パンデミックの打撃を受けた、次世代型リテール企業のいま : b8taやショーフィールズの場合

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パンデミックが襲いかかる1年ほど前、多くの活気のある新興企業はベンチャーキャピタルで数百万ドルを調達し、ソーホーやチェルシーなどのトレンドの発信地で賃貸契約に飛びついていた。これらはすべてほとんど同じ目的、すなわち「百貨店を改新する」ことを目指していた。

2018年から2019年のあいだに、ネイキッドリテールグループ(Naked Retail Group)、ネイバーフッドグッズ(Neighborhood Goods)、ショーフィールズ(Showfields)という3つの新興企業は、いずれもD2C新興企業の隆盛に対応した、より現代的な小売体験を生み出すという目標を掲げて創設された。このモデルはスケールできるという証拠もあった。より実績のある競合他社のb8ta(ベータ)は5000万ドル(約58億5000万円)を調達し、約20店舗にまで成長し、伝統的な百貨店であるメイシーズ(Macy’s)からのお墨付きまで獲得していた。

従来型小売からの脱却をめざしたマルチブランド型店舗

しかし3年後、これらの新興企業のなかには消滅したものもある。

以前報告したように、b8taはパンデミックに続いて訪問者が急減したあとで、米国での操業をひっそりと終了し、いくつかの店舗を閉鎖してから、地主と合意に至らなかったため会社自体を解散した。ネイキッドリテールグループも12月にひっそりと解散した。これまでその詳細は報告されていなかったが、共同創設者のジャスティン・ケルツナー氏はメールで筆者にこのことを認めた。同氏は、ネイキッドリテールグループは「多くの理由から」解散したと語ったが、それ以上の詳しい説明は行わなかった。また同氏は、新しい小売ベンチャーに取り組んでおり、それが8月にローンチされる予定だが、ネイキッドリテールグループとは「完全に異なるコンセプトとカテゴリー」のものだとしている。

これらの新興企業はいずれも、小売業の改新において少しずつ異なる手法を採用しているが、いずれも大まかな主題は共通している。彼らの目には、従来型の小売の環境は、ブランドと買い物客の両方にとって多くの点で不十分であると映ったのだ。しかし、それは同時に、成長のためにはブランドと買い物客の両方の関心を引かなくてはならないということも意味していた。この課題は、パンデミックのあいだに人々が店舗を訪問することを躊躇するようになったことで、さらに困難なものとなった。特に、食料品や医薬品などの必需品を扱っていない企業が強く影響を受けることになった。

マルチブランド型で、過去2年間のパンデミックを生き延びることができた小売業者は、十分な資金を受け、高価なリースを大量に抱えているわけではなかった。これらの小売業者の拡大計画はパンデミックにより多少遅延したが、これらの新興企業の経営陣は、買い物客が現在望んでいるものを提供し続けることができると強気だ。

ショーフィールズのCEOを務めるタル・ナサニエル氏は次のように述べている。「Covid-19は単に破壊的だっただけではなく、不可避なプロセスを推進する結果になった。これによって、私の人生の5年間が失われたような感覚があるが、実際には我々は5年後の未来に一気に進んだと言ったほうがいいだろう」。

百貨店の新時代の到来

b8ta、ショーフィールズ、ネイキッドリテール、ネイバーフッドグッズなどの新興企業が出現する前は、D2Cブランドが実店舗の小売に展開する方法は基本的に3つだった。すなわち自社独自の恒久的な店舗を開設する、期間限定のポップアップを開設する、自社商品を従来型小売業者で販売してもらう、のどれかだ。

これらの解決策は、いずれもブランドにとってはそれなりに高価なもので、非効率なものだった。常設店舗の開設には数十万ドルの資金と、数カ月の時間が必要となる。百貨店で販売してもらうには、多くの場合、数千ドル分の在庫を先に送る必要がある。

これらのマルチブランド小売業者は、D2C新興企業に対し、自社店舗を立ち上げる代わりに、より安価で時間を必要としない方法で小売のテストができるようにしたいと考えていた。たとえばb8taは、小売業者から家賃を徴収するのではなく、月額のサブスクリプション料金と引き換えに自社ソフトウェアへのアクセスを許可し、小売業者が来訪客の滞在時間といったデータにアクセスできるようにした。ネイキッドリテールグループは、ソーホーにある店舗スペースを数カ月単位で貸し出し、150〜200平方フィート(約13.9から18.6平方メートル)に対して月額1万5000ドル(約176万円)〜2万ドル(約234万円)を請求していた。決して安くはないが、店舗全体を借りるよりは安価だ(クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド[Cushman and Wakefield]によれば、パンデミック前の時点で、ソーホーにおける小売店舗の平均家賃は1平方フィートあたり350ドル[約4万1000円]だった)。

同時に、これらのマルチブランド小売業者は、より優れた、より魅力的な体験を顧客に提供すると主張していた。顧客はもっとも活気のあるブランドにアクセスでき、店内ではミュージックショーやハッピーアワーなどのイベントが催された。

コンサルティング企業のコンドラットリテール(Kondrat Retail)の創設者であるレベッカ・コンドラット氏は、次のように述べている。「場所を用意し、その場所で複数のブランドを展示することで、話題性を高めることができるということが認識されはじめたのだと思う。7年や10年といった長期賃貸契約のアセットに縛られることがないため、すべての関係者に利益がある」。

パンデミックによる集客減が打撃に

しかしコンドラット氏によれば、場所の柔軟性は各ブランドにとって大きな売りではあるが、いくつかの課題も生まれた。

コンドラット氏は次のように述べている。「私は、これと同じようなことを行おうと考え、実際にいくつかのプロジェクトに従事したが、ブランドのコミットを得るのは困難だった。各ブランドはコミットの前に、ほかにどのようなブランドが契約しているかを知りたがったからだ。ある意味、キャッチ22(デッドロックで解決策のない状態)のようになってしまった」。

各ブランドに対して、ほんの数カ月だけ場所を借りられるようにするのは、そのブランドにとっては便利かもしれないが、一方ではこれらの小売業者が常時同じ商品を在庫できないということも意味する。

これらの小売業者の一部は特定のカテゴリー、たとえばb8taならハイテクの道具の商品のみを販売していたが、それでも、このようなマルチブランドの小売業者にとって、顧客が自分たちの店に来る理由を具体的に説明することが難しくなった。

また、これらの空間は顧客が必要な品だけを手にしてすぐに退出するような場所ではなく、新しいブランドを探して多くの時間を費やす場所としてデザインされていた。そのため、これらのマルチブランドの小売業者の多くにとって、客足がパンデミック前の水準に戻るには長い時間を要した。場合によっては、今でもまだそこに到達していないこともあるのだ。

「当社のような多くの専門小売業者にとって、回復はずっと遅かった」と、b8taの共同創設者であるヴィブ・ノービー氏は筆者に語った。訪問者数が依然としてパンデミック前の水準に戻っていないことから、b8taは昨年、店舗の半数以上を閉鎖した。賃貸料の支払いはまだ残っていたが、地主との交渉で合意に至れることを期待していた。しかし、それがかなわず、2年間のパンデミックによる制限で操業が阻害されたことから、操業を停止するしか選択肢がなくなった。

「最後の決定打になったのは、地主からの全体的な扱いと、当社を重要だとは考えていないような態度だった」とノービー氏は語る。

マルチブランド型小売の将来

次世代百貨店のうち、今でも操業を続けているショーフィールズとネイバーフッドグッズの2つは、多くの活気ある地域での小売のトラフィックがまだパンデミック前の水準に回復していないにもかかわらず、2022年以降の見通しについて楽観的だ。

ネイバーフッドグッズのCEOを務めるマット・アレクサンダー氏は、「トラフィックは2019年に見られたのとほぼ同じ水準だが、コンバージョン率は今日のほうが大幅に高い」とメールで語った。

ネイバーフッドグッズには現在営業中の店舗が3つあり、2つはテキサス、もう1つはニューヨーク市にあるが、2019年の大半は1店舗しか営業していなかった。このただ1つの店舗はプラーノにあり、「2021年のトラフィックは2019年の第4四半期を約20%下回っていた。しかしこれに対して、この店舗における小売・飲食全体の売上は、2021年の第4四半期に、2019年の第4四半期より30%も増加した」と同氏は述べている。

ショーフィールズのナサニエル氏は、同社の月ごとの平均訪問者数についてコメントしていない。しかし、米モダンリテールが最近入手したピッチデッキによると、ショーフィールズは各ブランドに対し、同社のニューヨーク市とマイアミの店舗を、それぞれ1カ月平均で1万8000人以上が訪れるとブランド側に報告している。

ナサニエル氏は、この数は月ごとに変化すると述べている。12月と1月には、オミクロン株の感染が拡大したため訪問者数が減少した。特にニューヨーク市では観光客の勢いがいまだ十分に回復していないことの影響を受けていると、同氏は語っている。

マーチャンダイジングの組み合わせが肝に

アレクサンダー氏とナサニエル氏はいずれも、それぞれの店舗の戦略は、Covid-19によって大きくは変化していないと語っている。たとえばネイバーフッドグッズは昨年、マーケットプレイス(Marketplace)と呼ばれる新しい店舗内コンセプトを打ち出し、フライバイジン(Fly by Jing)やパーラーコーヒー(Parlor coffee)などのCPGブランドの商品を、店舗内のカフェの料理に組み入れている。アレクサンダー氏は、このコンセプトが、「多くのCPGブランドが、パンデミックのなかで顧客を獲得し、発見方法を構築する新しい方法を模索しているのを目にしたことから生まれたものであり、ある意味Covid-19への対応として誕生した」としているが、このコンセプトがCovid-19なしでも生み出されたかどうかは判断が難しいと語っている。

一方でナサニエル氏は、ショーフィールズに大きな変化はなかったものの、同社の拡大計画が遅延しているという。同氏は、現時点でショーフィールズが12店舗程度の店舗をオープンすることを望んでおり、今年後半にはさらに4店舗を開設する予定であると語った。

コンドラット氏は、マルチブランドの小売モデルが成功することに期待すると語っているが、これらの小売業者は、「どのような商品を販売するか、売り場をどのようにレイアウトするかを非常に注意深く検討する必要がある。自転車の横に勃起不全の治療薬を並べたりするべきではない」と述べている。

同氏は、マルチブランドモデルが成功した小売業者の例として、メイシーズ(Macy’s)に買収される前のストーリー(Story)を挙げている。

「マーチャンダイジングの組み合わせが適切で、適切な市場に店舗を配置すれば、このモデルには多くの可能性があると考えている」と同氏は述べている。

[原文:DTC Briefing: Startups that hoped to reinvent department stores have shuttered in the wake of the pandemic]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:猿渡さとみ)

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