価値が下がる NFT 、有効活用法を模索するブランド各社:「価格も下がっているいま、有用性を真剣に考えるのは自然なこと」

DIGIDAY

暗号資産市場が激しい変動を繰り返すなか、消費者ブランドやeコマースプラットフォームはNFT(非代替性トークン)に新たな手法を次々に試し、NFTを目新しいコレクターズアイテムから消費者と企業の役に立つものへと進化させようとしている。

彼らは、単なる販売用や景品用としてブランデッドNFTコレクションを展開するのではなく、NFTオーナーが製品やサービス、体験を独占的に得られる機会、他の誰よりも早く得られる機会を提供するための「トークンゲーティング(token-gating)」を試行してきた。そしてそれが力となり、その価値は低下しているものの、ブランドもプラットフォームも足を止めることなくNFTを介してWeb3へと進出し、そこにコミュニティを構築している。

先日開催されたNFT.NYCの会場で、フランスのラグジュアリーブランド、バルマン(Balmain)でCMOを務めるチョンピ・ディーズ氏は、同ブランドのNFT戦略について、こう語った。「NFTのオーディエンスは、ただのオーディエンスではない。それはコミュニティであり、コミュニティにつながることができるということは、ブランドにとって非常に大きな意味を持っている」。

ブランド各社の「模索」

  • バルマン:NFT+スニーカー、デザインスケッチ、パリコレのVIPパス
  • ショッピファイ:NFT+オンラインショップへの独占アクセス権
  • コロラド州のビール醸造会社3社:NFT+購入者限定のイベントへの参加と醸造所見学ツアー
  • メイシーズ:NFT+ディスコードサーバー

コミュニティ構築への活用

バルマンは、今年はじめにマテル(Mattel)とのコラボレーションによるバービーの共同ブランディングでNFTデビューを飾ったのち、新作スニーカー、ユニコーン(Unicorn)のプロモーションのため、アーティストのジェフ・コール氏とのコラボレーションによりNFT3点をオークションにかけた。このオークションでは、落札者はNFTのほかに、スニーカーの実物と、オリジナルのスケッチ、今年のパリコレで開かれるバルマンの各種イベントへのVIPパスも手にした。

バルマンは、単に消費者にコレクターズトークンを提供するだけではなく、NFTへのアプローチを改良してその先へと進もうとしている数あるブランドのなかの1社だ。バルマンのほかにも、メイシーズ(Macy’s)やベントレー(Bentley)、スターバックス(Starbucks)、ナショナル・ホッケー・リーグ(National Hockey League)といった著名組織のマーケターも、NFTを介して独占的な体験を提供し、それらを自社事業のさまざまな分野に統合する手段を模索している。

NFTを有効活用するためにブランド各社が用いているアプローチのひとつは、コミュニティの構築だ。たとえば、メイシーズは現在、7月4日の独立記念日に先駆けて、同社の新しいディスコード(Discord)サーバーに登録した先着1万人に、花火をモチーフにした拡張現実(AR)NFTを配布している。スターバックスのCMO、ブレイディ・ブルワー氏は今年5月、オーナーが「エクスクルーシブな体験や特典」とともに「コミュニティメンバーシップ」にアクセスできるブランデッドNFTシリーズの制作をめざしていると述べている。

ブルワー氏が同月に投稿したブログによれば、「NFTには、ロイヤルティ獲得に向けたオーナーシップモデルの拡大・共有や、独自の体験の提供、コミュニティの構築、ストーリーテリング、顧客エンゲージメントなど、さまざまなものを生み出せるポテンシャルが秘められていると、スターバックスは確信している」という。

中小ブランドも模索を続ける

消費者向けの単なるコレクターズトークンとしてではなく、NFTを有効活用する方法はないものか? その方法を模索しているのは、大手ブランドだけではない。コロラド州にあるビール醸造会社、デンバー・ビア・カンパニー(Denver Beer Company)、グレート・ディバイド・ブルーイング(Great Divide Brewing)、レゾルート・ブルーイング(Resolute Brewing)の3社は先日、NFTの合作コレクション18点をリリースした。1点200ドル(約2万7130円)のトークンを手に入れたビールファンは、7月に開催される3社の醸造所を見学するツアーに独占的に参加できる。

レゾルート・ブルーイングの共同創業者、クリフトン・オートリ氏によれば、3社が利用している支払い処理業社が当時、ブロックチェーンの諸機能をシステムに組み込むことはできないものかとその方法を検討しており、その話を聞いた彼らもNFTを試してみることにしたという。同氏は、自社のロイヤルティプログラムにNFTを組み込めるようになる未来に大きな期待を寄せていると付け加えた。NFTのオーナーに限定販売のビールをいち早く手に入れるチャンスを提供したり、ビールファンに限定版ビールを買った証しとしてNFTをプレゼントすることも考えているという。

ミントNFT(MINT NFT)の共同創業者、ジェームズ・サン氏は、「暗号資産の価値が下がり、NFTの価格も下がっている。それを目の当たりにしているいま、NFTの有用性と推論を対比させながら真剣に考えるのは、ごく自然な流れだ」と語る。ミントNFTはこれまでに、バルマンをはじめとするブランド各社のNFTプロジェクトを手がけてきた。

NFTへのアプローチを変えつつあるのは、ブランドマーケターだけではない。ショッピファイ(Shopify)は先日、NFTホルダーのみにオンラインショップへのアクセス権を与えて、製品やコレクションを買えるようにする機能をはじめとする、マーチャント向けのさまざまな新機能を発表した(イーベイ[eBay]も同日、NFTマーケットプレイスのノウンオリジン[KnownOrigin]の買収を発表した。イーベイは1年前からNFTの販売を許可するようになった)。

様子見か、押し切るか

NFTの価格に関する喧伝が鳴りを潜めるようになった現在、ブランドやテック企業はいま、その新たな活用法を見つけることに力を注いでいるという声が一部から聞こえてくる。ブロックチェーンの諸機能をオンライン店舗へ拡大すること。それは、NFTをeコマース戦略に組み込む手法として「他よりもはるかに本格的な」手法だと、ショッピファイのブロックチェーン部門のトップ、アレックス・ダンコ氏はいう。ブランドとエンゲージする方法をユーザーに与える一方で、個々のブロックチェーンを特別扱いしないようにすることで、ショッピファイは「ウォレットを意識した」プラットフォームになることをめざしていると、同氏は述べる。

「動揺を誘う最大の原因は価格であり、ひずみの原因のひとつも価格だ」と、ダンコ氏は語る。「そのせいで、制作側は人々が本当に欲しているものの発見から遠ざけられてしまっている」。

その価値は下がっているものの、NFTを通して人々が求めるであろうものを提供することをめざしているブランドやeコマースプラットフォームもある。しかしその一方で、すべてのブランドやプラットフォームがそれに全力を傾けているわけではない。

NFTの公開に5万ドル(約678万円)以上を費やしているブランドもあるかと思えば、今夏に予定されていた公開を延期しているブランドもある。デザインコンサルタント企業のジャーニー(Journey)でメタバースおよびWeb3部門を率いるサーシャ・ウォーリンジャー氏によれば、変動の激しいNFTに対する市場の反応を様子見している企業もあれば、流通量を減らしてNFTのレア度を高めるために、あえて規模を縮小している企業もあるという。その一方で、NFTプロジェクトが特定のイベントや日程などのブランド側の発表と連動している場合には、そのプロジェクトが推し進められているケースもあるという。

NFTの総売上も低下傾向にある。NFTデータ企業のノンファンジブル(NonFungible)によれば、2021年第4四半期~2022年第1四半期の総売上数は47%減少して740万点だったが、総取引金額は13.3%増加して1650万ドル(約22億3800万円)だった。また、同期間のNFT購入者数は31%減少して120万人で、販売者数も15.6%減少して81万6000人だった。

消費者との関係を取り戻すきっかけに

ある意味、NFTの進化は、約10年前のWeb2時代のマーケターによるソーシャルメディア活用法を思い出させる。TwitterやFacebook、インスタグラム(Instagram)といったプラットフォームへのオーガニック投稿として始まったそれは、瞬く間に複雑な戦略へと進化し、まったく新しいデジタル広告のエコシステムへと進化した。

ブランドのデジタル資産のマーケティングとマネタイズを支援するホワイトラベルプラットフォーム、ミント(Mint)の共同創業者でCMOのマット・ワースト氏は、Web2時代に早くからコンテンツやコミュニティ構築、ソーシャルメディアに投資したブランドは、2008年の不況のあとにすぐに立ち直り、パワーアップしての再登場を果たしたと話す。NFTによる新たなコミュニティは短期のキャンペーンから始まり、やがてトークン依存型の体験へと進化するのではないかと、同氏は述べる。

マーケティングエージェンシー、360iに約10年勤務した経歴を持つワースト氏は、2009年当時のことを回想する。メジャーブランド各社にソーシャルメディアのことをプレゼンすると、決まってこんな質問が飛んできた。自分たちにはすでにウェブサイトがあるのに、なぜFacebookのページが必要なのか?

「ブランド各社はいま、自分たちは消費者との関係の主導権をプラットフォームに譲り渡しすぎてしまったのではないかという、不吉な兆しを感じている」と、ワースト氏は語る。「そんな彼らの意識は、その一部を取り戻すことにいっそう強く向けられるようになっている」。

[原文:Why brands want to make NFTs useful, rather than profitable amid the crypto downturn

Marty Swant(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)

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