ロブロックス（Roblox）が、同プラットフォーム内での素材を設定する「マテリアル」機能の全面的な見直しをおこなった。このアップデートにより、クリエイターはよりリアルな質感を持った自前のテクスチャをアップロードし、仮想世界における物理表現をより自在に制御できるようになる。
これは同社のプロトメタバースの迫真性——つまり、「現実らしさ」を改良する最新の試みであり、ブランドやロブロックスの開発者たちはすでに多大な関心を示しはじめている。
ロブロックスは数カ月前から新しいマテリアルのベータ版をテストしてきたが、7月下旬に正式公開した。これでユーザーは、従来よりも写実性の高いレンガやガラスや金属など、物理的な世界をより正確に表現する素材やテクスチャを使って、それぞれのエクスペリエンスを開発できるようになった。完全にカスタムのテクスチャをアップロードできるようになったのも今回が初めてという。
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ロブロックスがおこなったマテリアル機能の改良点
- アップデートされた機能：クリエイターが自前のブロックテクスチャをアップロードして、よりリアルな素材やテクスチャを構築できる。フリーの開発者の作品を取り入れ、開発作業や作品へのアクセスを容易にした。
- 改良されたマテリアルの活用事例：ナーズカラークエストのエクスペリエンスでは、参考画像とカラーパレットを、メイクアップを意匠化したテクスチャに作り替え、ナーズのアイコニックなクリエイティブアイデンティティを表現した。
ナーズも活用する新生マテリアル
化粧品メーカーのナーズ（NARS）も、「ナーズカラークエスト」というバーチャルエクスペリエンスの構築で、より細密な視覚表現を可能とする新生マテリアルを存分に活用している。ナーズのデジタル戦略とイノベーションをグローバルに統括するバイスプレジデントのディナ・フィエロ氏は、「ナーズは独特でアイコニックなクリエイティブアイデンティティを持つブランドだ」とリリースの文面で述べている。「このスタイルをロブロックスで忠実に再現するために、ブランドの歴史と創造性を反映するような、視覚的に洗練されたビューティアドベンチャーを作り上げた」。
ナーズ特有の視覚的な美しさを正確に表現するために、ナーズはロブロックスの開発スタジオであるスーパーソーシャル（Supersocial）と密接に連携してこのエクスペリエンスを構築した。具体的には、スーパーソーシャルのクリエイターたちがメイクアップを意匠化したテクスチャを開発して、これをもとに参考画像とカラーパレットを作成した。
スーパーソーシャルのヨナタン・ラズ＝フリッドマンCEOによると、「ナーズカラークエストのコンセプトの柱は、メイクアップ製品のグラデーションや素材、あるいは表面の質感などを模倣し、これを仮想世界の地表に再現することだった」という。「素材のバリエーションと技術力がこの企画を可能とした」。
リアル感を高める改良は必要不可欠
ロブロックスの開発者たちは、ずっと以前から、あの手この手を駆使してよりリアルなテクスチャやゲーム内物理を実装してきたが、それはあくまでも一時しのぎの対処法であり裏技だった。しかし、今回の素材ツールのアップデートにより、ロブロックスのコミュニティの大部分を占めるごく一般的なクリエイターたちにも、この種の細密な表現が可能となった。ロブロックスはフリーの開発者たちの活動に注目し、その開発作業と作品へのアクセスを容易にすることに積極的だが、今回のアップデートもその取り組みの一例といえる。
「今回のアップデートは、主にビジュアルや美的センスの面で、新たな可能性を開くものだ」と、ロブロックスの人気コンテンツ「ジェイルブレイク（Jailbreak）」の開発者のひとりであるアレックス・バルファンズ氏は話す。「しかし多くのプレイヤーにとっては、むしろ物理間の相互作用や機能性の自由度を向上させるものとなるだろう」。
結局のところ、ロブロックスがメタバースでの主導的な地位を維持したいのであれば、リアル感を高めるための改良はどうしても必要なのだ。
ロブロックスの開発者たちが求める世界
現時点で、ブランドとクリエイターが連携するエコシステムという点では、ロブロックスは最大かつもっとも活発なメタバースプラットフォームだが、エピックゲームズ（Epic Games）のフォートナイトクリエイティブ（Fortnite Creative）も、この1年で急速に勢いを増している。エピックの最大の強みは、加速的にリアルさを増すゲームエンジンで、一部の観測筋がメタバース構築の建材とも呼ぶアンリアルエンジン（Unreal Engine）を傘下に持つことだ。このエンジンの威力を知るブランドのあいだでは、ロブロックスのエクスペリエンスでも同様のビジュアルを再現したいという声が高まっている。
「ゲームエンジンに対してこういう思い込みを抱いている人は少なくない。彼らはゲームについては知っていても、ロブロックスについては分かっていない」。メタバースの開発を手がけるデュービット（Dubit）でCTOを務めるパトリック・ミード氏はそう語る。「マテリアルの変更は、画期的とはいえないまでも歓迎すべきことではある。クライアントが望む世界観をより忠実に創造できるようになるからだ」。
ロブロックスはここで立ち止まるわけにはいかない。メタバースが具体化するに伴い、同社は仮想世界でリアルな感触を実現するための方法を常に模索しつづけている。ロブロックスの製品責任者を務めるジョッシュ・アノン氏は、マテリアル機能のアップデートを発表するブログ記事を、この更新に関するこんな見通しで締めくくっている。「木製のオブジェクトは炎にさらされれば燃え上がるはずだ。雨は地面に水たまりをつくり、雨水は多孔質の素材に染み込むはずだ。ロブロックスの開発者たちが求めているのは、そういう世界だと思う」。
「もちろん、ロブロックスはこのような機能をいつでもオンオフできる能力を留保するだろう」とバルファンズ氏は話す。「しかし、小規模のクリエイターたちがこのような機能を無料で活用できるなら、それはとても喜ばしいことだ」。
Alexander Lee（翻訳：英じゅんこ、編集：黒田千聖）
