パブリッシャーの新たな頭痛の種、 データクリーンルーム 対応:要点まとめ

DIGIDAY

パブリッシャーが置かれている状況

  • パブリッシャーは、何社のデータクリーンルームと提携すればよいか頭を悩ませている。
  • パブリッシャーと代理店の経営幹部は、複数のデータクリーンルーム間の相互運用性についても懸念を抱いている。
  • データクリーンルーム市場は、どの事業者がもっとも多くの広告主に支持されるかで状況が変わりそうだ。

1年前のこと。パブリッシャー各社はサードパーティCookieの代替となるID技術の検討を進めていた。1年経って、今度はデータクリーンルームの検討に入っている。データクリーンルームは、パブリッシャーと広告主のあいだの仲介役として、双方が保有するファーストパーティデータを比較し対応づけを行う事業だ。

データクリーンルーム(以下、クリーンルーム)をめぐる課題は、3月末に米コロラド州ベイルで開催されたDIGIDAYパブリッシングサミット(Digiday Publishing Summit:以下DPS)でも話題に上った。講演で取り上げられただけでなく、ポストCookie時代の業界展望を話し合う非公開のワーキンググループディスカッションでも議論の対象となった。

「IDとアドレッサビリティの未来」と題する講演では、パブリッシング・クリアリングハウス(Publishers Clearing House)で戦略パートナーシップ部門を率いるクリス・ムーア氏が次のように指摘した。「最大の問題は、700ものクリーンルーム事業者が存在し、ブランド各社も内製のクリーンルームを持っていることだ。これでは標準ソリューションが普及しない」。

DPSのワーキンググループディスカッションでは、率直な意見交換を促すべく匿名の発言が許されており、あるパブリッシャー幹部は「クリーンルーム間の相互運用性には問題がある」と述べた。

コモディティ化への懸念

こうした議論は、DPS以外の場でも、パブリッシャーやエージェンシー、アドテク企業の経営幹部のあいだで交わされてきた。専門性が高いトピックとはいえ、業界のニーズは複雑ではない。

パブリッシャーも広告主も、提携先の事業者を必要以上に増やすことは望んでいない。しかし現時点では、何社と提携する必要があるか定かではない。事業者間で相互運用性が確保されれば、パブリッシャーと広告主が採用したクリーンルームが同じでなくてもデータの対応づけが可能なため、ことは簡単だ。しかし、事業者間のシステム連携は、企業のユーザーデータのプライバシーを保護するというクリーンルーム技術の目的と矛盾するようにも思える。

あるアドテク企業幹部の見立てでは「クリーンルーム間の相互運用性が実現するかどうかはわからない」という。

パブリッシャーや広告主が700もの事業者との提携を避けたいとすれば、クリーンルームのなかで勝ち組と負け組が出てくるのはやむをえないだろう。しかし、事業者が乱立するなかで問題となるのはむしろ、クリーンルーム技術が誰でも開発できる「コモディティ」とみなされることだ。

課題は領域の曖昧さ

「クリーンルーム事業者は、プログラマティック広告の関係者間の橋渡しをするだけで、データを保有したがらない。パートナー会社と接続してデータをやり取りするサービスに注力しているが、そんなサービスは誰も求めていない」と、あるパブリッシャーの幹部は主張する。

クリーンルームは、企業間のファーストパーティデータ共有について中立的な立場を保とうとしている。一方、クリーンルームにデータ拡張サービスを求めるパブリッシャーや代理店もある。

たとえば、パブリッシャー保有のファーストパーティデータをクリーンルーム側のシステムに組み込み、対象者のプロフィールを拡張するエンリッチメントサービスなどが求められる。「我々がアップロードしたオーディエンスデータをもとに氏名、年齢、性別といった情報を類推できれば、クリーンルームにとって大きなビジネスチャンスになる」と前出のパブリッシャー幹部はいう。

一方、あるエージェンシー幹部は、クリーンルームが抱える本質的な問題である「規模の限界」を克服する必要性を訴える。「クリーンルームがデータの万能ソリューションになると誰もが考えている。しかしクリーンルームは、個々のパブリッシャーが保有するデータに関する知見を提供するだけだ」。

データクリーンルーム戦国時代の生き残り戦略

それでも資本主義の常として、最終的には勝ち組と負け組が決まる。企業がクリーンルームを選定するにあたって金銭的要因の影響は大きく、データストレージ料と技術ライセンス料が最安で、広告主からの需要がもっとも高いクリーンルームが好まれるだろう。これは、パブリッシャーがSSPやCookie代替ID技術のベンダーを評価する際の基準と同じになる。

「クリーンルーム事業者の選定にあたっては(SSPと)同様の基準を適用する。機能の実装は難しくないが、プライバシー保護法を遵守しながらデータを扱えるレイヤーを持つ企業を選ぶ。事業者として達成しようとしていることは、SSPもクリーンルームも同じだ」と、あるパブリッシャーの幹部は述べている。

広告主とメディア企業大手はクリーンルームサービスの導入を進めている。ゲームソフト開発のアクティビジョン(Activision)は、マーケティング強化目的でハブ(Habu)のクリーンルーム技術を採用した。メディア・コングロマリットのディズニー(Disney)は、スノーフレーク(Snowflake)のソフトウェア対応を始めた。

またディズニーは、内製のクリーンルームソリューションをオム二コム・メディアグループ(Omnicom Media Group)に提供する(ちなみに、ディズニーは広告主としてオム二コムと取引がある)。一方、クリーンルーム事業者も、広告主やパブリッシャーのクライアントを次々と獲得しているようだ。

DPSのワーキンググループディスカッション中、あるパブリッシャーの幹部が語ったところによると、クリーンルーム事業者から広告主企業との橋渡しを頼まれたという。「広告主5社をご紹介いただいて取引が成立すれば、御社へのクリーンルームサービスも、それ以外のサービスもお得な料金で提供できます、と言われた。クリーンルーム事業者はそういったインセンティブをつけて顧客基盤を拡大しようとしている」。

[原文:Media Briefing: Publishers’ new headache is sorting out clean room support

Tim Peterson(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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