’s Miniaturized Robotic-Assisted Surgery Device Will Launch into Space in 2024 – Virtual Incision Corporation
https://virtualincision.com/nasa-grant/
A Remote Surgical Robot is Going to the International Space Station – Universe Today
https://www.universetoday.com/157027/a-remote-surgical-robot-is-going-to-the-international-space-station/
小型遠隔手術ロボットのMIRAは、ネブラスカ大学リンカーン校の工学教授であるShane Farritor氏の研究チームと医療スタートアップ・Virtual Incisionによって開発されました。Virtual Incisionはネブラスカ大学医療センターの元教授であるDmitry Oleynikov氏が2006年に設立したスタートアップであり、ベンチャーキャピタルから1億ドル(約136億円)以上の投資を集めています。
MIRAがどのような手術ロボットになっているのかは、以下の動画を見るとわかります。
MIRA™ Surgical Robotic Platform – YouTube
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MIRAは重さ2ポンド(約900g)ほどの小型ロボットで、細長い棒の先に手術用のアームやライトが付いています。
二股に分かれたアームの先には小さなピンセットや切開用のはさみに似た器具が付いており……
医師が遠隔で操作することが可能。
非常に滑らかな動きで繊細な作業を行います。
従来の手術ロボットと比較したMIRAの利点の1つが、「局所的な切開部から器具を挿入して、腹部や腸に対する侵襲性が小さい手術が行える」というものです。そしてもう1つの利点が、「外科医が遠隔地からロボットを操作して、医療インフラから隔絶された場所に遠隔手術サービスを提供できる」という点です。
これらの利点は、地球上の医療インフラが整っていない地域に医療サービスを提供する上で役立ちますが、同様に医療サービスが整っていない宇宙船内や月においても有用です。そこでNASAは、アメリカエネルギー省のプログラムを通じて10万ドル(約1360万円)の助成金を提供し、「MIRAを2024年に国際宇宙ステーションへ送り込んでテストする」ことを計画しています。
Virtual IncisionのCEOを務めるJohn Murphy氏は、「MIRAプラットフォームは、ロボット支援手術装置を小型化して提供することで、地球上のあらゆる手術室でロボット支援手術を利用可能にするために設計されました」「NASAと協力して宇宙ステーションに送り込み、MIRAがどれほど遠く離れた場所でも手術できるかどうかが試されます」と述べました。
2021年8月にはアメリカ食品医薬品局(FDA)の臨床試験の一環として、リンカーンのブライアン医療センターでMIRAを用いた遠隔手術が行われました。MIRAを使って結腸の右半分を切除する手術を行ったMichael Jobst医師は、MIRAは外科手術における画期的なプラットフォームだとして、「処置はスムーズに進み、患者はよく回復しています」「このシステムを使用した世界初の医師であることが非常に喜ばしいです」とコメントしています。
また、別の臨床試験では元宇宙飛行士のClayton Anderson氏がテキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターからMIRAを遠隔操作し、1450kmも離れたネブラスカ大学医療センターの一室で手術のようなタスクを実行することに成功したとのこと。
Farritor氏は大学院生のRachael Wagner氏と協力し、2024年にMIRAを国際宇宙ステーションに送り込むための準備を進めています。これにはソフトウェアの作成や国際宇宙ステーションの実験ロッカー内にMIRAを収めるための変更、ロケットによる打ち上げに耐えられる頑丈さのチェックなどが含まれるそうです。
国際宇宙ステーションで行われる実験では地球上からの操作は行わず、MIRAが自律的にさまざまなタスクを実行します。予定されるタスクには皮膚の切断をシミュレートした「ピンと張った輪ゴムの切断」や、繊細な動作を想定した「金属リングをワイヤーに沿って押し込む」といったものが含まれるとのこと。この実験はMIRAの自律操作機能を実証することがメインではなく、無重力状態でロボットが適切に動作するかどうかをチェックすることが主な目的となっています。
Farritor氏は、「NASAは長期間の宇宙旅行という野心的な計画を立てており、数カ月から数年単位で行われるミッションで有益と思われる技術をテストすることは重要です。MIRAはロボット支援手術で可能なことの限界を押し広げています。私たちはさらに一歩進み、宇宙旅行が人類にとってより現実的なものとなっていく中で、将来何が可能になるかを判断する手助けができることを楽しみにしています」と述べました。
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