テレビの測定コストが カレンシー 転換のブレーキになる理由:要点まとめ

DIGIDAY

TVネットワークや代理店が事業の刷新や業界における測定方法の見直しに取り組む場合、アップグレードには費用がかかるケースが多い。そして、いま各ネットワークの経営陣が直面し始めているのが、TV広告が複数のカレンシーをサポートすることになると、今後コストがどれだけかかるのかという問題だ。

「この件に関する私の疑問は、一体誰がこのコストを支払うのかという点だ。もし測定値を20種類も提示されたりしたら、その費用を誰が負担するのか?」。そう話すのはあるTVネットワークの役員A氏だ。

今回のポイント

  • TVネットワークおよび代理店の経営陣が懸念しているのは、「複数の効果測定プロバイダーのサポートを追加すれば、効果測定費の上昇にどのような影響がおよぶのか」。
  • TVネットワークおよび代理店は、ニールセン(Nielsen)の効果測定値を利用するために、すでに年間何億ドルも支払っている。
  • 効果測定費用が上昇すれば、TV広告業界のマルチカレンシー時代への転換が遅れるのではないか。

「話題はもっぱらコスト」

TVネットワークや広告主にしても、その代理店にしても、放映されたテレビ番組の視聴率の測定で、すでにニールセンに資金をつぎ込んできた。彼らが直面しているのは、ニールセンに代わるプロバイダーの効果測定値をサポートするために、これまで以上に負担が増すかもしれないという未来であり、カレンシーの費用という難題は今や、TV広告のバイサイドのあいだでもセルサイドのあいだでも、話題になっている。

「代理店と話しているときも、話題はもっぱらコストについてだ。ひとりで考えているときも頭から離れない」と前述とは別のTVネットワーク幹部B氏が話す。

オムニコムメディアグループ(Omnicom Media Group)のハーツアンドサイエンス(Hearts & Science)で統合投資部門のプレジデントを務めるシャロン・カレン氏は、「そういう声が聞こえてくることからも、我々代理店がもうこれ以上費用負担の矢面に立つことが不可能だとわかる」と話す。

ニールセンは2021年の効果測定事業で25億ドル(約3250億円)の収益を計上した。この収益は、測定値を提供している広告主だけでなく、TVネットワークのようなメディア各社への請求額に他ならない。

現状、ニールセンに支払う費用は、TV広告の収入にしっかりと組み込まれているため、ほとんど売上税のようなものだ。そのうえ、TVネットワークや広告主は今後、コムスコア(Comscore)やアイスポットtv(iSpot.tv)、サンバTV(Samba TV)、ビデオアンプ(VideoAmp)のようなニールセン以外の効果測定プロバイダーをサポートする予定であり、これは追加税が課されることにほかならない。

ビジネスモデルの変化にコストモデルが対応していない

TVネットワークには、ニールセンの効果測定値を得るため、すでに毎年何億ドル(何百億円)も支払い続けているオーナーもおり、今後その支払い額が2倍、3倍と増加し、その分利益が削られていくことに耐えていけるものなのか頭を抱えている。

「ニールセンにこれまでどおりの金額を支払い、そのうえさらにほかの2社にも同等の金額を支払うなんてできない。同等どころか、半額でも無理。そもそも、そんなことは可能ではない。利ざやもビジネスモデルもまったく機能しなくなり始めている。多くのメディア企業にとって、ニールセンは大口取引相手の筆頭だ。その規模は何億ドルにもなる」と前述のTVネットワーク幹部B氏が話す。

3人目のTVネットワーク幹部もこのように語る。「TVネットワークの中堅以下の企業となれば、ニールセンに加えて他にも3社と契約する余裕などない。これは本当に大きな問題だ。現在の仕組みでは、番組関係の料金ですでに多額のコストがかかっている。今後、データ主導のリニアやアドバンスドTVにシフトしていくと、そこでもまた独自の料金が発生する。新たなコストだ」。

広告バイヤーはTVネットワークほど効果測定料金を支払っていない。業界の企業役員によると、大手で年間数千万ドル(数十億円)というのが相場だという。

「代理店はTV局ほど料金を払っていない。というのも、それだけの収益源がないからだ。TV局はニールセンの数字で稼いでいる。ニールセンもそれを承知していて、それに基づいてTV局に請求書を送っている」とフリーランスのメディアコンサルタント、ブラッド・アドゲート氏は話す(同氏は以前、ホライゾン・メディア[Horizon Media]でリサーチ部門のシニアバイスプレジデントを務めていた)。

広告主とエージェンシーの負担も増

さらに、広告主とその代理店も効果測定費を支払っている。それに、彼らもTVネットワークと同じように、想定される料金アップを前にして、財源に危機感を覚えている。「この業界の経済規模は半端ない……今後は代理店として、コムスコアにもアイスポットにもビデオアンプにもニールセンにも、お金を払うことになるのだろうが……」とある代理店幹部C氏はこぼした。

複合的な要因として、広告主とその代理店はすでに、広告料金を抑えようと取り組んできたという事実が挙げられる。特に、アドテク料金やデータ料金などの新しいコストが、TV、ストリーミング、デジタルビデオを網羅する広告ミックスに追加されるようになってからは苦心している。代理店幹部B氏はこう説明する。「そうした料金を払い続けていれば、メディアの予算はあっという間になくなる。あれこれ手を広げてしまったからだ。予算が100万ドル(約1億2500万円)あるとしても、効果測定値やデータに使えるのはそのうち1%にすぎない」。

TVネットワークや広告主、代理店にとって幸運なのは、少なくともあと1年はこの効果測定費用の問題を解決しなくてもよいという点だ。というのも、測定の矛盾マルチカレンシーのマーケットプレイスへのシフトを遅らせてきたアドテクの統合といった問題が残っているからだ。それに、この効果測定費用の問題に関しては、「その転換がもう少し遅れるかもしれない」とTVネットワーク幹部のC氏は話す。

「損益管理をしていれば誰でも、先を見越して『効果測定費用の1000万ドル(約12億5000万円)をさらにうちのシステムに注ぎ込もう』といえるとは限らないのではないか……。インプレッションを追加すれば、必ずそれなりの利益が得られるというのは決して業界のコンセンサスではないと私は思う」と同氏は話した。

競合の圧力でコスト上昇が緩和される?

この状況に希望の光があるとしたら、ニールセンと競合各社との競争激化に伴い、効果測定費用の上昇がいくぶん和らぐ可能性があることだ。

「これまでニールセンに競合相手がいたとき(たとえばコムスコアなどだが)、ニールセン側の料金設定が少しばかり低くなり、対応に関してもニーズに合わせた調査や分析データの提供など顧客の要請に応じて少しばかり柔軟になったと記憶している。いや、少しどころではない」。そう話すのはメディアコンサルタントのアドゲート氏だ。

とはいえ、ニールセンが自社のパネルデータを増やして競合に勝つために、他社のデータにライセンス料を支払わなければならなくなると、ニールセン自体のコスト増加につながる。「データの取得にはライセンス料が必要になるので、今後数年で、リサーチはさらに高額化するだろう」とアドゲート氏は予測する。

これは、TVネットワークや広告主、その代理店にとって不吉な情報だ。経済活動の広い範囲でインフレが進むと、企業がそのコストを顧客に負担させるケースは決してめずらしくない。

[原文:Future of TV Briefing: Why measurement costs could slow TV ad industry’s currency changeover

Tim Peterson(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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