保険のスタートアップ企業であるクイリティー(Quility)は、ヤマアラシのマスコット「キグリー(Quigley)」を前面に出し、ストリーミングプラットフォームでデジタル動画広告を活用したブランド認知活動を精力的に進めている。クイリティーのCMOを務めるジョー・デンディー氏によると、創業2年目となるクイリティーはこの戦略によって規模を拡大し、より多くのオーディエンスにリーチすることを目指しているという。
クイリティーは、ブランド認知のための予算を倍増し、Huluやテレビのデジタルサービス、ABCのローカルチャンネル、A+E、BBCアメリカ(BBC America)、CBS、CNBCなどのストリーミングプラットフォームで動画のスポット広告を流すために多くの広告費を投じている。
この取り組みは2022年2月、キグリーを主人公にした30秒のスポット広告で始まった。デンディー氏は詳細を明らかにしなかったため、クイリティーがCTVやOTT向けに費やした広告費の正確な金額はわからない。
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ソーシャル広告のコスト上昇が引き金に
デンディー氏は、「我々は、ここが支出に見合う価値がある場所だと気づいた。いまいる場所で、最も効果的な施策を行うことができる場になるはずだ」と話す。
ストリーミングプラットフォームでコンテンツを消費しより多くの時間を過ごす人が増えるなか、クイリティーはより多くの人々にリーチできる場としてCTVとOTTに賭け、顧客に出会うための方法を増やそうとしている。
ソーシャルメディアで顧客獲得戦略を構築し、以前はストリーミングプラットフォーム向けに広告予算をつけてこなかったクイリティーにとって、これは初めての試みだ。しかし、データプライバシーの問題やコストの上昇でソーシャルメディア広告が負担となってきたことから、同ブランドは2022年にその構成の多様化を検討し始めた。
「Facebookはブランド認知のためのコンテンツマーケティングにシフトさせ、直接顧客を獲得するための手段としてはほかの経路を利用している」とデンディー氏は述べる。
デジタル動画広告の利用に加え、クイリティーは検索広告とディスプレイ広告への取り組みを強化し、さらにTikTokにも参入することにした。デンディー氏は、この短編動画アプリが近いうちに同ブランドのマーケティング戦略の定番となり、同アプリを利用する若いオーディエンスの目に触れるようになることを期待していると話す。
CTV、OTT支出は大幅増へ
クイリティーは2021年に、総額3000万ドル(約36億5000万円)を超える額をマーケティングに費やしたが、その半分以上は顧客獲得のための取り組みに向けられたとデンディー氏はいう。また、ブランド認知に向けた取り組みを進めるなかで、CTVおよびOTTへの支出は大幅に増加する見込みであることを付け加えた。デンディー氏はこれ以上の詳細を明らかにしなかった。
このキャンペーンでは、クイリティーはクリエイティブ&パフォーマンスエージェンシーであるユニオン(Union)を活用して、クリエイティブ開発を行った。デンディー氏によると、それ以外についてはクイリティーのマーケティングチームと広告オペレーションチームのあいだで社内で実行されているという。
デジタル動画広告空間での活動を増やしているのはクイリティーだけではない。フットウェアメーカーのメレル(Merrell)やビビッド・シーツ(Vivid Seats)、アドア・ミー(Adore Me)なども、メディアミックスの強化と多様化のためにストリーミング広告を活用している。イーマーケター(eMarketer)は、CTVへの米国での投資額が昨年134億1000万ドル(約1兆6300億円)に達し、予測期間終了の2025年には倍増すると予測しており、この傾向はますます強まっている。
広告エージェンシーであるダガ(Dagger)のメディア担当バイスプレジデント、アシュリー・カリム=キンシー氏は、電子メールの取材に応えてこう書いた。「広告主は、CTVおよびOTTの柔軟性と、絶えず成長し続けるこのチャネルの消費に惹きつけられている。CTVおよびOTTは、各ブランドが現在の資産で広大なスペースをテストするオプションを提供してくれるので、クイリティーのように新たに施策を始めたブランドにとって、これは進むべき道だ」。
新しい顧客を取り込む重要な要素に
しかし、カリム=キンシー氏は、すべての卵をひとつのかごに入れるのではなく、CTVとOTTキャンペーンに従来型テレビ、プログラマティックソーシャル、屋外広告などを重ねて、「より低いインプレッション単価で追加のリーチを得る」ようブランドに注意を促している。
ヤマアラシのキグリーを起用したキャンペーンは、クイリティーが初めてCTVとOTTに出す広告だが、デンディー氏は、このチャネルは有望で、今後も努力を続けていくと述べる。
デンディー氏はこう話す。「これは、我々が新しい顧客層を取り込むための重要な要素になり、今後も成長するだろう。軌道と方向性を示す指標がこのまま推移していくようなら、さらに投資を続けていくことになるだろう」
Kimeko McCoy(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:猿渡さとみ)