ヴィクトリアズ・シークレット の失敗に学ぶ、下着ブランドの成功戦略とは?

DIGIDAY

7月14日、Huluで『Victoria’s Secret: Angels and Demons(ヴィクトリアズ・シークレット:エンジェルと悪魔)』の配信がスタートした。ブランドのダークサイドを年代順に描く新たなドキュメンタリーシリーズだ。見どころは、セクシー路線のマーケティングが社会に及ぼした影響と、ヴィクトリアズ・シークレットのかつての親会社エル・ブランズ(L Brands)のレスリー・ウェクスナー元CEOとジェルリー・エプスタイン氏の関係性などである。

2010年代以降の王者の凋落

番組は、ヴィクトリアズ・シークレットがまさにリブランディングを推進する最中にスタートした。同社の最近のキャンペーンは、これまでのようにスリムな白人モデルばかりではなく、セレブアンバサダーを起用している。VSエンジェルズのイニシアチブをよりインクルーシブなものへとアップデートした「VSコレクティブ(VS Collective)」には、サッカー選手のミーガン・ラピノー氏やインド人女優のプリヤンカー・チョープラー氏らがモデルとして名を連ねる。その一方でヴィクトリアズ・シークレットは7月半ばには経営陣の解雇を余儀なくされ、株価の急落も招いた。

マーケットシェアという観点から言えば、同社は依然としてNo.1下着ブランドだ。しかしライバルのエアリー(Aerie)、サードラブ(ThirdLove)、スキムス(Skims)、パレード(Parade)、ライブリー(Lively)にも成長の余地は間違いなく残されている。ライバルたちはヴィクトリアズ・シークレットが道を踏み外すさまを注視し、あえて違う道を選ぶことで、業界最大手から売上を奪おうとしているのだ。

2021年11月に米GLOSSYが行ったケーススタディでは、ヴィクトリアズ・シークレットがいかに優位を失っているかが明らかになった。同社の営業利益は2010年代を通して急減し、コロナ禍でもその状態が続いている。2019年はまさに岐路に立たされ、7億2000万ドル(約936億円)の損失を計上した。以来、同社は再建に苦しんでいる。インターネットの検索件数も減った一方で、エアリーをはじめとするライバルの検索件数は増大した。

ライバルたちの躍進

D2Cの下着ブランドであるパレードの創業者兼CEOを務めるキャミ・テレス氏は、ヴィクトリアズ・シークレットについて次のように分析している。「あのような大手でも破綻し得る。巨大ブランドがひとつの美的感覚だけを推すような時代はとっくに終わった。ヴィクトリアズ・シークレットが落ち目になったいま、新たなブランドが参加し、活躍できるだけの十分な『ランウェイ』が用意されている」。

パレードは創業からわずか2年でヴィクトリアズ・シークレットのライバルへと急成長を遂げた。ただし両社のターゲットは異なる。パレードの20万人の顧客の大半はZ世代で、20人に1人はノンバイナリーだという。

下着ブランドのアドアミー(Adore Me)の戦略担当バイスプレジデントを務めるランジャン・ロイ氏は、ヴィクトリアズ・シークレットが犯した最大のミスとして、製品やデザインの本質は変えずに表面的なマーケティングに注力し、離反した顧客を取り戻そうとしたことを挙げた。

「極めて曖昧なマーケティングに大金を投じて有名人を起用しただけだ。今までとどこが違うのかを、まったく明確に伝えようとしなかった。ミーガン・ラピノー氏がアンバサダーに就任したが、2021年の10月以来、彼女はブランドについて何も語っていないし、行動もしていない」とロイ氏は指摘する。

これに対し、同氏が語るアドアミーの「サイズ・インクルーシビティ」へのアプローチは、ビジネスの基本を第一に考えたものだ。たとえば同社は、数年がかりで社内在庫管理システムを開発し、プラスサイズとレギュラーサイズの商品比率の管理を推進した。そのうえで、派手な広告を打ったり、自己満足的なキャンペーンを張ったりするのではなく、顧客が買い物をするときに実際に豊富なサイズ展開を目にできることに主眼を置いたマーケティングを展開した。

アドアミーでは現在、約70種類のサイズのブラとショーツを扱っており、もっとも大きなものは4XLだ。対するヴィクトリアズ・シークレットは、「よりインクルーシブなブランド」だとアピールすることに時間を費やしつつ、2022年になってようやくXLの提供を開始したばかりである。他の下着ブランドのサイズ展開は目下、XS~XXL。ヴィクトリアズ・シークレットにサイズ展開を拡大する予定について尋ねたところ、回答は得られなかった。

アドアミーの売上の3分の1はプラスサイズが占めるが、ロイ氏によれば、マーケティングで特にプラスサイズを売り込むことはしていないという。同社の年間売上高は2億ドル(約260億円)超だ。

ロイ氏は次のように説明する。「重要なのは、下着業界におけるリードタイムがとても長いことだ。VSコレクティブを始める2年前からインクルーシブな商品の開発に着手していない限り、マーケティングに合った実際の商品を投入できるようになるまで、まだ時間がかかるだろう」。

あるべきインクルーシブの姿

ロイ氏はさらに、マーケティング第一のアプローチが理想的とは言えないことを示すよい例として、オールドネイビー(Old Navy)の「ボディクオリティ(Bodequality)」を挙げた。オールドネイビーは、全店舗の全商品について、同じ価格でインクルーシブなサイズ展開を行うという力強いイニシアチブに着手し、大成功を収めた。だがその1年後には、全店舗に必要な在庫数といった重要な問題を明確化していなかったことが判明し、結果として、このイニシアチブを大々的に撤回するはめになった。業界全体としてのインクルーシブへの取り組みを損なうものだとロイ氏は憤る。

「ああした大きな失敗はよろしくない。よりインクルーシブなブランドをめざす他のブランドまでやる気をなくしてしまう。まずは実際にインクルーシブなブランドになり、そのうえで消費者からインクルーシブなブランドだと認めてもらう必要がある。当社は早い段階からインクルーシブなモデルを起用し、プラスサイズの在庫も常に確保してきた。こうしたアプローチこそが、現在の顧客基盤の構築につながっている」とロイ氏は締めくくった。

[原文:How intimates brands are trying to succeed where Victoria’s Secret’s inclusive rebranding isn’t

(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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