メタ の メタバース 構想は、どこに向かうのか?:同社ホライゾン部門のビベック・シャルマ氏が語る

DIGIDAY

ビベック・シャルマ氏は勤務時間中にゲームをするのが好きだ。

幸いなことに、これは業務上のリサーチとして公認されている。シャルマ氏はメタ(Meta)傘下のホライゾン(Horizon)部門を率いており、メタバースにおける同社の地位を確立する任務を負っている。マーク・ザッカーバーグ氏は、持続的で没入的な仮想空間としてのメタバースこそが、インターネットの次の世代となると考えている。

「メタ」という新しい企業名を掲げてはいるものの、同社は業界で唯一のメタバースのプラットフォームになろうとしているわけではない。シャルマ氏は、真のメタバースは、単一の仮想世界が支配的になる状況ではなく、相互につながったプラットフォームの広がりとして形成される可能性が高いことを認めている。同社のVR製品すべてをカバーする主要サブブランドであるホライズンのVPとして、43歳のシャルマ氏は、メタバース全体に対する同社の支配・影響力に関して大げさな主張をすることなく、業界のリーダーとしての地位を確立するという難しい課題に直面することになる。

Facebookマーケットプレイス(Facebook Marketplace)とFacebookゲーミング(Facebook Gaming)の両方のプロダクト部門の元バイスプレジデントであるシャルマ氏は、すでにこれらふたつのプロダクトにおいて、仮想空間における市場経済を構想し、クリエイターを引きつけ、ユーザーエクスペリエンスを再開発することに成功している。ホライズンが成功するためには、同氏は再度上記のすべてを実行する必要があると同時に、業界の最前線に追いつく必要があるのだ。

シャルマ氏率いるホライゾンの下で同社は3つのアプリを開発した。今年最初にリリースされたホライゾン・ワークルーム(Horizon Workrooms)はコワーキングアプリ。ホライゾン・ベニュー(Horizon Venes)はバーチャルイベントの運営に使われる。ホライゾン・ワールド(Horizon Worlds)では、ユーザーがカスタムデザインのスペースを作って遊ぶことができる。最終的には、これらのアプリケーションをつなぎ合わせて、まとまりのある仮想世界を構築する計画だが、この統合のスケジュールや、包括的なプラットフォームの名称についての詳細は明らかにしなかった。

「クリエイターが生計を立てることができ、コミュニティが形成され、そこで面白いことができるエコシステムを我々が構築する、それを想像してほしい」とシャルマ氏は言う。「ゲームのためだけの場所ではなく、人々が何かを作るためだけの場所でもない。そのすべてが行われる場所だ」。

しかし、メタバースを構築している企業はメタだけではない。ロブロックス(Roblox)ではすでに活発なクリエイターエコノミーが形成され始めており、ビヨンドクリエイティブ(BeyondCreative)のようなスタジオがフォートナイト(Fortnite)のクリエイティブ・モード(Creative Mode)において、さまざまなブランドに起用されている。多くのディベロッパーたちがすでに自分たちの趣味を収入へと転換しているなか、ホライゾン・ワールドはすでに遅れをとっている。そして同社のカラフルなアバターやゲーム風の操作方法が競合他社を彷彿とさせるデザインになっているのも、問題だろう。

メタバースを作り上げる競争において、はっきりと勝者や敗者が出るのは何年も先のことだろう。しかし、メタは理想的な仮想世界が提供できる種類のプロダクトすべてのローンチ経験がある人物として、シャルマ氏を選んだ。

シャルマ氏は、1978年にイランでインド系の家庭に生まれた。「私の家族はシャー(モハンマド・レザー・シャー・パフラヴィー)政権の崩壊を直に目にした」と彼は言った。その直後、シャルマ一家はイランを逃れ、ベネズエラ、インドと転居を繰り返したあと、1988年にアメリカのバージニア州に定住した。

18歳のとき、シャルマ氏は、宗教学を専攻するためにミネソタ州セントポールのマカレスター大学に入学。マイクロソフト(Microsoft)の採用担当者と偶然出会ったあと、彼は専攻をコンピューターサイエンスと数学に変え、2000年に卒業後、マイクロソフトに就職した。

同社での16年間に、彼はマイクロソフト・エクスチェンジ(Microsoft Exchange)の箱に梱包された製品形態からエクスチェンジ・オンライン(Exchange Online)への移行、同社のフラッグシップ・ソフトウェア・パッケージであるオフィス365(Office 365)の開発などの重要なプロジェクトを監督。同氏の率直なコミュニケーションスタイル、大きな変革への意欲、知的多様性へのコミットメントは、同氏をマネージャーとして際立たせたと、Googleのプロダクトディレクターであり、元マイクロソフトのプロダクトディレクターで、約4年間シャルマ氏の直属であったクリシュ・ヴィタルデヴァラ氏は述べている。

「古い慣習にのっとるのは彼のやり方ではない。彼は大きなリスクを冒すことを恐れていない。『さて、次の小さなステップは何かな』という(小さな)やり方に満足しない」とヴィタルデヴァラ氏は言う。「成長における大きなステップ関数がどこから来るのか、彼は常に探している」。

マイクロソフトはまた、シャルマ氏が勤務時間中にビデオゲームをプレイすることを許した最初の企業でもあった。それはしばしば夕方まで続いた。「勤務時間外には『Halo(ヘイロウ)』をプレイすることができた。そこに行けばビベックが仕事のあとで人々と遊んでいる姿をよく見た」と語るのは、メタの製品管理ディレクターで、マイクロソフトでシャルマ氏と一緒に働いていたアマンダ・ジェフソン氏だ。

Haloをプレイしていたことが、2016年にFacebookへ移るという驚きの決断につながった。 「Facebookに私を招いた人物は、Haloをオンラインで一緒にプレイしていた人物だった」と彼は言った。「私たちは実際に直接会ったわけではないが、Facebookを通じて連絡を取り合った」。

同氏のFacebookでの最初のプロジェクトは、同社のマーケットプレイス・プラットフォームを、三行広告サービスからグローバルなリーチを持つバーチャル世界におけるバザールへと拡大することだった。このプロジェクトで彼は、デジタルな友達関係の推進としての、そして物理空間と仮想空間の両方で個人のアイデンティティを確立するためのツールとしてのFacebookの役割について考えさせられたという。「メタバースは根本的には、人々のパーソナライズとシェアという行為に関するものであり、マーケットプレイスはそうした行為を行う人々の最良の例だ」とシャルマ氏は言う。「人間は基本的に自分の経験を他人と共有する存在であり、それには商品の売買や交換などさまざまな形態がある」。

同社での勤務が2年が経ち、同氏はFacebookゲーミングに移った。そこでは、彼の個人的な興味により即したプロジェクトに携わることになった。その後の3年間、彼はFacebookをゲームコミュニティのプラットフォームとして認知させるために、業界のベテランたちを雇用し、著名なクリエイターたちにTwitch(ツイッチ)やYouTubeからの移動を促した。

ホライゾンを形作る

シャルマ氏は半年前にホライゾン社のバイスプレジデントに就任したばかりだが、シリコンバレーでのキャリアを通じて、オンライン・コミュニティに取り組み、参加してきたことが、メタバースに関する彼のビジョンにつながっている。同氏はホライゾンによる初期メタバースをFacebookの進化形と考えており、FacebookマーケットプレイスやFacebookゲーミングなどの既存ツール間の障壁を取り除き、ユーザーが共通のカスタマイズ・アバターを使ってこれらの仮想体験をできるようことを目指している。ゼロから設計されているこの世界が成功するための道筋は、シャルマ氏の頭のなかで明確に存在している。

今のところ、ホライゾンがこのビジョンを達成するための最大の課題は、既存のクリエイターたちにプラットフォームを試してみるよう説得することかもしれない。何千人ものクリエイターたちがすでにホライゾン・ワールドを使ってカスタムコーディングされたVRゲームやVR体験を作っているが、ロブロックスはクリエイター数で数百万人を誇っており、このふたつのプラットフォームには類似点が多く存在していることを指摘する人たちもいる。

シャルマ氏は、ロブロックスをはじめとする初期のメタバース・プラットフォームが仮想空間への道を切り開いたことを賞賛し、彼らと比較されることを避けていない。「我々は、多くの試行錯誤を通じてメタバース的な体験を構築するために多くのリスクを負ってきた先人たちの功績のうえに存在しており、ロブロックスは間違いなくそうした企業のひとつだと思う」とシャルマ氏は述べた。

しかし同氏は、ホライゾン・ワールドがVRにフォーカスしている点、そしてソーシャル・クリエイター・モードの独特さを挙げ、ただのロブロックスの模倣品とはほど遠いことも明言した。「我々は根本的な土台部分で非常に異なる箇所がある」と彼は言った。「我々の強みは、コミュニティがどのようにして形成されるかを理解していることにある」。

コミュニティを構築するために、Facebookという大規模なユーザベースを持っていることも利点のひとつだ。ホライゾン・ワールドのゲームである「ピクセル・プラメット(Pixel Plummet)」を開発したマシュー・”マチアオス”・ウディ氏は、「メタという名前がついていたことは、私にとって大きかった」と述べた。「(ゲーム)が、Facebook上の私の友達全員も参加できる、ソーシャルな体験になることは分かっていたからだ」。

ホライゾンは使いやすさが成長を助けることも期待している。「私が気に入っているのはユーザーフレンドリーな点だ。「セカンドライフ(Second Life)」のようなものと比べて、特にビルドツールに関しては、とても使いやすい」と、同じく同ゲームを開発したトラビス・”トラベセオ”・ヌネス氏は言う。「ホライゾンを始めて数日のうちに、早速、自分が満足いくまで物を作り始めることができた。その点が本当に気に入った」。

もうひとつの差別化要因は、ホライゾン・ワールドが現在18歳以上のユーザーに限定されていることだ。これは、若者や10代の若者が多く参加しているロブロックスやフォートナイトなどのプラットフォームとは一線を画している。「大人によって作られているコンテンツが単純に大人向けだから、というわけではない」とヌネス氏は言う。「ホライゾンの素晴らしいところは、さまざまなバックグラウンドを持つさまざまな人々にサービスを提供できることだと思う」。

ウディ氏とヌネス氏はいずれ、ホライゾン・ワールドをフルタイムの仕事にしたいと考えている。「(仮想空間の)世界を構築し経験を積みながら収入を得る方法があれば、すぐに参加する」とヌネス氏は言う。

同社のプラットフォームにおける持続可能なクリエイターエコノミーの構築は、シャルマ氏の計画における重要な要素だ。ロブロックスと同じように、ホライズンの最終目標は、メタバースにおける消費者たちと直接つながることで、ブランドのアクティベーションがデジタルで行うことができる仮想世界になることだ。このようなアクティベーションが実現することで、ブランドと提携してVR体験を構築できるプラットフォーム内のクリエイターと、ブランドと提携して正式に同プラットフォームに参加してもらうことができるメタ自身の両方にビジネスチャンスをもたらす。「中長期的には、ビジネス、ブランド、開発者にとって、(プラットフォームを使って)伸びていく機会となるだろう」とシャルマ氏は語った。

現時点では、ホライゾンのアプリはオキュラスVR(Oculus VR)ヘッドセットを装着しているユーザーのみが利用できる。シャルマ氏は、最終的にはヘッドセットのないユーザーもこのプラットフォームを利用できるようになると述べたが、この拡張の具体的なスケジュールや計画については明らかにしなかった。「VRが本当に重要である理由は、メタバースの今後の可能性が『同期的でリアルタイムな没入』というコンセプトに強く結びついているからだ」という。

しかし、「プラットフォームである以上、何らかの形で、万人がどこでも利用できる存在になりたいという気持ちも、ある種ある」とも語った。

将来のビジョン

シャルマ氏の部下に対するマネジメント手法は、必ずしも楽しいことばかりではない。「プレッシャーをちゃんと与えたうえで、高い目標を設定する。彼はそのバランスを見つけるのと、優秀な人材を見つけて信頼するのがとても上手だ」とジェフソン氏は言った。「そして彼は、(部下たちの)人それぞれが成長をするための道筋のどこにいて、そのときに何を必要としているかによって、対応を絶妙に変えている。しかし、彼は本当に、あなたがステップアップして、成功への最善の道を見つけるために、強くプッシュしてくる」。

「自分が思っている以上の能力を人々は持っている。そのことを人々に理解してもらいたいと思っている。ときには何がうまくいっていて何がうまくいっていないのかを正直に率直に話すことが、それを達成する最善の方法であり、敬意あるやり方でもある」とシャルマ氏は言う。「同じ方法論でも劣悪なマネジメントやリーダーシップのスタイルになる可能性はある。それでも私がこのやり方でもうまくやっていけている理由は、根本的には、(この仕事のスタイルが)チームとスタッフを1日ごとに一層強くしたいという私の願いから来ているからだ」。

仮想世界の構築には時間がかかる。スライブ・アナリティクス(Thrive Analytics)とアーティラリー・インテリジェンス(ARtillery Intelligence)による最近の「VR利用と消費者態度レポート(VR Usage and Consumer Attitudes)」レポートによると、ホライゾンのプラットフォームの中核的な存在であるVR技術は、米国の家庭のわずか23%にしか存在していない。現在ある3つのホライゾンのアプリは、統合されたプラットフォームの一部としてではなく、個別にダウンロードしてアクセスする必要がある。

シャルマ氏はホライゾンの将来にも自信を持っているが、現在彼がすぐに実現しようと取り組んでいる目標がある。それは前述のビデオゲーム、Haloのキャンペーン・モードをクリアすることだ。夜になると、彼は古い友人たちとオンライン・マルチプレイヤーをプレイすることでHaloのスキルを磨く。仕事中の休憩時間には、Xboxを起動して悪者たちを木っ端微塵にする。新しい世界を構築することを業務上の課題としている同氏は、既存の仮想空間を探索することでストレス発散する。

「少なくとも1カ月はかかるだろう」とシャルマ氏は言う。「Haloは難しいゲームだから」。

[原文:‘We stand on the shoulders of giants’: How Meta’s Vivek Sharma plans to transform Horizon into a cohesive metaverse platform

ALEXANDER LEE(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)

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