実店舗でもオンラインと同様のデータ測定を試みるテック企業:「実店舗の重要性はかつてないほど高まっている」

DIGIDAY

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パンデミック以降、実店舗の重要性が増すなか、小売店は自社の実店舗戦略を一新するため、テック企業に目を向けはじめている。

冷蔵庫の扉をインタラクティブな広告ディスプレイに変えるクーラースクリーンズ(Cooler Screens)は、今年の全米小売業協会(National Retail Federation)のカンファレンスで、インバウンドのリードが5倍に増えたと、最高収益責任者を務めるリンデル・ベネット氏は語った。また、同社は2019年に開始したドラッグストアチェーンのウォルグリーン(Walgreens)とのパートナーシップを拡大し、関心が高まるなか、2023年には米国で全国展開する大手小売ブランドと10件の契約を締結する予定だ。同様に、データアナリティクス企業として2000社以上の顧客と提携しているプレイサーエーアイ(Placer.ai)では、小売が商用不動産に次ぐ2番目に大きな事業で、その自社データによって膨大な量のイノベーションを推進していると語る。

クーラースクリーンズやプレイサーエーアイのような小売テックベンダーとのパートナーシップを追い求める小売店が増えているのは、業界のいくつかの要素が関係している。コロナウイルスのパンデミックが買い物の行動を変えたことで、小売店は実店舗での体験をより魅力的で効率的なものにするため、顧客が店舗でどのように行動しているのかについて、より多くのデータを求めるようになった。次に、これらのソリューション、特にクーラースクリーンズのような店舗内の広告ディスプレイは、企業が、急成長しているリテールメディア事業を成長させるために役立っている。

実店舗の客足が回復

クーラースクリーンズのようなテック企業は新しいものではないが、それらの多くはパンデミックの最中に規模を拡大することが困難になった。一部の小売店は店舗での対面ショッピングを数カ月も中止することを余儀なくされたため、店舗内での体験をアップグレードするために多額の投資を行うことに関心を示さなかった。たとえば、リテール・アズ・ア・サービス・プラットフォームのベータ(B8ta)はパンデミックよりも前は、メイシーズ(Macy’s)のような小売店から多くの関心を集め、2018年には1900万ドル(約26億円)のシリーズBを主導した。ベータは小売にソフトウェアの手法を適用し、ベータの店舗で商品を展示するための月額料金をブランドから徴収し、消費者が商品のデモに費やした時間などのデータを収集する、同社のソフトウェアへのアクセスを提供した。同社はパンデミック前に北米で20店舗体制までに成長したが、客足が急減し、生き残るために必要な地主との契約を結べなかったため、2022年3月に閉店した。

しかし現在、Covidの感染件数が減少し、多くの人々が店舗内でのショッピングに戻ってきたことから、このような種類のサービスに新たな関心が呼び起こされている。プレイサーエーアイのデータによれば、昨年12月のモール店舗への訪問者数は、11月に比べて40.3%増加した。

新しい店舗内体験

これらの企業は、小売店が次のような質問に対して回答できるように支援する。「どこに店舗を設置すべきか?」「どの店舗にどの商品を置くべきか?」「店舗全体で、異なる各種の商品群をさらに販売するにはどうすればいいのか?」「店舗の店頭販売や薬局のエリアに人を集めるにはどうすればいいのか?」

プレイサーエーアイのマーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるイーサン・チェルノフスキー氏は、米モダンリテールのインタビューに対して次のように語った。「当社は小売店舗を、純粋に販売のための経路とみなしていた。しかし小売店は、実店舗がジャーニーや体験の一部であると理解しはじめている」。プレイサーエーアイは位置情報データベンダーで、小売店が通行量や滞留時間などの測定、そのほかの分析を行えるよう支援している。同社はサブスクリプション制で企業に課金しており、クライアントごとにサブスクリプションパッケージをカスタマイズしていると自社ウェブサイトで謳っている。

チェルノフスキー氏は次のように付け加えている。「測定を行うほど、それらの影響を的確に把握し、より優れたオムニチャネルの体験を作り上げることができる。そしてあるとき突然、デジタルでのアクティビティと実店舗小売でのアクティビティのすべてが連係動作し、最終消費者にとってより優れたものが生み出されることになる」。

「我々は、このようなデータを積極的に利用していない、あるいは、このようなデータを探し出すプロセスに取り組んでいないという小売店に会ったことがない」と、同氏は述べる。

「実店舗で何が起きているか」を測定する

クーラースクリーンズのベネット氏は、Covid以降の時代には、より多くの人々が店舗に戻るようになったため、特に人が集まるようになる店舗において、リテールメディアを成長させる必要が高まっていると主張する。

「ブランドは、人々がいるときに何が起きているかを測定できるようにしたいのだ。たとえば、プラスチック製のプラカードを購入した場合、そのプラカードが店舗に2カ月置かれた後などに、何らかの測定が行われ、何らかの相関関係を見出そうとする。しかしその作業をダイナミックかつデジタルな方法で行うことができれば、大きな革新がもたらされる」と、同氏は説明する。クーラースクリーンズは、ウォルグリーンやクローガー(Kroger)などの店舗にある冷凍庫の扉を、広告や画像を表示できるデジタルスクリーンに変貌させるのだ。

2017年に設立されたクーラースクリーンズの最初の大きな契約は、2019年にドラッグストアチェーンであるウォルグリーンと提携し、同社のクーラースクリーンズのプラットフォームをシカゴ広域の50店舗で運用しはじめた時だ。それ以来、このパートナーシップは拡大し、ウォルグリーンは2022年3月の時点で約700店舗でクーラースクリーンズを設置している。また、コンビニエンスストアのサークルK(CircleK)やスーパーマーケットチェーンのクローガーでも試験運用を行っている。

クーラースクリーンズは、アンハイザーブッシュインベブ(Anheuser-Busch InBev)、ネスレ(Nestle)、ペプシコ(PepsiCo)など180以上のブランドが、同社の広告ネットワークに参加していると自社ウェブサイトで述べている。

デジタル広告を物理的な体験に持ち込む

クーラースクリーンズのベネット氏は、同社の広告の価格モデルが1000回表示されるごとのコストに基づいて作られており、実際の人間がスマートスクリーンの前で1秒以上立ち止まった場合のみインプレッションがカウントされると語る。「これによって、広告をたしかに見ていることが確認される」と同氏はメールの回答に記している。「小売店との契約内容はさまざまだが、個別の契約、そして、小売店のニーズに基づいて、テクノロジーの導入コストや広告の収益を分割する」と、同氏は付け加えている。

同社からのデータでは、ブランドの売上が平均で5〜8%向上していると、同氏は付け加えている。

クーラースクリーンズ以外にも、参加型の店舗サイネージを作り上げることを試みている企業は、ランコムソリューションズ(Lancom Solutions)、バロウズグローバル(Barrows Global)、スパーシャルエーアイ(Spatial.AI)など数多く存在し、これらの企業は小売店の未来の店舗づくりを支援している。

小売店は常に、自社の店舗内体験を現代化したいと考えてきたが、これまでは優れたオフラインデータを利用できなかったと、チェルノフスキー氏は指摘する。「この数年間で、位置データなどの品質が大幅に向上し、それによって小売店が何をできるかという考えも進化した」と、同氏は述べている。

店舗内での販売以外にも、クーラースクリーンズのような企業は「購入までの過程にある」顧客データをブランドと小売店の両方に提供できると、ベネット氏は語る。「クーラースクリーンズが前提としているのは、実際に購買時点に存在するということだ。つまり、人々が飲料、乳製品、アイスクリームなどを購入するクーラーの扉がある場所は、一般的に店舗内で人通りが多く、そこで、購入までの過程において人々が正しい決定を行えるよう支援できる」と、同氏は付け加えている。

クーラースクリーンズはセンサーを使用し、買い物客がスクリーンの近くで立ち止まった時間や、クーラーのスクリーンからの距離などの情報を収集する。これは理論上、小売店がデジタルバナーなどを変更して、クーラーの扉にさらに多くの顧客を集めるのに役立つ。「買い物客が何を行っているか、どのように関与しているに基づいて、適切なコンテンツを適切なタイミングで提供できるよう、ダイナミックな体験をしているのだ」と、同氏は述べている。

リテールメディアの隆興

店舗内の測定をマッピングすることに対する需要の高まりは、リテールメディアの隆興も一因となっている。ウォルマート(Walmart)からクローガーまで、より多くの小売店が、年間約300億ドル(約4兆1100億円)を稼ぎ出すほど急成長しているAmazonの広告ビジネスの成功を模倣し、自社独自の広告ネットワークを作り上げようとしている。

リテールメディアのネットワークが、人々の過去のオンラインショッピング履歴に基づいて、高度にターゲットを絞った関連性の高いデジタル広告を表示する機能を備えているのと同様に、クーラースクリーンズは、店舗内での体験にそれと同様の体験を生み出そうとしていると、ベネット氏は語る。

チェルノフスキー氏は、業界の大多数は実店舗小売がゆっくりと衰退していき、eコマースに取って代わられていくという、完全に誤った想定に陥っていると付け加える。「パンデミックのなかで我々が見たのは、実店舗小売は衰退していくわけではなく、かつてないほど重要性が高まっているということだ。ただ、我々の価値観が変化しているのだ。実店舗の必要性と利用しやすさは合致しているということだ。それが、現在の実店舗の急増を後押ししている」と、同氏は述べる。

最終的には、こうした実店舗への需要の高まりが、位置データや訪問者数などのデータを利用した結果、よりクリエイティブな決定が可能となり、それに基づいた、小売店のグローバルな拡大へとつながるのだろうと、同氏は考えている。

「これからは、このレベルのデータを保有することが、参入への最低条件になるだろうと考えている。そして、ターゲットや、ウォルマート、そのほかの小売店の有能な人材が、これらの情報すべてを処理して意思決定を行うようになるだろう」と、同氏は述べる。

[原文:Tech companies are racing to make retail stores as measurable as websites]

Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Cooler Screens

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