「人間ってどうして“奇跡の薬”を信じちゃうの?」専門家に聞いてみた

GIZMODO

信じちゃうよね。奇跡にすがりたくなっちゃうよね。

そんなものあるはずない!と頭のどこかではわかっているのに、信じてしまう。いや、信じようとしてしまうもの、それが奇跡の薬。現代医学では治療不可と言われる病もたちどころに治してしまう魔法の治療法。特殊な調合をしたハーブとか…触るだけで治療ができる神の手をもつ人とか…万能サプリとか…。シミがぽろっととれるクリームなんかも、奇跡治療のジャンルかもしれません。

私たちは、なぜ「奇跡の薬」の存在を信じてしまうのでしょうか。米Gizmodoが専門家に聞いてみました。

Kimberly Rios氏「精神的に求める何かを埋めるため」

オハイオ大学心理学助教授

奇跡の治療を信じてしまうのは、精神的に求める何かを埋めるためです。人間は、自身が今いる状況の仕組みを理解しようとすること、意味を探すことでモチベーションを感じる生き物です。奇跡の治療はよくわからない非科学的な内容なことが多々ありますが、このよくわからないものだからこそ、予期しなかった現状や不確かな未来をクリアにするような気がしてしまうのです。

社会心理学の研究では、自分の命や大切なものが不確かな状況にある時、人は別のことで確かな何かを探そうとすると言われていますが、これがまさに奇跡の治療です。不確かな中にある確かなもの、説明できない事柄、それが奇跡ですからね。

また、人間には社会に属していたい、かつユニークな存在でありたいという、2つの側面があります。奇跡の治療薬を信じるのは、同じくこれを信じる人たちと繋がる術、つまり社会に属することになります。奇跡の薬系商法が、会員制度や団体結成、宗教化していくのは、社会と繋がっているという感情を強調させるためでしょう。一方で、奇跡の薬を信じる人は少数なので、自分は他の大多数の人とは違い個性的存在であるという意識も持てることになります。社会に属しつつ、全体で見れば個性的、奇跡の薬とはまさに人間の自意識をくすぐるモノなんですね。

David Gorski氏「病への恐れと医療専門家への不信感をミックスしたもの」

ウェイン州立大学乳腺外科・外科医学・腫瘍学准教授、「Science-Based Medicine」編集者

病への恐れと医療専門家への不信感をミックスしたものに、奇跡という言葉をトッピングでのっけたもの、それが奇跡の治療の姿です。抗がん剤を用いた化学療法など、適切な処置だとしても嫌がる人、怖がる人もいます。やはり、楽な治療法ではないですから。

乳腺外科医としては、奇跡の治療を信じられてしまうのは困りますよね。今まで、私の乳がんの患者さんでも、乳腺切除の必要がなく、他の効果的治療法があり、これからも長生きできる可能性が十分あるにもかかわらず、自然療法に切り替えるからとか、どこからか見つけてきた奇跡の薬を飲むからと、途中で治療をやめてしまった人が何人かいました。その結果、数ヶ月後、数年後にすでに手の施しようがない状態で病院に戻ってくるというパターンも目にしました。

奇跡の薬に対する個人的意見は「悲惨」の一言です。特に癌に関しては、非常に大きな奇跡の治療業界があるんです。Stanislaw Buzynskiの「抗ネオプラストン療法」が有名です。1960年代にアメリカにやってきたポーランド出身のBuzynski青年が見つけた癌治療に効くというタンパク質。科学的根拠はまったくないにもかかわらず、米食品医薬品局も彼の治療を止められないまま、40年以上も彼はこの療法を患者に対して実践しています。効き目がない上に、治療費も高く、危険ですらあるのに、人々は彼の元を訪れてしまうのです。

コロナ禍で、医学に対する不信感には一貫性がないということもよくわかりました。マイノリティの人々が科学業界に対して不信感を抱いてしまうのにも理由があります。ワクチン接種に反対する人に彼らなりのイデオロギーがあるのでしょう。でも、もしコロナに奇跡の治療薬があるならば、マスクだってワクチンだっていらないはずなんですけどね。

Brian Regal氏「知識の逆転効果」

キーン大学歴史学助教授

社会にはいろいろな考え方があり、奇跡の治療や万能薬のようなものは昔からあります。ただ、最近は今まで以上によく耳にするようになった気もします。奇跡の薬とは、医療の専門家やプロに対する不信感からくるものです。聞いたことがある人もいるかもしれませんが、これは知識の逆転効果。ある分野を専門に長年研究を続け、深い知識をもつエキスパートに出会った時、その圧倒的な知識量を前に、専門家を信じるのではなく、嘘をついていると感じてしまう人がいるのです。この手の人は、情報・知識の少ない人の方をより信頼します。この考え方は波がありつつも、長い間常に存在するもの。アメリカの歴史で見ると、昔から真っ二つに意見は分かれています。1つは教育や専門的知識を良とする人、そしてもう1つはそれに対して不信感を持つ人。

インチキ薬業界には長い歴史があり、例えば今日ならば過剰すぎるサプリメント業界もそれに当たるでしょう。中には体にとって害なものもあるというのに。

他にも、奇跡の治療に人が惹かれる理由はそれが簡単な方法だからというのもあるでしょう。政治的力もあるでしょう。サプリなんかは、医者や病院、薬を信じない一部の人に熱狂的に指示されています。人々が奇跡の薬を求める最大の理由は、お金を稼ごうとする素人を熱狂的に支持する人がいるからであり、その支持が奇跡の治療をさらに広げていく活力になっているのです。

Nika Kabiri氏「人間の脳は不思議なもので、ときに信憑性や証拠なんてすっとばして考えてしまう」

ワシントン大学決断科学専門家

奇跡の治療・薬を信じてしまう理由。まず、大企業や政治家、メディアなど大きな力によって弱者が虐げられていると考えている人が少なからずいることが大前提にあります。次に、どうしていいかわからないことが起きた時、生活や命を脅かすような不確かで不安な状況にあるとき、人は真実よりも、確かな何かに縋りたくなってしまうこと。そして、問題解決の術はない、もしくは非常に困難な方法しかないと感じているとき、大きな力(企業や政治家など)に方法はあると言われても、もうそれを信じられなくなっているということ。なぜなら、大きな力=悪だと思い込んでいるから。自称専門家のYouTube動画やポッドキャスト、SNSのコメントこそ、大企業に対抗するリアルな方法だとなぜかすんなり信じてしまいます。

奇跡の治療は、非常に魅力的かつ刺激的な宣伝手法を使って人々にリーチしていきます(相当マーケティングに力とお金をかけているのでは?)。実際には、それがなんの裏付けもなく、不正確かつ不完全で嘘八百を並べたものだったとしても。ここまでくると、正直、証拠や裏付けなんて関係ないんですね。

人間の脳は不思議なもので、ときに信憑性や証拠なんてすっとばして考えてしまうのです。それっぽいものを聞くと、それが正しいかどうかを考えることなく確かなものだと信じ込む、思考のショートカットが起きるのです。なぜなら今求めるのは正しいものではなく、確かなものだから。そして、奇跡の治療は“確かなもの”として人々に訴えかけるのが上手いのです。

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