メディア企業は若年層の「 ニュース離れ 」にどう対応するのか?:要点まとめ

DIGIDAY

パブリッシャーはこれまで読者の注目を勝ち取るため、悪戦苦闘してきた。読者の嗜好がFacebookやYouTubeなどのSNSのコンテンツに変わったときも例外ではない。

現在、特に顕著なのは若年層のニュース離れだ。2022年6月22日水曜日の午前中、ニューヨーク市で開催されたロイターのイベントでニューヨーク・タイムズ(The New York Times)とVOXメディア(VOX Media)、ロイター(Reuters)、Googleニュースラボ(Google News Lab)の役員や編集者といったパネリストの面々を驚愕させたのもこの事実だった。

ロイター・ジャーナリズム研究所による驚愕の事実

  • 35歳未満の42%は「ときどきもしくは頻繁に、ニュースを避ける」
  • 18歳~24歳および25歳~34歳の37%は、たいていのニュースを信用していると回答
  • デジタルニュースサービスを購読している35歳未満の米国人は17%

ジャーナリズムにとっての「警鐘」

ロイター・ジャーナリズム研究所(Reuters Institute for the Study of Journalism)の第11回デジタルニュース・レポート(Digital News Report。年に1回実施)によると、35歳未満の約10人に4人(42%)は「ときどきもしくは頻繁に、ニュースを避ける」という。とはいえ、35歳以上との差はわずかにすぎず、35歳以上の層は36%がときどきもしくは頻繁にニュースを避けている。

このレポートは、2022年1月から2月にかけて、世界46市場で9万3000人を超えるオンラインニュースの読者から得た回答をまとめたものだ。

「米国におけるメディアの現状について、非常に悲観的になっている。しかしこれらの数値は、ジャーナリズムに携わるすべての人にとって強い警鐘となるはずだ」とVOXメディアのパブリッシャー、メリッサ・ベル氏はロイターのイベントで述べた。

今回のレポートの残念な点は、読者のニュース離れに関するものだけではない。米国在住者で、前週にニュースソース(テレビ、紙媒体、オンライン、SNS、ラジオなど)を利用しなかったと回答した割合は、2013年の3%から2022年には15%に上昇している。さらに問題が深刻なのは、18歳~24歳だ。前週にニュースサイトやニュースアプリにアクセスしたと回答した人は、2015年の29%から2022年には20%に下落したとロイター・ジャーナリズム研究所でディレクターを務めるラスムス・ニールセン氏は前述のイベントで明らかにした。さらに25歳~34歳層は、34%から22%と下落を見せている。

なぜ35歳未満の若年層はニュースから離れるのか?

今回のレポートでいくつか大きな理由が明らかになった。35歳未満の若い読者は、政治や新型コロナなど同じテーマのニュースを冗長だと感じている。また、「ニュースを見ると、気分が落ち込む」「ニュースは理解するのもフォローするのも難しい」。そもそも、「ニュースを信用していない」などの理由が挙げられた。ロイターのレポートによると、ニュースに対する信用度が最も低い年齢層は35歳未満であり、世界46市場で「たいていのニュースを信用している」と回答したのは、55歳以上の場合47%だが、18歳~24歳および25歳~34歳ではその数字が37%になる。

こうした読者があえてニュースコンテンツを読まない選択をしているとすれば、彼らを購読者に変えるのはニュースパブリッシャーにとってさらにハードルが高くなる。ロイターのレポートによれば、米国在住の35歳未満で、デジタルニュースサービスを購読している人はわずか17%にすぎないからだ。

歴史あるニュースパブリッシャーが若年層へのリーチに取り組む専門チームを盛んに立ち上げているのは、こうしたハードルも要因だろう。2022年6月、ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)はインスタグラムに特化したコンテンツを作成する専門チームを立ち上げた。また、ワシントン・ポスト(The Washington Post)では、2021年8月にタスクフォースを設置し、若年層や多様な読者を取り込む方法を模索している。ワシントン・ポストで初のインスタグラムエディターになったトラビス・ライルズ氏が、2022年6月にSNS&オフプラットフォームキュレーション担当デピュティディレクターに昇進し、SNSの各チームはワシントン・ポストのユニーバーサルニュースデスクの管轄に入った。これは、ワシントン・ポストのキュレーションとニュース配信を一元化する取り組みの一環だ。

さらにニューヨーク・タイムズでは、2021年9月にジャーナリストから成る新たなクロスファンクショナルチーム「トラストチーム」(Trust Team)を立ち上げ、資金を投入している。これは、「『どうすればもっと透明性を高められるのか』『どうすれば、我々が信用に足るニュースソースだと日頃から証明していけるのか』をじっくり考えていることにほかならない」とニューヨーク・タイムズのアシスタントマネージングエディター、モニカ・ドレイク氏がイベントで語った。

パブリッシャーには何ができるのか?

「読者は、圧倒的な情報量に疲弊を感じているだろう。情報のなかには不安をかきたてるものや、無力感を抱かせるものもある」とVOXメディアのベル氏は話す。パブリッシャーというのは、「読者に対するサービス」であり、ニュースを読んだ読者に「自分にはもっと力がある。そして物事をコントロールでき、自分の人生について賢い決断ができる、と思えるようにする」ことがパブリッシャーの役割だと同氏は確信している。

現在ニューヨーク・タイムズでは、読者に対して透明性を高め、このニュースは信用できると多くの人に思ってもらえるような取り組みを進めているとドレイク氏は話す。同紙ではジャーナリストの顔写真を記事に添えているが、これは、本人の経歴や記事の信ぴょう性を裏付ける役割も果たす。「若年層の読者が強く望んでいるのは、そのニュースが正しいという証拠を示すこと。私たちが日々取り組んでいるのはまさにそれだ」とドレイク氏。

ニューヨーク・タイムズでは、「若年層の読者になじみのあるさまざまなフォーマット」を試しているとドレイク氏は話す。「あるテーマに関する記事をエンドレスでスクロールできるライブブログも用意している。これなら、私とは違い、新聞を畳んだ経験のない若者でも迷わないはずだ」。

パブリッシャーは、若者が利用するプラットフォームでジャーナリストのパーソナルブランドを構築することもできる。たとえばロイターのデジタルニュースディレクター、アーリン・ガジラン氏の話によると、同社ではインスタグラムライブを展開し、記者が舞台裏情報を紹介しているという。また、ニューヨーク・タイムズでは、ポッドキャストニュース番組に自社の記者が出演している。

いかに「信用」を高めるか

Googleニュースラボでディレクターを務めるオリビア・マー氏の説明によると、Googleでは、自社検索製品のラインナップにITリテラシーを高めるツールを構築しており、読者がさまざまなニュースソースの信頼性を理解するのに役立つという。実際、2022年5月には、トップニュースの記事に「HIGHLY CITED」(高引用度)と呼ばれる新しいラベルを追加している。これを利用すると、評判の高いニュースソースから頻繁に引用されている記事が一目でわかるとマー氏は語った。

「読者がウェブを見ているときに、『この記事は信用できる』と判断するのに役立つのは、こういう機能だと私たちは考えている。読者には『スキルもツールも手にできたのだから、これからはコンテンツが信用できるものかどうかしっかりと判断できる』と自信をつけてもらえる」とマー氏は話す。

[原文:Publishers grapple with younger audiences avoiding the news

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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