メタバース 上の「土地」、いかにその価値を創造するか:「単なる金融資産ではなく、そこでのアクティベーションに価値がある」

DIGIDAY

今現在、大手のメタバースプラットフォームのなかには、仮想の土地を販売して膨大な金額を稼いでいるところもある。だが、自社のデジタル不動産にユーザーを呼び込む方法はまだ見つかっていないようだ。

仮想土地のブローカーは数多く存在するが、著名なデジタル不動産会社のディセントラランド(Decentraland)、サンドボックス(The Sandbox)、ソムニウム・スペース(Somnium Space)、クリプトボクセルズ(Cryptovoxels)は、Web3に詳しい関係者らから「ビッグ4」と呼ばれている。

「資産」以外の可能性を求めて

これまで、仮想不動産はもっぱら金融資産として扱われてきた。だが、最近の暗号市場の動向は、資産としての用途だけではいずれ立ち行かなくなる可能性を示している。暗号市場が暴落を続けるなか、サンドボックスとディセントラランドでは、仮想土地NFTの平均価格が数カ月で数千ドル(約13万円)下落している。この状況を止めるには、ゲーミフィケーション、コミュニティの構築、またはそのふたつの組み合わせによって、デジタル資産に実用的な用途を持たせる必要があることを、メタバース企業の幹部や仮想土地投資家は認識しつつある。

大手仮想土地プラットフォームが運営する仮想世界は、一定数の区画で構成されている(たとえば、ディセントラランドは9万区画、サンドボックスは合わせて16万6464区画だ)。そして、各区画がオープンマーケットで売買可能なNFTとして機能している。本稿の執筆時点で、1区画の最低競売価格は、ディセントラランドが2.1ETH(約3400ドル、約45万4000円)、サンドボックスは1.88ETH(約3000ドル、約40万円)だ。ただし、区画の大きさや場所によって価格に幅がある。

サンドボックスは、土地の販売である程度の利益を得ているが(2021年12月時点で土地の販売総額は2億1100万ドル(約281億7300万円)を超えていた)、これを主要な収益源にするつもりはない。同社は、仮想世界で行われるすべての取引から徴収する手数料(現時点で5%)を収益の柱とする計画だ。

こうしたプラットフォームは、独自の暗号通貨やNFTアバターなど、土地以外でもブロックチェーン技術を活用している。だが、仮想不動産市場はブロックチェーン技術ありきではない。アトラス・アース(Atlas Earth)のようなWeb2ベースの仮想不動産企業は、ゲーム環境内で仮想の土地を販売しているものの、ブロックチェーン技術は採り入れていない。

「大金で購入した土地が廃れてしまっては困る」

いずれにせよ、プラットフォーム各社はあらゆる面で困難に直面しており、仮想土地市場の冷え込みが見られるなかで、事業の継続性を問われかねない状況になっている。

「Web2時代にマイスペース(MySpace)が廃れてしまったのと同じように、ビッグ4が存在し続けるかどうかさえわからないし、数年後には別のメタバースが開発されている可能性もある」と、Web3の分野で女性が対象のコレクティブル投資を手がけるバッド・ビッチ・エンパイア(BAD BITCH EMPIRE)の創設者で、仮想不動産投資企業リパブリック(Republic)の元ブランド・コミュニケーション責任者でもあるリサ・ワン氏は指摘する。「大金を投じてどこかのメタバースの土地を購入したものの、そのまま廃れてしまったら極めて大きなリスクになる」と話す同氏は、「ビッグ4」の仮想不動産を所有していない。

仮想不動産を売り込むという行為は、現実の不動産と比べて無意味に見えるかもしれない。現実世界では、不動産は有限な資源だ。一方、前述のプラットフォーム各社は、購入可能な区画の数を制限しているものの、自分たちでどうにでも変更できる。

たとえばディセントラランドは、ユーザーが投票を通じて自分の世界を広げ、新しい区画を作ることを認めている。「このような空間では、真のイノベーションとインクルージョンが実現するまで、どのようにポジティブな影響やROIが得られるようになるのかわからない」と、ワン氏は語った。

仮想空間のゲーミフィケーション

メタバースプラットフォームのなかには、ユーザーをつなぎ留めるためのヒントをゲーム業界に求めているところもある。たとえば、仮想土地の売買を従来の不動産取引のような形で行うのではなく、ゲームの「モノポリー(Monopoly)」や「ポケモンGO(Pokémon Go)」をプレイするような感覚でできるようにするといった具合だ。

アトラス・アースのようなWeb2仮想不動産プラットフォームにとっては、ゲーミフィケーションによってエンゲージメントを促すほうが、ブロックチェーン技術でプラットフォームに資金をもたらすよりはるかに重要だ。アトラス・アースのCEO、サミ・カーン氏は、ブロックチェーン技術を使った仮想土地取引に対する関心の高まりを脅威に感じていない。「私たちにとって、ブロックチェーンに取り組む動機は何だろうか。この問いかけに明確な答えを提示できた人はいなかった。ブロックチェーンはいずれ、固定的な契約関係をもたらし、私たちのゲームからさまざまなものを奪い取ってほかのゲームに移してしまうだろう。だが、そのようなエコシステムはまだ存在しない」と、カーン氏は話す。

仮想土地のゲーミフィケーションは、Web2時代のインターネットとメタバースの完成形の中間的な存在とみなされている。メタバースの完成形とは、仮想土地が現実世界の土地と同じような理由で固有の価値を持つようになる世界だ。

「結局のところ、価値を生み出すのは、その土地の上に構築できる経済活動だ」と、サンドボックスのCEO、マチュー・ヌザレ氏はいう。「200年前のマンハッタンを想像してほしい。土地自体に大した価値はなかったが、企業やアーティスト、そして野心的な人々が集まることで、少しずつ経済的な価値を生み出せるようになった」。

コミュニティによる価値の創造

Web3ネイティブのメタバースプラットフォームのすべてが、仮想土地のゲーミフィケーションを強く推し進めているわけではない。「ディセントラランドは、ゲームではなく、コミュニティによって価値観が作られるプラットフォームと捉えるべきだ」と、ディセントラランドのパートナーシップ責任者、アダム・デ・カタ氏
はいう。

もっとも、ディセントラランドは非営利組織であり、その資金の大部分が4年前にすべての土地を売却して得たものであるという点で、やや特殊なケースだ。デ・カタ氏は、同組織の現在の役割を「栄誉あるガイダンスカウンセラー」と表現している。ディセントラランドの創設者らにとっては、人々が仮想土地にやって来て時間を過ごしている限り、土地の金銭的価値は重要ではない。

デ・カタ氏によれば、ディセントラランドは仮想資産のゲーミフィケーションの代わりに、サザビーズ(Sotheby’s)の仮想オークションメタバースファッションウィーク(Metaverse Fashion Week)といった期間限定イベントに投資してきたという。「イベントは、共同体のような役割を果たしてオーディエンスを動かす」と、同氏は語った。

先行者利益

現時点で、仮想不動産の台頭の恩恵をもっとも受けているのは、早くから参入している企業だ。仮想不動産投資などのメタバース事業を手がけるランドボールト(LandVault)のCEO、サム・フーバー氏によれば、ソムニウム・スペースの区画の価格は、2017年に同氏が土地を購入したときの50ドルから、今では約2万5000ドルにまで上昇しているという。

フーバー氏が仮想土地を購入したのは、価格の上昇を見込んでいたからだけではない。メタバース体験の構築を手がける同社は、主要なプラットフォームすべてに不動産を保有している。そして、ブランド各社と提携して、メタバースプラットフォームでの自社スペースの構築を支援しているのだ。そのような仕事のほとんどは、ディセントラランドとサンドボックスで行われているという。「私たちは綿密な計算に基づいて投資を行っている。基本的に、土地を購入するのは特定のプロジェクトを実現するためだ」と、フーバー氏は説明した。

さまざまな点で、フーバー氏のような企業は、仮想不動産プラットフォームの理想的な未来を象徴している。その未来とは、プラットフォーム自体が手がけるゲーミフィケーションやコミュニティイベントよりも、ランドボールトが独自に構築している体験のような、ユーザー生成コンテンツによってエンゲージメントが促進される世界だ。これこそが、分散型のマルチプレイヤーゲームとは異なる、真の仮想世界だといえる。仮想土地のゲーミフィケーションやコミュニティの構築を目指したイベントは、きっかけ作りに過ぎない。メタバースの構築者が最終的に目指しているのは、現実世界の都市と同じように、仮想世界を経済的に自立させることにある。

「我々は土地を売るビジネスをしているのではない」と、サンドボックスのヌザレ氏はいう。「土地を売ることで経済活動を生み出し、土地の所有者にインセンティブを与え、ユーザーのために何か面白いものを作ってもらおうというビジネスなのだ」。

[原文:Why metaverse platforms are gamifying their virtual real estate to attract customers

Alexander Lee(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:黒田千聖)

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