メディアミックス の進化で、アドテク企業たちが注目の的に

DIGIDAY

マーケター勢は現在、オンライン広告活動の主導権を再び握ろうと努めるなか、厳しさを増すさまざまな困難に直面している。広告費が新事業を生んでいる事実の証明を求める調達部門からの圧力もそのひとつだ。

さらに、そうした圧力に加えて、オンライン広告予算の配信やオーディエンスデータの収集という、インハウス化のより深い理解が欠かせない要件についても、マーケターはより大きな公的責任を負うことを求められている。そして、ブランド勢がメディア費をオフラインからオンラインチャネルへの移行を続けるなか――米デジタル広告費は2021年、38%増の2100億ドル(約23兆1000億円)に跳ね上がった――マーケター勢はその目をアドテクに向けつつある。

ただし、多くが気づきつつあるように、完全な透明性は簡単には手に入らない。

市場調査子会社イーマーケター(EMarketer)の予測では、2023年、2700億ドル(約29兆7000億円)規模のデジタル広告市場の91%がプログラマティックに費やされることになる。加えて、これに先んじて、全米広告主協会(Association of National Advertisers)は現在「気の遠くなるほど複雑な」セクターを監査中であり、その結果は2022年後半に報告される。

この監査は、そして彼らのそうした言葉遣いは、エージェンシー界で横行する(さまざまな問題のなかでもとりわけ)内密のキックバックという「邪道な」慣行に言及した2016年のK2インテリジェンス(K2 Intelligence)による報告書をはじめ、同様の調査を思い起こさせる。

さらに2020年、広告主の利益を促進する英貿易機関ISBAがオンライン出版協会(Association of Online Publishers)と共同で実施した調査でも、同様のことがくり返されている。同報告書は、プログラマティック購入のうち、監査人が見つけた説明の付かない15%を「闇のデルタ地帯」と記した。

高まる「準インハウス化」の波

とはいえ、2020年にISBAの「闇のデルタ地帯」報告書が発表されるはるか前から、マーケター勢はメディア予算の投入先に関するさらなる透明性を求めて努力は続けていた。2020年のDIGIDAYリサーチによれば、マーケティングを取り仕切る者の83%が「ほとんどインハウス」または「完全にインハウス」を目指していた。

こうした動きを見せたブランドのリストには、JPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)、マリオット(Marriott)ネスレ(Nestlé)といった大手が名を連ねている。もちろん多額の支出で知られるCPG界の巨人、プロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)もその1社であり、幹部勢による支出と透明性の自社管理力の重要性に対する言及を受け、同社は行動を起こした。

もっとも、このような決定について関係者らは、契約交渉の機密性を理由に、堅く口を閉ざすのが常だ。しかし、複数の業界関係者が米DIGIDAYに語ったところによると、多くのマーケター、特に雑誌やリニアTVのようなレガシーメディアで築いたブランドを推進するマーケターは、デジタルに関してはハイブリッドモデルを選択するという。

あるCPGブランドのマーケティングチーム情報筋はこう話す。「誰もがインハウス化を二者択一と見ている(中略)、メディアエージェンシーとは何のコネもない、だから10名程度を雇い入れ、すべてをインハウス化するが、これはあくまで2つに1つの選択肢でしかないと」。

同じ情報筋はこう言い添える。「それでも、いくつかのことは他所にアウトソースしないとならない状況が必ずあると思う。ただその場合も、他社の人間がしていることをしっかりと把握できることが鍵となる」。

また、広告業界のとある大手持株会社の情報筋は米DIGIDAYに対し、オンラインメディアバイイングのインハウス化を望むマーケターの大半は、まだ歩を踏み出したばかりだと語る。「インハウス化は業界の大手広告主にとって極めて重要だと、確かに我々は考えている(中略)、ただし多くの場合、契約条件を詰める際などは、いわば『準インハウス化』になっているのが実情だ」。

往々にして、このプロセスにはまず、自らの主導でアドテクベンダー勢と契約を結び、続いてメディアエージェンシーにキャンペーンを発動させる、という動きが含まれる。たとえば、前出のCPG情報筋は、自社メディアバイイングチームが2つの独立系デマンドサイドプラットフォーム(DSP)との関係を構築する流れを詳しく語ってくれた。そうすることで、同CPGのメディアチームはエージェンシーとして広告キャンペーンの動きに併走できるよう、適宜にDSPへのログインができるようになるという。

「DSPに留まらず、広くテクノロジーの選択の主導権を握る、というトレンドがあると思う。そうすることで、サプライチェーンのあらゆる要素に関与していけるように」と、上記の情報筋は言い添える。「我々がテクノロジーパートナーを選び、そのうえで、どのパートナーが望ましいのか、我々のほうからマーケットに推薦する」。

複雑さが課す制限の数々

しかし、アドテクエコシステムとの直接的関係が増してもなお、インハウスマーケティングチーム勢には、課金法の非一貫性や内密の慣行が横行する、業界の極めて複雑な部分への対処という難題がある。

たとえば、テキサス州ケン・パクストン司法長官の主導で最近発表された独占禁止法訴訟における未編集の報告書は、GoogleがFacebookと共謀して「プロジェクト・バーナンキ(Project Bernanke)」と称する企てを行ない、オンライン広告オークションを操作したと訴えているが、これは業界の裏にある複雑性を示す好例にほかならない。ちなみに、Googleはそれらの容疑をすべて否認している

ブランドのインハウスマーケティングチームはさらに、独立系アドテク企業勢も――多くは巨大テック勢に比べて、あえて目立たないよう、存在感を消しているが――やはり大手と同様、複雑な課金構造を擁するという現状とも折り合いを付けねばならない。たとえば、この現状を最近改めて浮き彫りにしたのがアダリティクス・リサーチ(Adalytics Research)の報告書であり、アドテクベンダー勢のテイクレート(手数料の割合)は取引によって大きく変動する可能性があり、なかには広告主が広告枠に支払った額のうち、パブリッシャーが手にできるのはわずか2%の場合もあるという。

前出の持株会社情報筋は匿名を条件に米DIGIDAYの取材に応え、目の前に立ちはだかる課題の規模が明らかになれば、プログラマティックメディアバイイングを完全インハウス化している広告主のなかには、翻意するところも出てくるだろうと語る。「インハウス化したクライアントが元に戻したケースを2つ知っている。どちらも、今後の仕事量とコストを目の当たりにしてすぐに、そもそもそんなことがしたいわけじゃないと気づいたからだ」と、同情報筋は言い添える。

これが限界?

上記の2020年の報告書を受けて、ISBAは英国オンライン出版社協会(AOP)、英インターネット広告局(IAB)、情報処理推進機構(IPA)と共同で特別委員会を結成し、2022年2月、プログラマティックバイの会計監査に役立つ一連の提言を発表した。

そのひとつが「監査許可書」であり、これには監査人がサプライチェーンにおける広告インプレッションのトラッキングに使用できるデータポイントと、その際にアクセスが認められる関係者名が明記される。監査に推奨される21のデータポイントには、広告主のID、彼らの具体的なキャンペーン名、パブリッシャーのURL、インプレッションが配信された日時を示すタイムスタンプのほか、アドテクベンダーおよびデータプロバイダーの料金の開示などが含まれる。

現在、同委員会はプライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers、以下PwC)――ANAおよびISBAの調査の背後にいた監査人――の協力を得て、同ガイドラインの効果に関する「テスト&ラーン調査」を実施している。ただし、この件に詳しいある情報筋が米DIGIDAYに語ったところによれば、「共通ユーザおよびトランザクションID」という重要なデータは、プライバシー保護を理由に、関係団体の推奨データポイントから除外されたという。

「監査ログで本当に見たい類の情報は、交渉の結果、外されていた」と、その情報筋は匿名を条件に語った。さらには、決定論的IDに関連する個人データと似非IDを区別する当局の線引きが、プライバシー保護の訴えによって無視されている、とも言い添える。

「第三者監査を本気で望むなら、中立者がそれらコモンキーを利用してバイサイドとセルサイドを比較できるようにするために、然るべきデータが欠かせないと、私は言った」と、同情報筋は言い添える。「しかし、返ってきたのは『努力はしたが、巨大テックはまず認めないだろう。これが限界だ』というおざなりの答えだった」。

PwCは現在、透明性に関する調査を進めている。これは巨大テックと独立系アドテク双方の複雑性にメスを入れるもので、その結果は2022年10月、ANAのカンファレンス、マスター・オブ・マーケティング(Masters of Marketing)で報告される。

[原文:Ad tech comes under the microscope as marketers evolve their media mix

Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)
Illustration by IVY LIU

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