急速な米国市場進出、米国化を進める メディア企業 たち:経営トップを米国から迎え、本部をNYに移転するメディアも

DIGIDAY

英国企業による米国市場への進出自体は目新しいことではない。しかし、英国系パブリッシャー各社の動きはここ数週間でさらに活発化しているようだ。

パブリッシャーのなかには、経営トップに米国人を迎える企業もあれば、認知度向上を図るためニューヨークに米国本部を構えた企業もある。また、米国在住オーディエンス向け投資を拡大中のパブリッシャーは、新たな編集記事と購読プラン導入のほか、広告事業の人員増強などのてこ入れを続けている。

本稿でのポイント

  • ガーディアン(The Guardian)の北米購読者は、有料会員総数の半分を占めるが、売上構成比では全体の15%にすぎない。
  • インデペンデント(The Independent)は米国広告主向けの在庫を増やすべく、動画コンテンツと編集記事への投資を拡大している。
  • フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)は米国における認知度向上のため、これまでで最安料金の購読プランを設定した。

広告事業の拡大

2022年10月にガーディアン米国部門のマネージングディレクターに着任したスティーブ・サックス氏によると、ガーディアンのサイトの月間平均ユニークユーザー数は2022年、北米だけで8700万人と、世界全体の半分近くに上った。一方、売上高ベースでは北米の貢献は全社の15%にとどまった。同社の2022年総売上高が3億750万ドル(約400億円)だったのに対し、北米事業の売上は4560万ドル(約59億2800万円)。全体に占める構成比は2019~2022年度の3年間で10%から15%へと伸長した。

購読者数と売上の対全社構成比において英米で大きな差がついた理由を問われたサックス氏は、次のように述べた。「この課題への対応もあって私が北米事業を任された。実績データを見て、いままで築き上げてきた購読者基盤が収益化に役立つと思った。取り組みはまだ緒についたばかりだが、収益拡大の大きなチャンスにつながるだろう」。

ガーディアンでは2022年、北米事業売上の半分以上が購読者からの寄付や支援によるもので、次いで2番目に多いのが広告収入だった。慈善事業が全社売上高に占める割合は5%から9%だという(具体的な数値は非開示)。

サックス氏によると2023年度(4月1日開始)の成長戦略の柱は広告事業で、とくに直販広告に力を入れるべく、営業と運用担当者の採用を進めて人員を2桁パーセント増やす計画だ(年間予算が未確定のため、具体的な数値目標は非公表)。同社が米国内で展開する直販広告の売上は今年度末には前年比で40%伸びると見込まれる。

「突破口を開こうと、日々奮闘している」

インデペンデント米国部門シニアバイスプレジデントのブレア・タッパー氏は、コムスコア(Comscore)発表のデータを引用し、インデペンデント米国サイトのユニーク訪問者数が2023年1月、前年比16%増の2700万人を記録したと述べた。この数字は同社グローバルサイトのユニーク訪問者数(同年同月に6760万人)のおよそ32%に相当する(Adobe Analyticsの解析による)。

タッパー氏は、インデペンデント米国サイトと英国サイトそれぞれの売上の詳細データを公表していないが、「ガーディアンが発表した数字とあまり変わらない」と述べ、「当社は新規事業の突破口を開こうと、日々奮闘しているところだ」とつけ加えた。

2023年、米インデペンデントの成長を引き続き牽引するのは、インデペンデントTV部門が提供する動画/長編ドキュメンタリーの視聴者増と、ヒット作品関連のコンテンツパッケージ商品の拡大だろう。また、これらのコンテンツに付随して表示される広告からの収入が、売上増に寄与するとみられる。

「今後は他社と直接組むパートナーシップを拡大していく。提携の主眼は、動画コンテンツやブランド名を冠した記事コンテンツの配信と、プログラマティック広告取引の効率化だ」とタッパー氏は語る。「インデペンデントのサイトについては、ユーザー体験向上の面でかなり手を入れた。その過程で、プログラマティック広告取引におけるパートナーシップの優先順位を再考し、高いCPM(インプレッション単価)で広告が配信されているか否かを判断基準として取引先との関係を見直した」。タッパー氏は、CPMの最適な数値についてはコメントを差し控えた。

新セグメントでリスクを負う

フィナンシャル・タイムズ(以下、FT)が米国に進出して25年以上経つが、米国部門が本格的な発展を見せはじめたのは2018年、マット・フォットレル氏が同事業のバイスプレジデントに就任してからだ。2022年、FT全体の広告収入に占める米国の割合は前年比で12%増加して約30%。購読事業では、全世界で1300万人に上るFT有料会員のうち20%が米国在住だとフォットレル氏はいう。

FTの全世界売上のうち最大の貢献度を誇る購読事業収入では、有料会員の4分の3が2008年に導入された法人向け従量制購読会員だ(会員数は非開示)。FTデジタルの年間購読料はスタンダードプランが375ドル(約4万8750円)、プレミアムプランが600ドル(約7万8000円)だが、一般読者への販売は容易ではないとフォットレル氏も認めている。

「世界でもっとも競争が熾烈なメディア市場に、世界でもっとも質の高いジャーナリズムをひっさげて進出してみたら、週に1ドル(約130円)、月に1ドルといった低料金で購読者を募集している媒体さえある。実に厳しい環境だ」とフォットレル氏は語る。ただしその環境は、「リスクを負う」際のハードルを下げる効果もあるという。

新セグメントである一般購読者層への訴求作戦としてFTは2022年10月、スマートフォンのアプリ『FT Edit』 を米国市場で試験的にリリースした。アプリをダウンロードした購読者は月額4.99ドル(約650円)で、FTのコンテンツから新編集長が厳選した記事を1日8本まで閲覧できる。4.99ドルという料金はFTの購読プラン中最安だが、フォットレル氏は、アプリを試して気に入った会員が年間375ドルのスタンダードプランにアップグレードする可能性に期待している。ちなみに、アプリのダウンロード数はすでに10万を超えたという(アクティブ有料会員数は非開示)。

フォットレル氏の目標は、米国内のユーザーエンゲージメント(各ユーザーのサイト訪問履歴、エンゲージメントの頻度、コンテンツ利用量にもとづき算出された値)を向上させ、2025年までにエンゲージドユーザー数を2019年の2倍に引き上げることだ。FTのエンゲージドユーザー数は2022年、前年比15%の伸びを示し、目標への中間地点に達している。

米国市場でのプレゼンスを高める

米国市場向け体制の積極的な整備は、現地の人員配置やオンライン対応など、メディア業界全体に広がっている。

FTグループを所有するメディア企業、日本経済新聞社は米国市場における攻勢に拍車をかけており、2025年までをめどに、FTの現地スタッフ確保と実験的施策目的の予算を拡大した。

一方、英バース市に本社を置くフューチャー(Future plc)は、ジラ・バイン=ソーン現CEOの退任にともない、デジタルメディアで実績のある米国人のジョン・スタインバーグ氏を新CEOに指名した(就任は4月初旬の予定)。スタインバーグ氏の前職は英デイリーメール・オンライン(Daily Mail Online)の北米事業責任者で、過去にはBuzzFeedのプレジデント兼最高執行責任者を務めた経験もある。フューチャーが目指す、米国市場での支配的地位確立に向けた構想をうかがわせる人事だ。

ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)の2月末の報道によると、独ベルリンに本社を置くアクセル・シュプリンガー(Axel Springer)は米国内のパブリッシャー事業への注力強化のため、ドイツ本社機能の縮小を計画しているという。同社はニューヨークに米国本部を新設したほか、ドイツ国内の事業再編に取り組むとしており、印刷媒体からデジタル媒体への全面的な移行を表明している。また、ポリティコ(Politico U.S.)、インサイダー(Insider Inc.)、モーニングブリュー(Morning Brew)など、米国拠点事業のさらなる拡大を狙う。

アクセル・シュプリンガーのマティアス・デップナーCEOは長期的目標として、ポリティコを購読者数と広告収入においてニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やウォール・ストリート・ジャーナルをしのぐ媒体に成長させたいと語っている。

[原文:Media Briefing: How U.K.-based media companies are continuing their push into the U.S.

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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