「建物が崩れる最中に、埃を払っているようなもの」:広告業界における サステナビリティ 提唱者の告白

DIGIDAY

先月、2020年にパンデミックによって停止されて以来初めてのカンヌライオンズが開催され、「広告業界に楽しい時代が戻った」と宣言したように見えた。しかし、すべてが飲めや歌えの楽しいこと尽くめだったわけではない。

今年のカンヌで流行のフレーズのひとつが、「サステナビリティ」だった。アドテク企業数社は業界のカーボンフットプリントを相殺できる、という彼らのケイパビリティ(とコミットメント)を表明し、CMOたちや一般大衆の共感を得ようとした。

DoubleVerifyとオープンX(OpenX)はともに自社の取り組みを紹介するためにこの国際舞台を利用し、グッドループ(Good-Loop)とシェアスルー(Sharethrough)は、アドテック界のゴッドファーザーであるブライアン・オケリー氏の最新ベンチャーであるスコープ3(Scope 3)との提携を発表した。

とはいえ、歴史的に消費拡大のメリットを宣伝することを目標としてきたこの業界が抱える環境問題をテクノロジーが解決すると、誰もが納得した訳ではなかった。

たとえば、活動家グループのグリーンピース(Greenpeace)がWPPのカンヌ・ライオンズ本部のビーチを(ほぼ文字通り)襲撃し、化石燃料の推進に継続的に関わっている同社に抗議したが、これはサステナビリティがどれだけホットな問題であるかを示している。

匿名を条件に業界の舞台裏について赤裸々に語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は先月南仏で行われた(この人物の言葉を借りると)「資本主義の祭典」に参加した、業界で長年サステナビリティに取り組んできた人物に取材し、業界で注目のコンセプトとなるずっと前から取り組んできた人たちはどう思っているのか聞いた。

このインタビューは、わかりやすくするために軽く編集され要約されている。

――あなたはどれくらいのあいだ、マーケティング担当者のあいだでサステナビリティを推進してきたか。また、サステナビリティは常に好意的に受け止められてきたのか。

私は10年以上、広告業界でサステナビリティに関する仕事をしてきた。仕事を始めたときには、ブランドからサステナビリティについてアドバイスするよう求められる人々がいることは明らかだったが、彼らの多くは何を話せばいいのか分かっていなかった。

グリーンウォッシング、虚偽の主張、そして意図せず曖昧な言葉遣いが使われるといったことが多くあり、メディアの観点からは、多くが長期的な視点を持つことを考えていないことが明らかだった。一般的には、サステナビリティに対して敵意があったし、大きな案件で働いていた人たちの多くは、サステナビリティに取り組もうとする人々にクライアントと関わって欲しくないと思っていたが、今では大きな問題として捉えられている。

実際、今年のカンヌで私が以前働いていた代理店のある人物が、サステナビリティ関連の企画を売り込んでいるのを耳にした。この人物はかつて、私たちがしていること(サステナビリティ)は時間の無駄だ、と言った人物だった。人の考えが変わることは大賛成だが、この一件は興味深いものだった。

――何が転換点となったと思うか?

私が思うに、大きな転換点のひとつはブランドの「パーパス」がメインストリームになったことだと思う。長いあいだ、サステナビリティは「グリーンブランド(エコを前面に押し出したブランド)」のためだけのものであり、グリーンでないブランドがそれを行ったとき、それはあまりうまく機能した試しがなかったからだ。

この点を主流にした大手ブランドのいいキャンペーンもいくつかあったが、一部の人の気持ちを逆撫でするために広告の対象にしただけのブランドもあり、それはある種間違っていると感じた。ブランドが何かをしようとするなら、たとえばサプライチェーンを変えるなど、それを裏付けするようなアクションを起こさないといけない。しかし、それは難しいことでもある。

気候変動が後戻りのできない事態まで悪化してしまうのを防ぐため、パリ協定と広告業界の足並みを揃えようにも、私たちには非常に短い時間しか残されていない。そして業界の多くの人たちは、サステナビリティを口にしながらも実際に炭素排出量の多いクライアントを排除する、と言った動きを見せることはない。建物が崩壊している最中にそのなかの埃を払っているような状態だ。

――今年、アドテク企業がサステナビリティに関連した広告メッセージを発信することについてどう思ったか。

いずれにしても歓迎すべきことだが、業界がフェイクニュースや過激主義に対して年間数十億ドルもの資金を提供していることは指摘しておくべきだろう。これには気候に関するフェイクも含まれる。これは民主主義を不安定にし、世界のリーダーたちが行動を共にし、意義ある方法で気候変動に対処することを妨げてしまっている。

多くのアドテク企業が自社のオペレーションの脱炭素化について語っているのを見てきた。そしてそれらの取り組みはすべていいことだが、フェイクへの対処はどうなっているのか。アドテク企業のなかには、メディア投資としてソーシャルメディアを使用する企業が多いが、調査を見ると、こうしたソーシャルチャンネルが気候に関する誤情報の発生源として約90%も占めているのだ。

[原文:Confessions of a sustainability advocate: ‘We’re dusting when the building is falling down’

Ronan Shields(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)

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