ローンチが遅れているハースト(Hearst)のラグジュアリーeコマースマーケットプレイス。ケン・ダウニング氏がそのハースト・ラグジュアリーコレクション・コマース(Hearst Luxury Collection Commerce)を監督するチーフブランドオフィサーの職を退くことになり、出版社がラグジュアリー小売業者として成功できるかどうかという疑問が残された。
混迷するハーストのマーケットプレイス
『エル(Elle)』、『エスクァイア(Esquire)』、『ハーパーズ・バザー(Harper’s Bazaar)』、『タウン・アンド・カントリー(Town & Country)』を抱えるハースト・ラグジュアリーコレクションは、12月に4つのブランドのストアをひとつのプラットフォームに統合するeコマースマーケットプレイス「ザ・タワー(The Tower)」を発表した。1月には、ニーマンマーカス(Neiman Marcus)でかつてファッションディレクターを務め、アメリカンドリーム(American Dream)やモール・オブ・アメリカ(Mall of America)といったショッピングモールを所有するトリプルファイブ・グループ(Triple Five Group)のチーフ・クリエイティブ・オフィサー、ケン・ダウニング氏がこのプロジェクトのチーフブランドオフィサーに任命された。2021年12月のプレスリリースによると、ハーストの4ブランドのうち最初のブランドは2022年春にザ・タワーでショッピングを展開し、残りのブランドが今年後半に続く計画だった。だが7月21日、ダウニング氏がホルストン(Halston)に移ることが発表され、ザ・タワーは明確なリーダーが不在の状態となった。ハーストの広報担当者によると、ザ・タワーは2023年に延期される。
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eコマースが出版社の収益の大きな割合を占めるように
12月の声明でチーフビジネスオフィサーのクリステン・オハラ氏は、ハーストのラグジュアリーコレクションはコマースの変化をうまく活用する計画だと述べている。「数年以内に、デジタルがラグジュアリーの購入の支配的なチャネルになる。コンテンツ、キュレーション、顧客をラグジュアリーブランドにもたらす企業が、このコマースの変化をリードしていくだろう。ハースト・ラグジュアリーコレクションは、まさにそれを行う態勢ができている」。
eコマースは出版社の収益でますます大きな割合を占めるようになっており、『Vogue』は5月の売上が前年比68%増、平均注文額が55%増と報告している。同誌は現在、eコマースのトラクションを踏まえて、6月に元ニーマンマーカスのリサ・エイケン氏をエグゼクティブファッションディレクターとして採用している。
これまで『Vogue』と親会社のコンデナスト(Condé Nast)は、野心的なコンテンツ部門を実現させるうえで障害に直面してきた。2016年、コンデナストは読者のショッピング方法に大変革をもたらすことを目指し、eコマースプラットフォームStyle.comをローンチする。同社はこのサイトに4年間で1億ドル(約134億4000万円)を投資する計画だったが、このeコマースベンチャーが実現することはなかった。同サイトは2017年にリテールプラットフォームのファーフェッチ(Farfetch)に名称と知的財産を買収されている。
一方で『Vogue』は、2019年にストリート・スタイルに基づいたショッピングバーティカルのヴォーグワールド(VogueWorld)の初期試験運用を行った後、現在はまとめ記事とエディターのリコメンデーションを活用し、ヴォーグショッピング(Vogue Shopping)という名称で販売を行っている。このバーティカルは「ザ・ゲット(The Get)」という専用コラムとニュースレターのローンチに合わせて、2020年に『Vogue』の米国サイトで開始された。ヴォーグワールドがどうなったかについて、コンデナストに問い合わせたが回答は得られなかった。
ラグジュアリーなストリートウェアのeコマース提案に成功した出版社が、ハイスノバイエティ(Highsnobiety)だ。2019年にプラダ(Prada)やアディダス(Adidas)とのコラボレーション商品でスタートし、その後自社ブランドのローンチパッドとなったハイスノバイエティ・ショップ(Highsnobiety Shop)は、現在70のブランドを扱うマーケットプレイスになっている。この出版物の拡大により、6月にはドイツのeコマース小売業者ザーランド(Zalando)に株式の過半数が買収された。ハイスノバイエティのテイストメーカーとしての評判にドロップモデルが組み合わさったことがショッピング体験に期待感をもたらし、それがザーランドにとって魅力となったのだ。
業界で影響力のある人材に大きく左右される
しかしハーストのような昔ながらの出版社にとって、eコマースのためにラグジュアリーブランドと提携することは、カギとなる人材採用に左右されることになるかもしれない。12月、オハラ氏はダウニング氏が同プラットフォームのブランド獲得に貢献したことを指摘し、この業界におけるダウニング氏とブランドとの長期にわたる関係性を強調した。ハーストの広報担当者によれば、ダウニング氏の影響力は、元バーニーズ(Barneys)のバイヤーでデザイナーのマリコ・イチカワ氏といった業界のベテランを惹きつけてもいる。5月末に彼に採用されたイチカワ氏は、ハーストに残留している。出版社は広告主の要求と自社の収益計画とのバランスを取ることに従うため、この分野では業界のベテランがきわめて重要となる場合が多い。今回、ダウニング氏からのコメントは得られなかった。
1月、ハーストはチーフeコマースオフィサーにエイプリル・レーン氏を任命した。彼女は約12年間、Amazonで消費者のショッピング体験の変革に向けた取り組みを主導してきた人物だ。レーン氏の役割は、ラグジュアリーコレクションやザ・タワーを含むハーストのコンシューマーメディア事業において、eコマースとパフォーマンスマーケティングの能力拡大を主導することだ。
ハーストは独占的な商品のローンチを中心に『コスモポリタン(Cosmopolitan)』のコマース事業を展開している。また、昨年はクラーナ(Klarna)との提携において、ファッションとビューティで最大50%オフの割引やお買い得品を紹介する48時間のショッピングイベント、ホーリデイ(Hauliday)を開催した。
eコマース参入で悩む出版社
今年3月のDigidayパブシッシングサミットで、出版社はeコマースに参入する際、権威を保つことやインフルエンサーとの競合に対する懸念について話している。あるエグゼクティブはオフレコで次のように語っている。「コマースは(オーガニック検索ランキング)の権威に影響しかねない。自社が40%コマースなら、突然すべてが情報サイトになってしまう。権威のランキングは下がってしまい、トラフィックに傷がつくので、広告収入も実際に痛手を負うことになる」。
また別のエグゼクティブは「(ソーシャルコマースは)私たちが調査したいと思っていて、参入したい分野だが、現在ではインフルエンサーやクリエイターが主導している。ブランドはどうやってオーナーシップを持ったらいいのか。また、どうすればクリエイターと同じような権限をもって、現場で影響を発揮できるようになるのか」と述べている。
3月にWWDが報じたように、ハーストは最近、読者数の減少を受けて『エル』と『コスモポリタン』の両誌の印刷号数を年間12号から8号へと減らしている。出版社の業績追跡調査を行なっているアライアンス・フォー・オーディテッドメディア(Alliance for Audited Media)によれば、『コスモポリタン』、『ハーパーズ・バザー』、『ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)』、『エル』は2020年から2021年にかけて、紙とデジタル全体の読者が程度の差こそあれ減少している。『コスモポリタン』は22%ともっとも大きく落ち込んでいる。
[原文:Hearst’s luxury e-commerce play is off to a rocky start]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)