飲んでそのまま寝てしまい、次の朝テーブルの上に開けっ放しで残ったお菓子を片付ける。二日酔いで吐きそうなんだけど何か食べないと仕事にいけないので、と思い捨てる前のお菓子を一枚口に入れる。
メリ……
だ。もう決してパリッではない。湿ったお菓子のあのだらしのない食感。だけどなぜだか止まらずに食べてしまう。メリメリ、メリメリ……
なんだこれ、うまいぞ。
そう、湿ったお菓子は実はうまいのだ。作りたてのパリパリ感を持続するために窒素封入とか真空パックとか、研究を重ねてきたメーカーさんには申し訳ないが、僕はむしろ湿ったお菓子が好きだ。なに言ってんだこいつ、という大多数の人のために説明させていただきます。
※2005年9月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
まずは買出しから
まずは湿るとうまそうなお菓子を買いに行くことに。とはいったもののどれも湿らすことを前提としてはいないわけで、パッケージには多湿の場所を避けてください、とか密封容器に入れて下さい、とか書かれている。これではどれが湿らせるのに適しているのかわからない。日本にはマイノリティーの暮らす場所はないのか。しかたなく昔からあって僕の知っているやつを無難に選ぶことにした。
僕は最近あまりお菓子を食べないので知らなかったのだが、昔から変わらずのベストセラー商品にはコピー商品も存在するのだ。しかもリスペクトというよりはかなり大胆にコピーされている。まあそれもベストセラーの証なのかもしれない。
ということでせっかく買ってきたお菓子を湿らせていきます。まじうまいから見てくださいって。
さっそく始めよう
まずはかっぱえびせん。湿ってもやっぱりやめられないとまらないのか、どうなのだ。試したい。
そしてキャラメルコーン。実は僕は子供の頃から湿ったキャラメルコーンが好きだった。いつも買ってもらったキャラメルコーンを一晩置いてからメリメリと食べていた記憶がある。今思えば十分におかしな子だ。親も心配しただろう。
そして定番のカール。その名前の由来であると思われるかーるい歯ごたえは湿ったらはたしてどうなるのか。まあ単に重くなるのだとは思うけど、それでもやっぱりカールと言えるのか。ところで僕の知っているカールはカタツムリみたいな形のやつのはずだったのに、スティックタイプのものしか見当たらなかった。いつの間にまっすぐがメジャーになったのだろう。
サクッとした食感が売りのチョコチップクッキーも湿らせるとどうなるのか。クッキーは二枚ずつ個別包装がなされていたが躊躇なく剥いた。
米菓子代表はせんべい。売っている中で一番堅そうなやつを選んだ。堅くした米は湿らすとどうなるのか。それでもやっぱりうまいのか。以前しみせんべいという初めから湿っているせんべいを食べたことがあるが、あれはものすごくうまかった。普通のせんべいは湿らすとしみせんべいに迫れるのか。
ポッキーはどうだ。柄の部分はチョコでコーティングされているから湿気を寄せ付けないんじゃないか、そんな反湿り系の代表として選抜した。湿ったところがまったく想像できない。
最後に豆部門代表ピスタチオ。殻を被っているので湿気を防御できるかもしれない。お菓子以外のものが湿るとどうなるのか。ナッツの女王の面目は保たれるのか。
集めたお菓子はこの状態で湿るのを待つ。ちなみにこの日の沖縄地方の湿度は約70パーセント。体感的には少しじめっとする暑さだ。
そしていよいよ湿っていくわけです。
経過確認
湿らせはじめて3時間が経過した。残念ながらまだどれもサクサクだ。サクサクだと次から次へと食べてしまう。この時点であまりたくさんのお菓子を食べてしまうと最後の方でお菓子が足りなくなると思いセーブするほどだ。
お菓子のことを忘れて仕事している間に6時間が経過した。早速だがキャラメルコーンのサクサク感が減衰しはじめている。それとせんべいの表面がべとべとしてきた。後のは特に変わりなし。
どんどんいきます
12時間経過。というか今夜中なのだけど一人で起きてお菓子食べている。妖怪みたいだ。前回6時間経過後にチェックした時から特に大きな変化は見られない。しかしキャラメルコーンのサクサク感だけはずいぶん減衰したように思える。咬んだ時に歯がメリッと食い込むようになってきた。そういえばかっぱえびせんも心なしか口当たりが重くなった気がする。だけどまだ表すとしたらサクッだ。
18時間経過。次の日の朝。起きてすぐお菓子チェック。普段ほとんどお菓子を食べない僕にとって正直荷が重くなってきた。これはなにかの罪滅ぼしなのだろうか。
かっぱえびせんとカールに重さが加わってきた。食べると歯に湿った食感が残る。キャラメルコーンは順調に湿り、指で押しつぶしても砕けないまでになった。食べてみるとえびせんとカールはまだサクッだが、キャラメルコーンだけはすでにメリッ、だ。
クッキーも湿り始めているが全く違和感なくうまい。そういえばはじめからこういう食感のクッキーもある。
ポッキーはチョコが溶けて一つにまとまっていた。ひっぺがして食べてみると心棒は湿っていないが、チョコをまとっていない持ち手の部分だけが湿ってぼそぼそになっていた。
そして最終日
ここで一気に時間を置いて約3日が経過した。けっして忘れていたわけではない。風邪を引いたのだ。強烈な頭痛に襲われながら昼まで寝ていて、起きたらテーブルの上に湿ったお菓子が広がっていた。シチュエーション的にはじめの僕の目指すところにたどり着いたとも言える。死にそうだが、食べてみる。
キャラメルコーンは見事に湿った。あの形のまま上下に力を加えると割れることなく曲がる。完成形と言えよう。食べてみる。メリッ、メリメリッ・・・。だらしのない食感が曇った意識を癒していく。
ああ、やっぱりうまい。
3日の猶予を与えたにもかかわらず他のお菓子は相変わらず中途半端な湿り具合だった。かっぱえびせんにおいては食感が少し重くなり歯に残る感覚こそ増したが、未だ深いところでサクサク感を持続させている。カールも同様。スティックがへにょっと曲がるくらいの絵を期待していたのだけど曲げたらなんなく折れた。
せんべいはべとべとになった。食べると若干の湿りを感じるものの、しょうゆコーティングのおかげかサクサク感も持続している。やはりあの日のしみせんべいとは別物だ。
今回大きな収穫だったのがチョコチップクッキー。18時間経過後くらいから急激に湿りはじめ、今ではもうつまみ上げるのもやっとなほどぽろぽろになった。しかし食べてみるとこれがなぜかうまいのだ。口に入れた瞬間にクッキー生地がこぼれ落ち、チョコだけが残る。
対して失敗だったのがピスタチオとポッキー。湿った豆はもう女王の貫禄を持ち合わせてはいなかった。咬もうとすると湿気で弾力の増した豆が割れずに反発し、あやうく歯が折れそうになる。ポッキーはチョコが溶けて一つにまとまり、湿った持ち手の部分だけがぼそぼそと折れ落ちた。
あたりまえのこと言うぞ
サクサクが売りのお菓子からサクサク感を奪うと純粋に味だけの勝負になる、かと思いきやそうでもなかった。ヒット商品だけあって全体的に味はどれもうまいのだ。それに加えて歯ごたえ、食感というのは実に重要な要素なわけで、それを湿気で台無しにしてしまうということはお菓子本来のうまさを犠牲にしてしまうことになる。試しに比較用に買っておいた新しいお菓子と食べ比べてみたのだけど、言うまでもなく湿る前の方がうまかった。
まとめと考察
結果としてもともとうまいものは湿ってもそこそこうまい、ということがわかった。僕が湿ったキャラメルコーンが好きなのは、もともとのキャラメルコーンが好きだからだ。そして湿ってもうまいものというのは、湿る前はもっとうまい。やっぱりお菓子は開けたてを食べきるべきだということです。