加速する ショップインショップ :これが店舗にとって意味することとは?

DIGIDAY

さまざまな課題に直面している今日の小売業者にとっては、「援軍」を頼むのもひとつの手だ。たとえば百貨店ターゲット(Target)の店内にはアルタ(Ulta)の小規模店舗が入り、さらにその少し先にはAppleのミニストアがある。百貨店ノードストロム(Nordstrom)に行けば、インドチーノ(Indochino)のショールームでスーツを仕立て、エイソス(Asos)の商品をブランドスペースで購入できる。

これまでなら大型モールに足を運ぶ、地元の大規模小売店に出向く、オンライン注文するなどの必要のあった商品が、すべてひとつの店で買えるようになったのだ。

加速するショップインショップと求められるクリエイティビティ

小売業者が新たな顧客を呼び込んで実店舗での売上拡大を図るための一戦略として、ショップインショップは近年増える傾向にある。対するブランドもこの戦略を利用することで、コストを抑えながら実店舗という足場を手に入れ、既存の顧客基盤の外で認知度を高めるという効果を上げられる。

アナリティクス&コンサルティング会社グローバルデータ(GlobalData)のリテール担当マネージングディレクターであるネイル・サンダース氏は、次のように分析する。「いまの消費者の購入習慣にとって、多くの店舗は規模が大きすぎる。百貨店は特にそうだ。結果として小売業者は、そうしたトレンドに順応し、創造的に考えることを余儀なくされている。ショップインショップというイノベーションをさらに推し進めるうえでは、非常にありがたい傾向だ」。

小売業者としては、1平米たりとも無駄にはできない。顧客にとって魅力のないスペースがあるなら、パートナーシップは商品展開を拡張するチャンスになる。

ただし、小売業者がこれからも小規模店舗の誘致を進めるなら、柔軟性に優れ、考え抜かれたデザインが不可欠になってくるだろう。

百貨店のインフラを活かしたインドチーノの場合

インドチーノでは、2021年夏にノードストロムに最初のショールームをローンチして以来、同店へのミニショールームの設置数がすでに30店に上っており、2023年中にもその数は2倍に達するとみている。インドチーノのドリュー・グリーンCEOによれば、ショールーム展開は思った以上に効率的に進んでいるという。在庫を持たず、予約制でフィッティングを行い、2週間以内に納品するというスタイルであること、そして、ノードストロムにこのスタイルを支援するためのインフラが整っていたことが功を奏したようだ。

ノードストロムは、自社のメンズウェア・スペシャリストをインドチーノのショールーム・スタッフとして配置したほか、仕立て職人のネットワークを利用して、すべての店舗で無料お直しを提供しているのである。

これについてグリーン氏は次のように語っている。「当社にとっては非常に重要な仕事だ。インドチーノから見た当社の存在意義は、完璧なフィットを実現することにある。最初のフィッティングで完璧に仕上げるにせよ、2度目のフィッティングで多少のお直しが必要になるにせよ、お直しもカスタマージャーニーの一環だと考えている」。

ノードストロムにとってみれば、お直しのために顧客が再来店してくれれば、スニーカーやデザイナーフレグランスを新たに売る素晴らしい機会が生まれることになる。

ブランドの拡大、カテゴリーの拡張を常に模索している

互いに補完し合う複数のブランドを展開している会社なら、順応性を念頭に置きながら店舗を設置するのは理にかなっていると言えるだろう。

たとえばファブレティックス(Fabletics)はユタ州マレーで6月、「第4世代」店舗の第1号として姉妹ブランドであるイッティ(Yitty)のショップインショップをオープンした。ポップスターのリゾとテックスタイルファッショングループ(TechStyle Fashion Group)によって誕生したシェイプウェア・ブランドのイッティは今後、国内85のファブレティックスの店舗にショップインショップを展開する予定だ。ユタのショップインショップについてはファブレティックスの実店舗戦略をさらに進化させたもののようで、イッティの屋外看板が掲げられているほか、イッティ独自のブランディング、什器、ディスプレイが用いられている。

ファブレティックスのシニアバイスプレジデントと小売責任者を務めるロン・ハリーズ氏は、第4世代店舗を今後さらに増やし、そのすべてにおいてイッティのようなショップインショップ・コンセプトを採用すると語っている。テックスタイルが運営する、ジャストファブ(JustFab)とサベージXフェンティ(Savage X Fenty)という残り2つのブランドについても、ショップインショップの展開を計画中だという。

ハリーズ氏は次のように語っている。「ブランドの拡大、カテゴリーの拡張を常に模索している。業界では絶えずいろいろなことが起きており、当社も未来を見据えた発展を遂げる必要がある。手をこまねいているわけにはいかない。研修制度、テクノロジーの活用、店舗デザイン、何をするにせよ、未来を見つめて常に考え続けるべきだ」。

複数ブランドを展開する際の注意点

とはいえ、ひとつの店舗で複数のブランドを展開する際には、独自の課題に直面する。ブランドごとのアイデンティティを顧客に明確に伝えつつ、店舗全体での一貫性も維持しなければならない、と指摘するのは、建築設計事務所MBHアーキテクツ(MBH Architects) のスタジオディレクターを務めるヘレン・ヘリック氏だ。

「店舗内にいくつもの違う看板が掲げられ、違う色合いが使われ、違う仕上げが施されていれば、視覚的ノイズが生じ、せっかくの美しい商品を邪魔することになる」とヘリック氏は説明する。

確固たるテイストを持ったハイエンドブランドの場合、この点は特に重要だ。MBHアーキテクツでは最近、マンハッタンにあるスイスの高級時計メーカー、ブヘラ(Bucherer)の3階建て旗艦店のリニューアルを手掛けた。同店舗には、ブヘラのブランドのひとつであるカール・F・ブヘラ(Carl F. Bucherer)のほか、ロレックス(Rolex)やカルティエ(Cartier)といった高級時計ブランドが入っている。


マンハッタンにあるブヘラの旗艦店

同店に入るすべてのブランドは、各階に共通して設けられるバーと中央ラウンジスペースのほか、道行く人を引きつけるハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)のカスタムバイクによって恩恵を受ける。その一方で各ブランドは、カウンターやミニブティックなど、独自のスタイルでショップスペースを展開することができる。

相互に補完し合う小売業者とブランド

どのようなパートナーシップの下でショップインショップを運営するにせよ、入店するブランドと受け入れ側の小売業者のあいだで一定の妥協は必要だ、と指摘するのは、建築設計事務所ネルソン・ワールドワイド(Nelson Worldwide) のブランド&クリエイティブ最高責任者を務めるビーヴァン・ブルーメンダール氏だ。重要なのは、ブランドと小売業者それぞれの必須の要素を尊重することだという。

ブルーメンダール氏は次のように説明している。「干渉してはならない象徴的な要素は何か。それは文字のフォントかもしれないし、イラスト的要素かもしれないし、色合いかもしれない。そうしたものこそ、両者の共生関係を築き、統一感を生むための『赤い糸』だ」。

ブランドと小売業者が互いの強みを生かせたなら、部分の総和を上回る成果を上げることができるだろう。

[原文:Shop-in-shops are everywhere — here’s what it means for stores

(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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