変化のときを迎え、 カンヌ で存在感を示すパブリッシャーたち:「広告主は、話に耳を傾けている」

DIGIDAY

今年もまた、カンヌの季節がやって来た。市場のそのほかの構成員による妥当性確認を求めて、パブリッシャーが南仏に滞在する季節がやって来た。彼らがコートダジュールで自説をいくら繰り返したところで、あいかわらず市場は彼らの金をほかの場所へともっていくといったお決まりのパターンだ。

カンヌライオンズの完全リアル版が最後に開かれた2019年以降、状況は悪化の一途をたどってきた。プラットフォーム各社が市場から莫大な金を吸い込み、いまや世界全体の広告支出の約60%がそのトップ5の手のなかにある。

もちろん、この状況がすぐに変わることはないだろう。しかしその一方で、ファーストパーティデータで身を固めるパブリッシャーたちは、そうあるべき理由を説明する体勢をしっかり整えているように見える。またマーケターたちも、そんな彼らの話に耳を傾けることに前向きであるように見える。パブリッシャーにとって、やはり今年のカンヌはいつもと違ったのかもしれない。

データにまつわる混乱

アドテクベンダーのイグジット・ビー(Exit Bee)でCEOを務めるパブロス・リノス氏は、次のように語る。「エンゲージメントのルールは変わった。いまはファーストパーティデータがキングだ。業界は、真のエンゲージメント、真のアテンションに目覚めつつある」。

その答えは、カンヌライオンズで誰から話を聞くかによって変わってくる。ある人は、サードパーティデータが利用できなくなりつつあるいま、パブリッシャーデータはかつてないほど重要になっていると話す。またある人は、マーケターが広告の仕組みに対する理解を深めることを余儀なくされているのは、混乱する経済のせいだと話す。

現実は、おそらくはどちらの説も正しいといえるだろう。突き詰めれば、どちらの論理的根拠も同じだからだ。オープンウェブの大部分における広告の見通しは、それほど明るくはない。であるなら、有望なところに投資することが重要になる。多くのパブリッシャーが活路を見いだすべく目を向けていることは、悪化する現状の良い面だといえる。

取引に寄せる関心は本物

カンヌライオンズの初日と2日目(6月20~21日)、この目標を胸にコートダジュールに集まったパブリッシャーたちは、誰もが同じプレイブックを参考にして、ピッチを考えてきたようだ。

すでにパブリッシャーとミーティングを行ったり、彼らの壇上での話ぶりを見たりしている広告担当幹部8人から話を聞いたが、多少の違いはあるものの、おおよそ次のような内容だったようだ。パブリッシャーはいま、より多くの価値を生むと同時に、他の技術によるアクセスと監査が可能な、広告主とパブリッシャーの両者のファーストパーティ顧客データを介した、安全で、コンテキスト的な関連性が高く、よりプライベートな環境に対する需要の増大を実感しているという。そして矢継ぎ早に、決してそれは「柔軟性」に乏しいウォールドガーデンに依存する広告主に与えられるポジションではないと、彼らは付け加えた。

インモビ(InMobi)でアイデンティティおよびアドレサビリティ部門のゼネラルマネージャーを務めるトッド・ローズ氏は、次のように語る。「ここに集まっているマーケターたちがパブリッシャーとの取引に寄せる関心は本物だ。だがそれは、仲介業者が入ることのない、セカンドパーティデータ提携などの目標への出発点にすぎない」。

その結果、クロワゼット通りやカンヌ旧港で交わされるトークは、ややビジネスライクなトーンを帯びてしまったようだ(少なくとも一部の地区ではそうだ)。

パワーバランスに明確な変化の兆し

コートダジュール沿いでは、広告主とパブリッシャーが顔を合わせるミーティングが頻繁に行われ、パブリッシャーの営業チームも数多く押しかけている。そしてそこでは、手練れのパブリッシャーとアドテクベンダーの力関係に明確な変化が起きている。いまやパブリッシャーは、マーケターにこんな台詞を言い放つようになっている。

「我々なら、ユーザー同意済みのデータを基盤としたオーディエンスを御社に提供できます」。繰り返されるこのピッチを強固なものにしているのは、アドテクベンダーがこうしたデータに間接的にアクセスできる手段が減っているという事実と見て間違いない。これはつまり、アドテクベンダーは頭の切り替えを余儀なくされているということだ。事実、彼らはいま、マネタイズファーストのビジネスから、アドレサビリティのファシリテーターへと、その軸足を移しつつある。

アドテクベンダーのイクエイティブ(Equativ、旧称:スマート・アドサーバー[Smart AdServer])でCMOを務めるマイケル・ネビンス氏は、次のように語る。「カンヌライオンズでパブリッシャーとのミーティングが多数予定されているが、すでにミーティングの大きな議題として、彼らのファーストパーティデータの活用があがっている。パブリッシャーの狙いはコンテンツのさらなるマネタイズであり、その一翼を担っているのがファーストパーティデータとコンテクスチュアルシグナルだ」。

そしてやがて、会話のテーマは「次に何が起こるか」へと移っていく。とくにカンヌライオンズではそうだ。現実には、すべてのパブリッシャーが十分な大きさのオーディエンスを抱えているわけではなく、結果として、広告主が当然と思っている規模でのリーチや効力を提供するのに十分なデータを持っているわけではない。それに、たとえそうであっても、彼らがデータの共有に慎重になる可能性もある。そのデータに読者がログインに使うメールアドレスが含まれている場合は、とくにそうなる。これは簡単に解決できる問題ではない。分類法の標準化は、ただの始まりにすぎないのだ。

「変化のとき」に備える各社

ライブランプ(LiveRamp)でアドレサビリティおよびエコシステム部門のシニアバイスプレジデントを務めるトラビス・クリンガー氏は、次のように語る。

「今年のカンヌに参加する大手パブリッシャーの多くは、すでにCookieを使わないさまざまなソリューションについての話し合いを重ねてきていることだろう。あるいは、すでにテストを行なっているパブリッシャーもいるかもしれない。彼らの多くにとっては、これら識別子の仕組みに関するインサイトを市場のその他の構成員から得ることが、ここに来る目的なのだ」。

そのように考えれば、データクリーンルームや代替識別子といった、これらの問題を解決するためのソリューションに寄せられる関心にも、いくらか説明がつく。その一例がアドフォーム(Adform)だ。同社の幹部はマーケターとミーティングを重ね、どうすれば、彼らが取引するパブリッシャーによって用いられるファーストパーティIDに、自社の技術を同期できるのか? そしてそれらをつなぎ合わせて、オーディエンスがチャネルの壁を超えて広告に示す反応の理解につなげられるのかといったことについて、話し合いを繰り返してきた。

そのソリューションの最初の成果(テストは2~5月にかけて行われた)は、パネルディスカッションで披露されたようだ(その場所は、もちろんPwCのヨットだ)。

アドフォームのCTO、ヨッヘン・シュロッサー氏は、次のように語る。「マーケターは変化のときが近づきつつあることを知っている。その準備を整えるために理解を深めたがっている。カンヌに来れば、それはすぐにわかる」。

パブリッシャーの話に耳を傾ける広告主

「今年のカンヌでは、マーケターがパブリッシャーの話を聞くことに割く時間が大幅に増えている」と、メディアコンサルタント企業のカントン・マーケティング・ソリューションズ(Canton Marketing Solutions)のCSO、ロブ・ウェブスター氏は語る。

同氏は、カンヌライオンズの期間を通して、大手広告主とパブリッシャーのあいだで行われるさまざまなディスカッションに参加することになっている。ウェブスター氏の口ぶりが示すように、今年と過去のカンヌライオンズの大きな違いは、次の一語に集約できる。「データ」だ。いまやデータは、メディアと同じぐらい、広告主とパブリッシャーの会話の大きな一角を占めるようになっていると、ウェブスター氏はいう。

たしかに、過去のカンヌライオンズにおいても、データはパブリッシャーと広告主の話し合いのなかで重要なパートを担っていた。事実、2019年のカンヌライオンズにおけるそれは、パブリッシャーが広告主に向けて放つピッチの中心的な存在だった。しかし、その大半に中身は伴っていなかった。

パブリッシャーは自社のオーディエンスで何をしたいのかはわかっていたが、その大規模な活用法の発見に金と時間を投資していなかった。もっとも、今回もまだ、その多くはまだ必要な投資を行っているわけではない。クロワゼット通りでは、まさにこの件についての話し合いがパブリッシャーとアドテクベンダーのあいだで盛んに行われているという事実が、その何よりの証拠になる。

様変わりしつつあるビジネスモデル

しかしその一方で、こうした話し合いの場からは、パブリッシャーはオーディエンスをコントロールする力を失うことなく、それを金に変えることができるという印象も強まってきている。少なくとも、2年間のギャップが、ある程度はこれを可能にしたということはいえるだろう。

パーミューティブ(Permutive)の戦略開発担当バイスプレジデント、ローレン・タイリー氏は次のように語る。「パブリッシャーはこの2年間で、広告主が他では得ることのできない、自社のオーディエンスと彼らに関するデータがもつ独自性を際立たせるのがうまくなった。それを裏づけられる証拠も手にした。この点については、過去のカンヌライオンズでは必ずしもそうではなかった」。

先行きには暗雲が垂れ込めているが、カンヌのトーンは、少なくともパブリッシャーに関しては楽観的だ。彼らは、問題の一端を担うのではなく、大量な個人データを用いることなく、オンライン広告を繁栄へと導く解決策の一部として自社を売り込むことができるからだ。

アドテク企業のマルチローカル(multilocal)でCEOを務めるジェームズ・リーバー氏は、次のように語る。「パブリッシャーは長年、見落とされる存在だったといっていいだろう。彼らはいまも、大手プラットフォームが世界の広告費の大部分を手に入れているという問題に直面している。

その意味では、彼らは以前から、複雑な問題に直面し、試練のときを経験してきた。彼らは、変わったのはイベントの形態だけではないということをわかっている。コロナ禍の結果という一言では片付けられないほどに様変わりしつつあるビジネスモデルに精通しているのだ」。

「必要なのは専門知識だ」

いまや、クリエイティブの有効性はまったく違う形をとるようになっている。ターゲティングに対するエンゲージメントのルールは変わり、さらにはそのルールブックをZ世代が破り捨てようとしている。こうした現状のなかで、パブリッシャーも今度ばかりは、うしろへ追いやられているような感覚を抱いていないのではないか、というのはいいすぎだろうか?

「私もそうだと思う」と、測定プラットフォーム、ブランド・メトリクス(Brand Metrics)のCRO、トム・ジェネン氏は語る。「次世代のストーリーテリング、大規模なターゲティング、そしてもちろん、メディアの未来。これらには、コミュニティや発見に関する専門知識が必要だ。そして、パブリッシャー業界を支えるその基盤の一角を占めているのが、この専門知識なのだ」。

[原文:On the Cannes Croisette, publishers put their best foot forward as industry hurtles toward the unknown

Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:黒田千聖)

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