Q&A:「ダニング」とは何か? – サブスクリプション を維持するためのリマインドプロセス

DIGIDAY

サブスクリプション事業において、売上の維持、拡大のカギを握っているのは、定期購読者から集める月間/年間講読料です。したがって、有料読者の解約率を下げることが何よりも重要です。

とりわけ、サブスクリプションにお金を払ってもいいという読者傾向が揺らぎ始めた昨今は、尚のことそうです。これを受けて、パブリッシャー各社は数カ月ほど前から、解約率を下げるための戦略を模索するという重要課題に取り組んできました。しかし、解約の半分近くが、クレジットカードが期限切れになったり、支払日の前に利用限度額の上限に達したりといったことが原因で発生しているとしたら、どうでしょう?

そんなときこそ「ダニング」の出番です。いつものQ&Aシリーズで解説していきましょう。

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――ダニングとは何ですか?

メリアム・ウェブスター英英辞典を見ると、ダニングは17世紀に生まれた言葉で、その意味は「支払いをしつこく求めること」となっています。

現代メディアの文脈では、サブスクリプションの継続に必要な新しい支払い情報でアカウントをアップデートするように、有料サブスクライバーにリマインドするプロセスのことを指します。このダニングのプロセスが開始されるのは、最初の支払いが失敗し、パブリッシャーがクレジットカードに再度の請求を試みた瞬間です。

FTIコンサルティング(FTI Consulting)で通信、メディアおよびテクノロジー業界グループのマネージングディレクターを務めるジャスティン・アイゼンバンド氏によれば、支払いの無効によるサブスクリプションのキャンセル(基本的には、読者がサブスクリプションの中止を自発的に申し出ることなく発生した場合のキャンセルなら、何でもこれに該当します)は、「受動的解約」「消極的解約」とも呼ばれているそうです。

――なぜダニングが重要なのでしょうか?

受動的解約は平均で、時期に関係なく解約全体の20~60%を占めているそうです。しかし同時に、この層を取り戻すのはそれほど難しいことではないと、アイゼンバンド氏は述べています。

読者がエコシステムから意図的に離れようとする「積極的解約」と違って、「解約のなかでも、消極的解約はパブリッシャーがもっともコントロールしやすいもののひとつです」と、同氏は語っています。受動的解約の場合、考えられるのは、サブスクライバーがクレジットカードの期限が切れることに気づいていないケース。あるいは、カードを切り替えたり、利用限度額の上限に達したりといったことが原因で、支払いが無効になってしまうということを忘れているケースです。

受動的解約はパブリッシャーが力を注ぐべき非常に重要なエリアだと、アイゼンバンド氏は付け加えています。「受動的解約を50%から20%に引き下げることができれば、解約率全体に20~30%の改善がもたらされるのは、決して珍しいことではないからです」

――そもそもの話、パブリッシャーが受動的解約の発生を防ぐことは可能なのでしょうか?

可能です。アイゼンバンド氏によれば、「プレダニング」と呼ばれるプロセスがあり、サードパーティの料金請求サービスプロバイダーや、ストライプ(Stripe)やブレインツリー(Braintree)などのクレジットカード支払いプラットフォームに依頼すれば、これを行なってくれます。

多くの場合、こうした料金請求サービスはクレジットカードをアップデートすることができます。彼らは銀行などの金融機関との業務提携を介して、期限切れになったカードが確認されたら、実際に古いカードに請求する前に、新たな有効期限情報を事前に更新します。

こうすることで、すぐにも受動的解約の大部分を解決できると、アイゼンバンド氏は述べています。またこれは、ユーザー体験としても非常に優れています。「請求を試みる前に、クレジットカードに問題があると言って、サブスクライバーに嫌な思いをさせるべきではありません。できれば、支払いのことでサブスクライバーを不安な気持ちにさせないほうがいいですから」

――ダニングのプロセスで、パブリッシャーは何回ぐらい料金の請求を試みるべきなのでしょうか?

通常は月に5~6回ですが、特定の日にタイミングを合わせれば、成功率を高めやすくなると、アイゼンバンド氏は述べています。

成功率が高いのは、月初め、金曜日、そして毎月15日です。これらはどれも、給料日やクレジットカードの支払い日、新しいカードが利用できるようになる日と重なることが多いからです。

――サブスクライバーに嫌がられるかもしれませんが、パブリッシャーはどのタイミングで支払いが無効になったことを伝えるべきでしょうか? どのように言って支払い情報の更新を促すべきでしょうか?

請求を5~6回試みても、まだ支払いが完了していなければ、そのときがサブスクライバーへのコンタクトを開始すべきタイミングです。

USAトゥデイ(USA Today)と200を超える地方紙を発行するガネット(Gannett)の場合、同社グロース部門のシニアバイスプレジデント、ニキル・フンシカッティ氏によれば、受動的解約が全体に占める割合は、時期に関係なく平均で約40~50%だといいます。この比率を下げるために、支払いが完了されなかった場合に備えて、失われたサブスクライバー売上の回復を試みる58日間の「猶予期間」を設けていると、同氏は付け加えます。

支払い方法への請求の最後の試みが失敗に終わった場合、その4日後に最初のメールが送信されます。その後、自動音声による電話案内2~3回と、オペレーターによるさらなる電話案内2~3回をあいだに挟みながら、8通のメールが送られるといいます。

「基本的には、その定期購読者の支払い方法が拒否されたことを知らせるリマインダーから始まります。そして1~2週間後、やんわりとしたリマインダーがそれに続きます。そしてさらに、猶予期間の終わりが近づいてきたら、これには期限があることを相手に伝えます。その過程で、定期購読者の注意を引くためのさまざまな方法を試みています」と、フンシカッティ氏は述べています。

平均すると、この失われた売上の回復に最も効果があるのは最初のメールだと、同氏は付け加えます。それに続くのが2番目のメールと最後のメールになります。最初のメールが支払い情報のアップデートに成功する確率は95%で、そのほかのアウトリーチが回復率に占める割合は合わせて2.5%とのことです。

――電話案内はどのくらいの効果があるのでしょうか?

フンシカッティ氏によれば、最初の数回の電話が、最も効果があるそうです。

電話がつながれば、最初の自動音声による案内が支払い情報の更新に成功する確率は56%で、オペレーターによるアウトバウンドコールの成功率は13~15%とのことです。

――最初の連絡が最も成功率が高いのであれば、なぜ9通以上ものメールを送る必要があるのでしょうか?

アウトリーチの量は各パブリッシャーが実際にテストして調整すべきだと、アメリカン・プレス・インスティチュート(American Press Institute)でコミュニケーションおよびオペレーション部門のバイスプレジデントを務めるグウェン・バーゴ氏は述べています。同氏はかつて読者売上担当ディレクターを務め、パブリッシャー各社のサブスクリプション事業を研究していました。

しかし、標準的なアウトリーチやコミュニケーションの考え方がよりどころにしているのは、マルチチャネルマーケティング戦略の考え方だと、同氏はいいます。

「私たちはマーケターとして、タッチポイントの種類が増えれば増えるほど、反復の頻度が高まれば高まるほど、メッセージがその人の心に定着して、行動が促される確率が上がることを知っています」と、同氏は述べています。

――インセンティブについてはどうでしょう?

もちろん、試してみてもいいでしょう。

ガネットの場合、サブスクライバーのクレジットカードの有効期限が切れそうになっているのがわかると、フンシカッティ氏のチームは積極的なダニング戦略の一環として、支払いの無効が発生する前に、その人にカード情報の更新を促すインセンティブを提供しています。

同氏によれば、いまのところ最も効果的なインセンティブは10ドル分のAmazonギフトカードですが、その他にスターバックス(Starbucks)ギフトカードなどのクレジットも試してきたそうです。

「支払いが無効にならないように、先回りしてカード情報を更新してもらう。それが我々の狙いでした」と、フンシカッティ氏は言います。「彼らに解約するつもりはありませんでした。そしていま、約14~17%の上昇というテスト結果が出ました。支払いが無効になったサブスクライバーに対する事後対応の一環として、このインセンティブのテスト結果の一部を導入する方法を見つけ出すことは当然のことです」

ただし、このインセンティブはすぐに提供されるわけではありません。フンシカッティ氏によれば、支払い情報をアップデートしたサブスクライバーがギフトカードをもらえるのは、その3カ月後になるとのことです。

――パブリッシャーはいわゆる「アップセル」も試みるべきなのでしょうか?

アイゼンバンド氏によれば、答えはノーです。

「もっと払ってもいいと思っているサブスクライバーはいません。それが課題です。あなたの役目は、彼らの解約を防ぐことです。メールというものは本来、事務的なものであって、エンゲージメントに基づくものではありません」と、同氏はいっています。

――ほかにもコツはありますか?

サブスクライバーにクレジットカード情報の更新を求める際には、信頼感と安心感を高めるためにも、請求代行業者ではなく、必ずパブリッシャーのドメインからダニングメールを送るべきだと、アイゼンバンド氏はいいます。また、ダニングメール内のリンクをクリックしたら開く支払い情報のアップデートのページについても、ブランディングに力を入れるべきです。

支払い情報のアップデートのプロセスはモバイルに最適化しておくべきだと、アイゼンバンド氏はいいます。ダニングメールの約75%は、デスクトップではなく、スマートフォンで開かれるからです。

また、同氏によれば、サブスクライバーがダニングメール内のリンクをクリックしたあとに、アカウントにログインさせるのもよくないといいます。解約を防ぐためには、面倒な手間はなるべく減らすべきなのです。

[原文:WTF is dunning?

Kayleigh Barber(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)

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