Googleは7月27日、大方の予想どおり、ChromeブラウザにおけるサードパーティCookieのサポート完全終了を2024年後半に延期すると発表した。
延期はここ12カ月あまりで2度目になる。2020年1月、GoogleがサードパーティCookieのサポートを段階的に廃止する意向を初めて明らかにしたとき、目標期日は2022年中としていた。しかし2021年、同社はその予定をさらに延期して、2023年後半にすると決定した。
今回の延期情報は発表前にすでに漏れており(ビジネスインサイダー[Business Insider]がほかに先がけて報道)、Googleのこれからの課題の厄介さを示唆しているかのようだ。
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業界関係者の要望に応えるための延期?
GoogleのChromeは、数年前にサードパーティCookieのサポート廃止の方針を打ち出して以来、AppleのSafariなどのブラウザとは一線を画した道を歩んできた。しかし、オンラインの巨人と化したGoogleは、その力の及ぶ範囲の広さとメディア市場における支配的立場ゆえに当局に厳しい監視の目を向けられ、政治的にうまく立ち回る必要が生じている。
Googleのプライバシーサンドボックス担当バイスプレジデントのアンソニー・チャベス氏が投稿した公式ブログの記事によれば、同社のプライバシー保護施策の遅延には、英国競争・市場庁(CMA)など反トラスト当局による監視だけでなく、W3Cに加盟するメディア企業からの要望も影響しているという。
「当社はCMAに、プライバシーサンドボックスにより効果的なプライバシー保護ソリューションを提示し、業界各社への導入に十分な時間を確保することを約束した。約束の内容は、業界関係者の要望にも沿ったものになっている」とチャベス氏は書いている。「この取り組みを進めるため、我々はプライバシーサンドボックスのAPIのテスト期間を延長した。十分なテストを経たうえでChromeブラウザでのサードパーティCookieのサポート終了へもっていく予定だ」。
リスクの大きい勝負
コンサルタント会社TPAデジタル(TPA Digital)のウェイン・ブロドウェルCEOは、プライバシーサンドボックスの実験の遅延について意外ではないとし、理由として、Googleが当局の厳しい監視のもとで「リスクの大きい勝負」に出るしかなく、CMAと合意した施策を確実に実行しなくてはならない状況を挙げた。
ブロドウェル氏は、自らの見解を文章で次のように述べた。「予定の先送りはおそらく、これが最後ではないだろう。今回の延期の発表で多くの関係者がまたか、とため息をついたかもしれないが、GoogleがサードパーティCookieのサポートを廃止する意向を2019年に初めて表明して以来、これまでにかなりの進展があったといえる」。
ブロドウェル氏はこうつけ加えた。「非常に興味深いのは、Googleが何をするにしても当局の厳しい審査や手続きを経る必要があるのに対し、Appleはその種の規制の対象となっていないように見えることだ。この件については誰かがちゃんと調べるべきではないか」。
米DIGIDAYが取材した複数の情報筋によれば、従来型広告識別子のサポート終了により最大の影響を受ける独立系アドテク企業の多くがターゲティングの代替ツール候補を評価中で、取り組みはかなりの進捗を見せているという。
いまのところ、多種多様でニッチなウェブ・プロパティの収益化を助ける「拡張性に富み、誰もが公平に使える技術ソリューション」はまだ存在しないが、「そのうちかならず、理想的なソリューションが登場するはずだ」と、ブロドウェル氏は書いている。
遅延の背景には
セルサイドの事業者向け規格開発に携わる業界団体プレビット・オーグ(Prebid.org)の関係者によると、Chrome担当チーム(Google広告とは別部隊)は、アドテク企業やパブリッシャーなどのサードパーティとの協力を続けているようだ。
カフェメディア(Cafe Media)の最高戦略責任者、ポール・バニスター氏はこう述べている。「2022年上期、トピックスAPI(Topics API)やFLEDGE API関連の新情報とオリジントライアル(開発者向け技術検証)に関するGoogleの発表が相次いだとき、私は、Cookie代替技術開発が本格化し順調に進んでいると、楽観的な見方をしていた。複数のアドテク企業がテストに参加していたこともあって、ソリューション実装に向けて弾みがついた印象だった」。
しかし、ソリューション開発に遅れが生じていることから、GoogleのChrome担当チームと直接やり取りをしながら作業を進めてきたバニスター氏のチームは、先行き不透明な経済による影響があると推測している。Googleだけでなく多くの企業が、短期的な収益増を優先せざるを得ない状況に陥っているからだろう。
「プライバシーサンドボックスの機能開発に取り組む企業が景気後退の波を乗り切るため、2023年分のリソースを短期的な施策に振り向けた結果、開発作業の進捗がとどこおっているのではないか」とバニスター氏は指摘する。
遅延のメリットはあるか?
しかし、業界関係者のなかには皮肉な見方をする者もいる。Cookieサポート終了の度重なる延期は、Googleが規制当局を誘導するためにまいたエサではないかというのだ。同社が、米司法省による独禁法訴訟を避けるべく、広告事業の一部分離を提案したと報じられたからかもしれない。
「サードパーティCookieのサポート廃止の発表はGoogleにとって、自社が正しい方向に進んでいることを示すために必要な手段なのだろう」と、ある情報筋は語る。「同社は準備をととのえるどころか、本気でやるつもりがないまま、先延ばしを繰り返しているのではないか」。
もう一人の情報筋も勤務先のPR方針に従って匿名で取材に応じたが、Googleの施策の延期に次ぐ延期を評して、同社がオンライン広告業界で築いてきた支配的地位を維持するための「陽動作戦」であると述べた。
この情報筋の意見では、「Googleは、自社が開発したアドテクツールを競合他社に有償で押しつけられるなら、ぜひともそうしたいはずだ」という。「サードパーティCookieの代替となる最適な広告ターゲティングツールはこれだと、たとえ我々が明日、全員一致で合意したとしても、先行きの不確実性から、状況はGoogleに有利になるだろう。Googleにとってはすぐに結論を出すメリットがない以上、サードパーティCookieのサポート終了予定はふたたび延期される可能性が高い」。
Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)