ニュースパブリッシャーのアクシオス(Axios)は2017年のローンチ以来、ブランドコンテンツを広告ビジネスの屋台骨として掲げ、標準バナー広告の販売を避けてきた。しかし、これからは違う。
アクシオスで最高ビジネス責任者を務めるファブリシオ・ドルモンド氏によると、同社は9月1日より、従来型のビジュアル最優先ディスプレイ広告を強く希望する顧客に向けて、自社ウェブサイトのスペースを販売開始するという。販売するのはバナー広告で、同社のカスタムディスプレイ広告向け標準フォーマットである「スマートポスト(Smart Post)」よりもCPMが約20%低い。
今回のディスプレイ広告は、47種類あるアクシオスのニュースレターでは使用しないが、それは、広告主は270万におよぶ購読者にはリーチできないのと同じだ。標準的なディスプレイ広告はオンサイトコンテンツに限定される予定である。なお、リサーチ企業コムスコア(Comscore)によると、2022年初頭から6月までのAxios.comの月間ユニークビジター数は平均で1580万人だという。
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- アクシオスのバナー広告のポイント
- 経済状況を見据えた「多角化」
- ――アクシオスのディスプレイ広告戦略の現状は?
- ――スマートポストtはなぜこれほど長くディスプレイ広告戦略を独占することができたのか?
- ――スマートポストから多角化に路線変更したのは、広告主の要望を伝える営業サイドの意向に応じた結果か?
- ――スマートポストは今後段階的になくしていくのか?
- ――今回、提案から実施までのリードタイムは、スマートポストのリードタイムよりも大幅に短縮されるのか?
- ――ビジュアル最優先ディスプレイ広告は「プラグアンドプレイ」モデルなので、広告主にとっては安価なオプションだと思うだが、どうだろうか?
- ――このビジュアル最優先ディスプレイ広告戦略は、広告収益多角化の一手でもあり、不況下における顧客予算削減の対策でもあるのか?
- ――この広告フォーマットで、Axios.comのプログラマティック広告の扉が開かれるのか?
- ――プログラマティック広告をこれまでの広告に組み込まないのはなぜか? CPMが低すぎて、アクシオスとしては正当化できないからか?
- ――それでは、ビジュアル最優先キャンペーンに出す広告も、営業チームかスタジオチームが携わるのか?
- ――今回の変更で、営業チームの営業戦略はどのように変化するのか? ローカルサイトでは、これまでハイタッチな広告(アクシオスが参入当時に展開した広告)を試す余裕のない中小企業の広告主とビジネチャンスが広がるのか?
アクシオスのバナー広告のポイント
・ ローンチから5年、アクシオスがはじめて自社ウェブサイトに従来型ディスプレイ広告を導入。
・ 今回の新製品は、広告主にこれまでより安価で迅速な手段を提供するために考えられた、いわゆる「ビジュアル最優先ディスプレイ広告」。広告主がこれまで実施してきたキャンペーンが、アクシオスのウェブサイトでも展開可能に。
・ アクシオスは、今回の広告をプログラマティックで販売しない予定(少なくとも今のところは)。
経済状況を見据えた「多角化」
当初はもっぱらブランドコンテンツだったものの、後にディスプレイ広告にシフトしたパブリッシャーは、アクシオスが最初ではない。BuzzFeed(バズフィード)は2006年のローンチ以来、ネイティブ広告一筋だったが、2018年にはじめて、ディスプレイ広告フォーマットのプログラマティック広告を加えた。
アクシオスはプログラマティック広告の売上についてまだ言及していないが、広告主は度重なる予算削減で、高額なブランドコンテンツから安価で標準的なパフォーマンス広告キャンペーンへのシフトを見せており、現在の経済状況を考えても、この多角化はまさに絶妙なタイミングである。
広告業界は数多くの「逆風」に直面しているものの、アクシオスのドルモンド氏によると、この戦略は不況対策としてアクシオスの広告ビジネス多角化を意図したものではないという。正確にいうなら、この製品は準備段階にあり、アクシオスの一部のオーディエンスに対して1年近く試験運用されてきたものだ。
それではドルモンド氏インタビューのハイライトを紹介しよう。なお、読みやすさを考慮し、一部編集を加えている。
――アクシオスのディスプレイ広告戦略の現状は?
創業以来、私たちはSmart Postという画期的な広告ユニットで業界を牽引している。社内のブランドスタジオチームが考えたスマートポストは、もともと弊社のニュースレターだけなくサイトにも使用されているディスプレイユニットで、自然に一体化(することを意図して作られたもの)している。スマホの画面全体に見出し・画像・本文を映しだすという、弊社ならではの独自性をつくり出してきた。
――スマートポストtはなぜこれほど長くディスプレイ広告戦略を独占することができたのか?
スマートポストの発想のもとは、フルスクリーンにある。スマホのスクリーンに広告が表示されれば、オーディエンスはAxios.comをスクロールする。それはつまり、オーディエンスの意識を完全につかめる瞬間があることにほかならない。
(スマートポストは)見出しと画像と本文で構成されていて、記事の作り方と非常に似ている。パフォーマンスは上々かと問われれば、答えは「上々」だ。現在市場にある標準的なユニットの2倍の数字を叩き出している。また、ニュースレターでも極めて順調だ。
――スマートポストから多角化に路線変更したのは、広告主の要望を伝える営業サイドの意向に応じた結果か?
独自のクリエイティブ部門を抱え、スピード感を重視する複数のパートナーから繰り返し要請があったので、標準ユニットへの追加の決断を下した。私たちがスマートポストというユニットを考えたのは、アクシオスにとってそれが自然だったからだ。それに、アクシオスのオーディエンスへのリーチをたびたび希望するパートナーがいれば、それを無下に断ることもできないし、先方は先方でクリエイティブ部門の準備が万端だった。
顧客の要請も続いたので、今一度検討しなおして、「このプレミアムな体験をパートナーにもオーディンスにも届けられる別のプログラムを考えてみようか。しかも、パートナーが自社のクリエイティブ部門を活かしながら、アクシオスのオーディエンスにもアクセスできるようなものにすればいい」と考えた。
――スマートポストは今後段階的になくしていくのか?
両方とも続けていく予定だ。どちらともニーズがあると見ている。
――今回、提案から実施までのリードタイムは、スマートポストのリードタイムよりも大幅に短縮されるのか?
間違いなく短縮される。どのくらい短くなるのかはわからないが、先方がクリエイティブ部門の準備を整えていることを考えると、かなり早くなるのは間違いだろう。顧客のニーズや需要に対して臨機応変にすばやく対応できるのがアクシオスのよいところだが、今回はクリエイティブ側の準備も整っているので、このプラグアンドプレイの要素なら、かなりシームレスで無駄なくできるはずだ。
顧客からすぐに稼働したいと要望がでると、スマートポストのキャンペーンは2営業日程度で変更してきた。ビジュアル最優先のディスプレイなら、おそらく1営業日で稼働まで実施できる場合もあるだろう。邪魔になる要素は私たちがことごとく取り除いているので、それは決して不思議ではない。
――ビジュアル最優先ディスプレイ広告は「プラグアンドプレイ」モデルなので、広告主にとっては安価なオプションだと思うだが、どうだろうか?
そのとおり。アクシオス独自のスタジオチームは通常、クリエイティブ開発をサポートするが、今回はそのサポート部分が除外されていることを考慮すると、ビジュアル最優先のディスプレイ広告の価格は、従来のCPMよりもおそらく20%低くなるのではないかと考えている。
――このビジュアル最優先ディスプレイ広告戦略は、広告収益多角化の一手でもあり、不況下における顧客予算削減の対策でもあるのか?
それは違う。顧客からは標準ユニットの需要がある。それに、この戦略は昨年来検討しているものだ。デジタルメディアの年間支出のうち、ディスプレイ広告に割かれるのが30%程度だという事実は決して見過ごせない。
とはいえ、世間の動向を見てないわけではない。2022年の上前半は非常に好調で、半期としてこれまででの最高だったが、第2四半期も最高の四半期を記録した[編集者注:ドルモンド氏からは収益の具体的な数字が示されなかった]。つまり、強気で下半期に突入したわけだが、全般的な経済状況にも注視している。
――この広告フォーマットで、Axios.comのプログラマティック広告の扉が開かれるのか?
これで、低額なプログラマティック広告の道が開くわけではない。この戦略は、直販キャンペーンにつなげることにある。現在一緒に取り組んでいる既存のパートナーと今後も取り組みを続け、パートナーがウェブサイトで提供できるサービスの幅を広げていきたい。
――プログラマティック広告をこれまでの広告に組み込まないのはなぜか? CPMが低すぎて、アクシオスとしては正当化できないからか?
アクシオスがすばらしいのは、得意な分野に全力を注げることだと私は思う。それに、私たちの強みは今いるオーディエンスだ。このオーディエンスとこれまで築いてきた信頼は、私たちの製品を利用したオーディエンスの広告に、私たちがこれまで細心の注意を払ってきたという証でもある。
――それでは、ビジュアル最優先キャンペーンに出す広告も、営業チームかスタジオチームが携わるのか?
アクシオスには、顧客も確認できるブランドガイドラインがあり、現在のブランドガイドラインと同じものに準じるつもりだ。ビジュアル最優先の広告を私も見てみたが、正直なところ、そのメッセージはこれまでのユニットで伝えてきたものと同じだった。今後、大きな違いが生じるとは思えない。
アクシオスの社内スタジオチームが今後もパートナーとともに、よりよい結果を出すデザインユニットをサポートしていく。顧客にも常々伝えていることだが、アクシオスは自分たちのオーディエンスを熟知している。何がいつまでも心に残るのか、どうすれば最も効果的にメッセージを伝えられるのか私たちはよく知っている。
だから、ブランドパートナーがアクシオスのスタジオチームの指導を必要とする場合は、喜んでサポートするつもりだ。
――今回の変更で、営業チームの営業戦略はどのように変化するのか? ローカルサイトでは、これまでハイタッチな広告(アクシオスが参入当時に展開した広告)を試す余裕のない中小企業の広告主とビジネチャンスが広がるのか?
その通りだ。地域のエコシステムを見ると、標準的なキャンペーンや広告が浸透していることがわかる。これは地域の広告の場合、規模や効率性の観点から、頼りになる定番に流れる傾向があるからだ。そのため、現在私たちが展開している地域ではビジネスチャンスが拡大し、さらに多くのパートナーが仲間に加わると思う。
チームに関していえば、今は市場やアクシオスのパートナー(代理店)・顧客にこの新しいサービスについて教える段階にある。現在、代理店や顧客と積極的に対話を行っているのは、そのためだ。数多くの顧客から寄せられていた大きな要望がようやく実現できるのだから、チームも本望に違いない。
[原文:Media Briefing: Axios enters the banner ad business]
Tim Peterson and Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)