ニュースレター に「人格」を与える、ニューヨーカーの試み:担当ディレクター、ジェセイン・コリンズ氏に聞く

DIGIDAY

ニューヨーカー(The New Yorker)は日刊ニュースレターの装いを一新し、より「声高に」訴え、編集意図が見える姿勢を読者の受信トレイに届けることにした。作り手の人間性とオリジナルコンテンツをこれまでよりも多少増やすこと――それがニューヨーカーが日刊ニュースレターに導入することにした新たな戦略だ。

週7日配信される無料ニュースレター、デイリー(The Daily)は現在その日のトップニュースから始まり、ニューヨーカーに掲載のニュース・分析、カルチャー・エッセイ、ユーモア・漫画、パズル・ゲームといったコンテンツが続く。そして最後に「追記」として、その日のニュースまたは歴史的出来事とニューヨーカーが有する100年分近くものアーカイブへのリンクが貼られていると、このリニューアルを紹介する投稿は説明している。

その投稿者、ジェシー・リー氏とイアン・クラウチ氏の両名がこの旗艦的ニュースレターを共同執筆している(リー氏は2年前から携わっており、一方のクラウチ氏はニューヨーカーのさまざまな部署に10年以上勤務してきた)。

旧バージョンと新バージョンの違いは以下のとおり。

旧バージョン(左)から新バージョン(右)へのリニューアルは、ニュースレターに人間性や人格を与える試みだったという。

米DIGIDAYはこのたび、ニューヨーカーのニュースレター担当ディレクター、ジェセイン・コリンズ氏に取材し、この日刊ニュースレターの何が変わったのか、同チームはなぜニューヨーカーのトップニュースをそのまま掲載するだけでなく、編集者に読者と直接コミュニケーションを取る場を与えることにしたのか、話をうかがった。

ニューヨーカーは現在、計18のニュースレターがある。2022年3月最終週、デイリーの刷新に併せて、クロスワードパズルのニュースレターについても、配信数を週5日に増やす旨を発表した。

同社広報によれば、デイリーには現在200万人近い定期購読者がおり、前年比16%増を記録した。一日の購読数は100万回を超える。また、同広報によれば、ニュースレターの読者は、一般のサイト訪問者に比べて、ニューヨーカーの定期購読者になる確率が2倍だという。

なお、読みやすさを考慮し、発言には多少編集を加えてある。

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――ニューヨーカーがニュースレターを刷新した理由は?

デイリーを編集においてさらに濃厚にし、編集とスタイルの両面で、すべてにおいて本体ニューヨーカーの路線に沿うものにできるチャンスが十二分にあると見て取った、というのが主な理由だ。これまでは、我々が編集およびキュレートの全権限を有するリンクをそのまま掲載しており、オリジナル素材を加えたり、パッケージングを施したり、といった能力は持たなかった。そこで技術面を強化し、素材のパッケージングについて、柔軟性を大きく増すことができた。

ニュースレターは以前から個人が編集およびキュレートしていたのだが、私が思うに、誰がそれをしたのかまでは、見ただけでは必ずしもわからなかった。しかし、ニュースレターというスペースは一般に、人間性や個性、執筆者の声やそのメディアの本質に命を吹き込める場だ――そしてそこが、ニューヨーカーには欠けていたと感じた。だからこそ、元々あったそうした人間性の部分を、裏に隠しておくのではなく、もっと前面に出したいと考えた。

――今のニュースレターと以前のものとの具体的な違いは?

多少の差はあるが、ほぼ毎日ニュースレターの冒頭に、その日のニュースの背景をわかりやすくかみ砕いたものを提供している。そしてこの部分こそが、1~2年前、当プロジェクトの最初期段階で行なったユーザーリサーチに対するひとつの回答にほかならない。自分の元に送られてきたすべての記事を解析・分類する方法がそのメディア自体の中にあるとありがたい、という読者の声があったからだ。我々が出版・配信したすべてをわかりやすくかみ砕いたものに対する渇望が大きかった。逆に言えば、「ニューヨーカーから送られてくる5000字のEメールを読みたい」と言う人は、さほど多くなかった。

そこで、ニュースレターにいわば人格を持たせ、それをまとめている編集者自身が読者を導くものにしたらどうだろう、という案に行き着いた――我々が出版・配信している全記事を読む、という仕事を彼らに一任し、いま知る必要があり、絶対に読むべきと彼らが判断したストーリーの中にだけ連れて行ってもらう、という考えだ。

――刷新した日刊ニュースレターに期待することは?

このニュースレターの狙いのひとつが、その日最大のニュースを理解するための道標的なものを読者に提供し、相応の時間を割いてそれを読むことが必要な理由を彼らに伝えることだった。また、ニュースレターでは、その日の大きなニュースの背景を伝えるだけでなく、他のあらゆるコンテンツを、さまざまなクリエイティブな形でコンパクトにまとめている。さらに、その時々で編集的なことを瞬時に行なえる柔軟性もある――我々が「フューチャレッツ(featurettes)」と呼んでいるものだ。

我々が最終的に目指すのは、ニューヨーカーという枠の中での話だが、長尺フォーマットの優れたニュースレターを数多く有することにある。ただしこの商品、デイリーでそれを目指したわけではない。我々が今回応えたニーズはあくまで、我々が提供する極めて広大かつ深いストーリーの森を迷わずに進むための一助となる、手軽でわかりやすいダイジェスト版のようなものが欲しい、という読者の声だ。

――このニュースレターに加えたいオリジナルコンテンツは?

今は実験の初期段階にあるわけだが、たとえば、ニュースレターの編集者がライターと密に連絡を取り合い、そのライターが書いている記事の裏側を見せる、ということも考えており、これにはかなりの手応えを感じている。それなら、その記事が出来上がる過程もある程度見せることができる。つまり、ライター自身がその記事の中に顔を出し、その事件・出来事の裏にある部分を記事に少々加えるスペースを設ける、ということだ。ライターが大きな記事の執筆・取材過程などを語る、いわゆる舞台裏的なものに近いと言える。

たとえば、刷新した第1号では、スタッフライターのマイケル・シュルマン氏のインタビュー記事に、その類のちょっとしたこぼれ話があった。彼は2022年3月27日のオスカー授賞式会場にいた――だからこそ、翌日の月曜の朝、誰もが話題にしていたあの出来事をいわばその会場の2階席から見ているかのような臨場感を加えられた。いまは、ライターと編集者の声を、彼らの考えを、記事の裏側にある彼らの仕事を見せられる場をニュースレターの中に作りたいと考えている。

――リー氏とクラウチ氏の「声」をこのニュースレターに注入することが重要な理由は?

彼らは我々の記事をほぼすべて、文字どおり読んでいる。一般の有能な編集者でさえおそらく、そこまでの贅沢な時間はないだろう。つまり、彼らはいまやニューヨーカーのエキスパートなのだ。そんな彼らに、我々が出版・配信する記事を読者が深く理解するための鎹になってもらい、さらに彼ら自身の関心も追求してもらいたい、と考えた。私の思考プロセスの一部を成したものは、たとえば、ユーザーのニュースレターを読むという旅路を、彼ら編集者がどうしたらうまく引率・案内できるようになるのか? どうしたら読者の目を引きつけられるのか? 友人にも勧めたいと思わせるものは何なのか? だった。彼ら編集者にはそれの追求を活力にしながら、各々の感覚を研ぎ澄ませて直観と共に動き、唯一無二のコンテンツを創造し、その特別感を読者に伝わるように際立たせてもらいたいと考えた。

――この日刊ニュースレターについて、ニューヨーカーが考える成功基準とは?

このニュースレター、つまり受信トレイはある意味、デイリー自身のプラットフォームであり、他のプラットフォームでの場合とまったく同じく、ニューヨーカー自体もそのプラットフォーム内に自らの投影を息づかせたいと考えている。読者との直接的な関係という点において、反応が往々にして予測し難い他のプラットフォームに比べて、このニュースレター・受信トレイがどれほど強力なのかは、十分に理解している――この点は極めて重要だ。

ビジネス面について言えば、読者との直接的な関係はサブスクライバービジネスモデルに直結するものであり、そこは我々が明確に照準を合わせている点だ。根本には、定期購読者数を増やすという狙いがあり、実際、ニュースレター読者は定期購読者への道を歩む確率が極めて高いことを示すデータもある。したがって、その関係をいっそう強化したいと考えている。

[原文:Why The New Yorker is using more ‘voice’ in its daily newsletter

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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