ケンブリッジ大学で幹細胞について研究するMagdalena Zernicka-Goetz教授の研究チームが、「脳と鼓動する心臓を持つ合成胚」を作り出したことを発表しました。研究チームが作り出した合成胚は自然に成長した胚と同様の組織を有しており、将来的に移植用人工臓器の開発の足がかりになると期待されています。
Synthetic embryos complete gastrulation to neurulation and organogenesis | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05246-3
‘Synthetic’ embryo with brain and beating heart grown from stem cells by Cambridge scientists
https://www.cam.ac.uk/stories/model-embryo-from-stem-cells
幹細胞は体のどの部分の細胞にも分化できる特徴をもった細胞で、幹細胞を用いて移植用の網膜や臓器を作り出す研究が世界中で進んでいます。同様に、幹細胞から胚(多細胞生物の発生初期の状態)を作り出す研究も複数行われていますが、従来の研究では正常に機能する臓器を持った胚を作り出すことは困難とされていました。
哺乳類の場合、受精卵が胚へと分化する際に「将来的に体の組織を形成する幹細胞」と「胚の発生を支援する幹細胞」が出現し、それらの幹細胞が相互作用しながら成長します。研究チームはマウスの幹細胞を3種類用意し、特定の遺伝子の発現を誘導して幹細胞同士が相互作用する環境を再現しました。その結果、「鼓動する心臓」「脳の基本構造」「卵黄嚢」の形成が確認されました。
以下の画像は、上側が自然に形成された胚で、下側が研究チームが作り出した合成胚です。両者を見比べると、脳や心臓が同等に成長していることが分かります。
胚の分化初期に3種類の幹細胞の相互作用が崩れると、生物の発生は失敗してしまいます。このため、幹細胞同士の相互作用メカニズムを解明することは、人間の妊娠失敗リスクを抑えることに役立つとのこと。今回の研究では合成胚の形成にマウスの胚が用いられましたが、研究チームはヒトの胚を用いた研究を行う準備を進めているとのことです。
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