「従来の古いプレイブックは捨てられつつある」:核テナントのあるべき姿を再考するショッピング モール たち

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

百貨店がモールを撤退するのに伴い、所有者は、残された広い空間の利用方法について工夫を凝らすようになってきている。

イーストサンノゼのイーストリッジセンター(Eastridge Center)ショッピングモールは、シアーズ(Sears)が残した26万平方フィート(約2万4200平方メートル)を超える空間を、ベトナムの屋内市場へ転換することによって再活性化しようとしている。カリフォルニアのサンタアナにあるメインプレイスモール(MainPlace Mall)では、アメリカン・ニンジャ・ウォーリアー・アドベンチャー・パーク(American Ninja Warrior Adventure Park)が7月に開園し、モンキー・スイング、スパイダー・ウォール、ティルティング・ログなど、ショーの内容に沿った障害物コースが用意されている。一方でケンタッキーのルイビルにあるオックスムーアセンター(Oxmoor Center)は、2階にある2万8000平方フィート(約2600平方メートル)の空間をオフィスに変えようとしている。

アンカーテナント(核テナント)は、大きな面積を占有し、一般的に買い物客をモールに引き入れる店舗である。かつては百貨店がモールのアンカーと同義語であったが、近年は百貨店の売上が減少し、破産も経験するなど、百貨店の集客力に疑問が寄せられるようになってきた。モールの所有者はトラフィックを増やすため、モールの広い空間に入れるテナントとして、食料品店、娯楽スペース、オフィスなど従来とは異なるテナントを試みつつある。

プレイサー・エーアイ(Placer.ai)のマーケティング担当バイスプレジデントを務めるイーサン・チェルノフスキー氏は次のように述べている。「シアーズ、メイシーズ(Macy’s)、ジェイシーペニー(JCPenney)は店舗を閉鎖していった。突然、もっとクリエイティブな発想が必要になった。古いプレイブックは捨てられつつある」。

シアーズはつい最近、4年ぶりに破産から脱したが、同社の店舗数はすでに全盛期の3500店舗近くから、24店舗未満に減少した。ジェイシーペニーは2020年、再建計画の一環として、店舗の30%近くを閉鎖することを計画していた。当時の同社は2010年以来利益をあげたことがなく、損失は45億ドル(約6350億円)に達していた。

不動産アナリティクス企業のグリーンストリート(Green Street)は、昨年8月にニューヨークタイムス(New York Times)に取り上げられ、米国のモール1000カ所のうち、アンカースポットの空きは推定750カ所あると示唆している。モールの所有者は現在、ターゲットとなる買い物客のニーズに合わせてこれらの空間を調整しているところだ。

以下では、米国のモールにおける代替アンカーテナントのいくつかについて解説する。

食料品店は客足を増やす

モールに食料品店があるのは他国では一般的な傾向だが、米国のモールは専門店に特化する傾向がある。しかし最近になって、アメリカのモールも専門的な食料品店をテナントに加えるようになった。

カリフォルニアのサンノゼにあるウェストフィールド(Westfield)メガモールは、アジア食料品店のナインティナイン・ランチマーケット(99 Ranch Market)が3月にオープンしたとき、買い物客がこの店舗を訪れるために行列を作った。プレイサー・エーアイのデータによれば、この食料品店がオープンしてからわずか数カ月後の7月、ショッピングセンターの来店者数は10.1%増加した。この専門食料品店は、ウェストベリーのサマネアニューヨーク(Samanea New York)モールにも、アジア料理に特化したレストランのテナントと並んで出店した。

プレイサー・エーアイによると、それと同様に、イタリアのマーケットプレイスとフードホールチェーンのイータリー(Eataly)が6月にカリフォルニア州サンタクララのウェストフィールドバレーフェア(Westfield Valley Fair)に店舗をオープンしたとき、モールへの来店者数は、パンデミック前の数値に対して久しぶりに20%超えた。

商用不動産企業のカプリコーン・アセット・マネジメント(Capricorn Asset Management)のCEOを務めるジェイソン・リクター氏は、テナントに食料品店を追加しているモールは、客のリピート訪問を求めていると語る。モールを頻繁に訪れる買い物客は衝動買いをする可能性も高いというわけだ。

同氏は次のように述べている。「ほとんどの人々は、最低でも週1回、ときにはさらに多く食料品を買いに行くが、モールではこのような定期的な訪問者が常に存在するとは限らなかった。人々は買い物に行くが、誰でもが、毎日のように衣服を探しに百貨店やモールの専門店を訪れるわけではない」。

エンターテインメントを客引きに使用する

一部の所有者は、人々が少しでも長くモールに滞在することを求めている。このため、いくつかのモールは多くの買い物客が施設内で時間を費やすように、エンターテインメント空間を取り入れはじめた。

チェルノフスキー氏は次のように述べている。「これらのモールは、人々がショッピングセンターやモールに行くのは、ただ店舗を順にめぐって、できるだけ多くの衣服を買い求めるためではないことを理解している。まる1日を充実して過ごすには、もっとよい方法がある」。

モールは、買い物目的のものから、より体験的要素が強いものになりつつある。メインプレイスモールにアメリカン・ニンジャ・ウォーリアー・アドベンチャー・パークがオープンするという話が広まって以来、CEOのエイドリアン・グリフィン氏は、モール経営者や地主から、自分たちの店舗にも障害物コースを設置することに関心を示すメールが山のように届いたと、スペクトラムニュース(Spectrum News)に語った。英国では14の障害物コースがオープンしており、1カ所あたり20万人から25万人の来客があるという。

楽しんでいるときは、時間がすぐに過ぎる。このため、プレイサー・エーアイによれば、サージエンターテインメント(Surge Entertainment)が4月にルイジアナのボシアーシティにあるピエール・ボシアー・モール(Pierre Bossier Mall)にオープンしたとき、ショッピングセンターの滞在時間の中央値は従来の51~58分間から78分間まで増加した。サージエンターテインメントは、ジップライン、ボウリング、アーケードゲームなどのアトラクションを提供している。

専門家は、モールの所有者たちが特定の層の人々を引き寄せるため、エンターテインメント空間を戦略的に利用していると語っている。このため、エンターテインメント空間は、子どもや家族向けのものもあれば、年齢層の高い人々を引き寄せるように作られているものもある。たとえば、ペンシルバニアのヨーク郡にあるヨークガレリア(York Galleria)のシアーズの店舗跡地には、昨年8月に8万平方フィート(約7430平方メートル)のハリウッドカジノ(Hollywood Casino)がオープンした。

仕事のために来てショッピングで滞在

モールにオフィス空間を置くというアイデアは新しいものではない。モールの所有者は、この考えを2018年頃から検討してきた。ししか専門家は、パンデミックによりリモート勤務が続いたことで、このトレンドが加速したと語っている。

オフィスは、平日、特に勤務時間帯の訪問客数を増やすのに苦戦しているモールにとってのソリューションになり得る。また、モールは昼食の時間を十分にとれない、または仕事帰りに小売店を訪問するオフィス労働者にとって便利な場所となり得る。たとえばオックスムーアセンターにあるオフィス空間で勤務する人々は、アンテイラー(Ann Taylor)やアンソロポロジー(Anthropologie)などの店舗や、カリフォルニアピザキッチン(California Pizza Kitchen)やビージェーズ・レストラン・アンド・ブリューリー(BJ’s Restaurant & Brewery)などのレストランがすぐ近くにある。

商用不動産開発業者イーストバンク(EastBanc)のプリンシパルを務めるフィリップ・ラニアー氏は次のように述べている。「これによって、日中、閉じ込められた人々をモールの空間に呼び込み、客足を増やすことができるため、好ましい戦略だ。どこで行うか、どのように実行するかによっては革新的な方法になり得る。このオフィスモデル自体は現在、非常に厄介なものになっている」。

空間にどの会社が入居するべきかを選ぶとき、モールの所有者はその地域に居住する住民のライフスタイルも考慮することになる。たとえば、コネチカットのトランブルのような場所では、住人の13%が自営業で、コワーキングスペースのジェフワークス(Jeff Works)に理想的な場所と見なされたと、ザ・トランブル・タイムス(The Trumbull Times)は報じている。このコワーキングスペースはハウリーレーンモール(Hawley Lane Mall)にある。

古いモールのプレイブックは役に立たない

米国においてCovidによる制限がほとんど解除された現在、消費者は大挙して店舗に戻りつつある。これはモールにとって、成長のはずみを得る機会だ。

周囲の小売店が成功するかどうかも、モールのアンカーが大勢の人々を誘致できるかどうかにかかっていると、ラニアー氏は語る。モールアンカーは、1日のうちでもっとも人出が多い時間帯を示すこともできます。1日のどの時間帯に客足がもっとも多くなるかを示すこともできる。たとえば、映画館は夜間に多くの買い物客を招き、百貨店は日中に多くの買い物客を引き入れる。

「モールアンカーは、その空間の特性と、通行量の予測可能性を決める。中規模から大規模のモールでは、3つか4つのアンカーをバランスよく配置することで、良好なポートフォリオを作り上げることができるだろう」と、同氏は述べている。

しかし、実行するのはそう簡単ではない。ムーディーズ・アナリティクス(Moody’s Analytics)によれば、地域および複数地域のモールの空室率は、今年の第3四半期に10ベーシスポイントも増加し、11.1%に達した。プレイサー・エーアイのチェルノフスキー氏は、モールが既存の枠を超えて考えるようになると、アンカーについて誤った選択をしてしまうリスクも生まれると語っている。

同氏は次のように述べている。「選択肢が数多いため、創造性を発揮する余地が増えるが、誤った行動をしてしまう危険も大きくなる。誤ったテナントを獲得してしまう可能性は常に存在する」。

しかし、現在のところモールにとって最大のリスクは、数十年も前に作られた青写真に従うことだと、同氏は語る。ノードストローム(Nordstrom)エクスプレス(Express)のような昔からのテナントが、これまでのモールに基盤を置いていた過去から距離をおこうと公然と試みている状況で、モールにとって適切な戦略を見つけるのは喫緊となりつつある。

チェルノフスキー氏は次のように述べている。「経験という観点から、これらのモールが我々に与えてくれる選択肢の一覧が存在する。彼らがより優れたものを持ち出すことができれば、私はそこに踏み込む可能性が高くなるだろう」。

[原文:‘The old playbook is being thrown out the window’: Malls are rethinking what anchors should look like]

MARIA MONTEROS(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Eastridge Center

Source

タイトルとURLをコピーしました