「違和感のなかにこそ価値がある」:CHOOSEBASE SHIBUYAの仕掛け人・伊藤謙太郎&森雄一郎氏

DIGIDAY

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リテールにおいてデジタル技術を採用する際、その多くは顧客の利便性や効率性の向上を見据えたものだが、そごう・西武が2021年9月にスタートしたOMO(Online Merges with Offline)型ストアCHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベース シブヤ)は、それだけに限らないようだ。「Future of Retail」を標ぼうし、先進的なテクノロジーを導入した店舗は、顧客が体験したことのない、驚きや発見の創出を狙いとしている。

CHOOSEBASE SHIBUYAは、D2Cブランドの商品を集積し、顧客の行動・購買履歴を共有するいわゆるRaaS(Retail as a Service、サービスとしての小売)であると同時に、百貨店の編集力を生かして「売ること」を重視した店舗でもある。半年ごとにテーマを設定し、それに合わせたMDを組むことで、顧客が商品に込められた思いやストーリーにより共感しやすい環境を作り出している。購買については、各商品のそばに置かれたQRコードをスマホで読み込むと、店内専用ECサイトが立ち上がる。購入手続きを進め、LINEやメールに届いた決済コードを店頭レジで提示すると、キャッシュレスで決済できる。スマホだけで決済まで完了する仕組みだ。

モバイル端末を使うという購買方法が、「わかりづらく不便」といった声も聞かれるというが、「顧客のニーズに合わせるだけではなく、我々が提案するものに対して、新しい価値を感じてもらえることが大切」と語るのは、FABRIC TOKYO代表取締役CEOの森雄一郎氏。CHOOSEBASE SHIBUYAのテナントとしてオーダーメイドのビジネスウェアであるFABRIC TOKYOとウィメンズオーダーウエアのINCEINを出店しているだけでなく、ディレクターの伊藤謙太郎氏とともに、同店舗の開発にも携わってきた。伊藤氏と森氏が口を揃えていうのは、CHOOSEBASE SHIBUYAの顧客が「楽しみながら買い物をしている」ということ。森氏は、「経験したことのない買い方を提案しているからこそ魅力を感じてもらえているのではないか」と見る。

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CHOOSEBASE SHIBUYA

両氏は、モダンリテール[日本版]が2月10日に開催したハイブリッドイベント「MODERN RETAIL FORUMーRETAIL REVOLUTION 主張するリテール」で、「RaaS、OMOストア…顧客体験の未来はどこにある?:そごう・西武 × FABRIC TOKYOの目指すもの」と題したセッションに登壇。CHOOSEBASE SHIBUYAを通して考えるリアル店舗の価値や顧客との関係、今後のビジョンなどについて語った。

以下にセッションの一部を紹介する。なお、読みやすさを考え、編集を加えてある。

◆ ◆ ◆

――CHOOSEBASE SHIBUYAは、没入感のある空間の中にD2Cブランドを集め、OMO型店舗として新しいリテールを提案している。これは当初から考えていた形だったのか?

伊藤謙太郎氏(以下、伊藤氏):既存のビジネスモデルに限界がきていると感じていて、デジタルとリアルを掛け合わせることで、リアルの力をもっと増幅できるのではないか、新しいリテールを切り拓きたいという思いがあった。D2Cブランドや、百貨店をはじめとするマルチテナント型施設が持つ課題を吸い上げるなかで、それをすべて解決したいと考えた。まずは、D2Cブランドがリアル店舗に出る価値を定量的なデータで感じてもらえるよう、AIカメラなどを使い、顧客の行動・購買経路をすべて追跡できるようにした。

また、店頭とECの在庫をリアルタイムで連動させた。特に百貨店などでは店舗とECの在庫管理が別になっていることが多く、店頭で見つけた商品をあとでECで買おうとすると、そもそもECで扱ってない、売り切れている、ということが往々にしてある。これはユーザー体験においても不幸なことであり、解決すべき課題だと考えた。


そごう・西武 CHOOSEBASE SHIBUYAディレクターの伊藤謙太郎氏

森雄一郎氏(以下、森氏):FABRIC TOKYOは2016年にリアル店舗の展開をはじめたが、実は出店に苦労した過去がある。色々な商業施設にお声がけしたのだが、断られるケースが非常に多かった。オンラインで購入したものを店舗で受け取ったり、店舗で購入したものを顧客の自宅に配送するといったサービスが法務的・規約的にNGだという理由がほとんどだった。伊藤さんがそういうリアルな課題を含め、D2Cブランドや商業施設が抱える問題をCHOOSEBASE SHIBUYAで「すべて解決したい」と言ってくれた思いにとても惹かれた。

――米国ではショーフィールズやb8taなど、RaaSといわれる業態がすでに台頭している。

伊藤氏:米国のRaasをいくつか視察したが、それを日本でどのように落とし込むか、時間をかけて研究した。Raasというと、売ることをおもな目的としていないショールーム型店舗をイメージすることが多いが、CHOOSEBASE SHIBUYAに関しては、しっかりと売ることをコンセプトにしている。そこが大きな違いだ。

――CHOOSEBASE SHIBUYAを含め、D2Cブランドを集めた商業施設にはどういった可能性があると思うか?

森氏:SNSなどを基軸に、自身の周囲からファンを作り成長していくブランドは今後も増えるだろう。出店しやすく、かつ集客しやすいリアルな場を提供する機会も必然的に増えると考えている。しかも、b8taなどは、デバイス系やガジェット系の出店者が多いが、CHOOSEBASE SHIBUYAはサステナビリティやSDGsに関連したアイテムが多い。こういった業態が増え、それぞれ特色があるというのは楽しいことだと思う。

伊藤氏:これまではリアル店舗を出そうとすると、契約形態が固定化されていたり、法務における制約も多かったので、RaaSそれぞれに違いがあり、ブランド側がそれを選択できるのは、いいことだ。ブランドの立ち上げが民主化され、消費者側にとっても色々な選択肢が生まれることになる。

森氏:ブランド目線だけではなく、消費者目線にもこだわり店舗設計を行った。ユーザーインターフェイスや店舗の内装、システムを含め、海外のショールーミング型店舗にも劣らず、むしろこっちの方がイケてるんじゃないかとも思っている。システムはアジャイル開発しているので改善できるし、顧客セントリックで非常にいいものを作ることができた。

――ローンチから5カ月が経過し、見えてきたものは?

森氏:具体例をあげると、接客時間が非常に短いことだ。デジタルリテールやESGに理解がある顧客の比率が高いので、オンラインでの購入などスタッフによる説明の時間も省けている。FABRIC TOKYOは駅ビルなどにも出店しているが、CHOOSEBASE SHIBUYAに比べてECを利用している方が少なく、店舗によってそうした違いが生まれるのは意外な発見だった。

FABRIC TOKYOのことを知らないフリー客の来店率や、そこからの購入率といったデータも取得でき参考になっている。購入に至らない場合でも、会員登録やメルマガ登録、SNSフォローなど、我々が重視している顧客との関係構築に繋がっている。CHOOSEBASE SHIBUYAで取得したデータと、我々が独自に持つ定量・定性データとを突き合わせ、より詳細な顧客分析も行っている。


FABRIC TOKYO代表取締役CEOの森雄一郎氏

伊藤氏:顧客体験を高め、出店ブランドの満足度を上げるため、何がフックになり、何に興味を持っていただけるかを見極めることが大切だと実感している。VMDや商品の並び替えにおけるデータ分析が欠かせず、継続して取り組んでいる。リアルとデジタルの掛け合わせが面白いと感じてもらえていることも大きい。我々が取り扱っているブランドは、ほかでもリアルのタッチポイントを持っていることが多いのだが、我々のインススタグラムを見て、せっかく買うならCHOOSEBASE SHIBUYAで、といって来店されるケースが多い。この空間で買いたい、と感じてもらえているのだと思う。

――あえてここで買いたい、と感じてもらえるようなCHOOSEBASE SHIBUYAのほかにはない魅力とは?

森氏:値段を表示した方がいいのでは? とか、商品の説明をもっと加えてほしい、といった声もあるが、顧客の利便性に寄り添いすぎるのも違うと思う。何より、CHOOSEBASE SHIBUYAに来てくださる顧客は、楽しみながら買い物をしてくださっている。異空間にいるような感覚が楽しいというのもあるし、経験したことのない買い方を提案していることもその理由だと思う。

FABRIC TOKYOでも、レジを置かないのか? とか、ECの使い方がわからないから店舗で買わせてほしい、などとよく言われるが、レジもPOSも置く予定はない。今後はECでの購買体験がどんどん増え、5年後、10年後にはそれが当たり前になると思っている。その代わり、スタッフがECサイトの使い方を説明し、カスタマーサポートがチャットや電話で対応するなどして、OMOというビジネスモデルの活用のしかたを顧客に伝えることを心がけている。我々はこれをカスタマートレーニングと呼んでいるが、未来の買い方を啓蒙しているともいえる。我々が提案するものに対して、楽しい、便利だ、と新しい価値を感じてもらうことこそ勝ちではないか。そこに挑戦していきたい。

伊藤氏:この買い方面白い! と言われることもあれば、最初はわかりにくかった! と言われることもある。森さんが言うように、顧客が楽しそうに体験してくれているというのは、まさに我々の狙いだ。顧客のペースで自由に買い物ができる空間であることが、その秘訣だと思っている。

――顧客のストレスをいかに減らすかを考えることが、従来のビジネスのあり方だったと思うが、あえて少しのストレスを作り出すことで、新しい世界を築くという発想が面白い。今後のCHOOSEBASE SHIBUYAの展開について教えてほしい。

森氏:まさにそれで、違和感みたいなものを大切にしていきたい。新たな発見や驚き、『ワオ!』という感情が生まれるような体験やサプライズなど、リアルな場にしかない価値を今後も打ち出したい。そごう・西武のような大きな企業が、そういう可能性を秘めた場として、CHOOSEBASE SHIBUYAを作ったのは、心底すごいと思っている。

伊藤氏:縦と横の2つの変化を軸に進化させていきたい。縦というのは機能やコンテンツのことで、よりスムーズに買い物ができるだけでなく、ここでしかできない体験やワクワクをどんどん追加していく。横というのは我々のプラットフォームのこと。店舗とECの在庫連動によって在庫を管理しやすくしているため、リアルでもどんどん面を取っていきたい。

Written by 戸田美子
Photographed by 渡部幸和

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