eスポーツ組織は、男性ばかりではないチームを結成することで、リーチが広がり、ブランドとの新たな提携関係を結べるという確信を示し始めている。
eスポーツ組織のミスフィッツ(Misfits)は2月28日、女性とトランスジェンダーだけの初めてのチーム「ミスフィッツ・ブラック(Misfits Black)」を結成した。ミスフィッツ・ブラックは、女性とほかの過小評価されているジェンダー向けのVALORANT(ヴァロラント)リーグ「VCTゲームチェンジャーズ(VCT Game Changers)」に参加する。VALORANTは、5人同士で対戦するタクティカルFPS(一人称シューティングゲーム)だ。VCTゲームチェンジャーズは、ナード・ストリート・ゲーマーズ(Nerd Street Gamers)が運営し、ライアットゲームズ(Riot Games)のVALORANTチャンピンオンズツアー(VALORANT Champions Tour)と関係がある。
ブランドとも「同等」のパートナーシップを
新チームのミスフィッツ・ブラックには、ゲーム周辺機器ブランドのハイパーX(HyperX)やヘアケア製品メーカーのスプラット(Splat)といった、ミスフィッツにとって新たなブランドパートナーが付いている。両スポンサーとも、特にミスフィッツの男性以外のVALORANTチームのために契約した、とミスフィッツのCEO、ベン・スプーント氏は述べたが、契約の条件は明らかにしなかった。
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ミスフィッツの男性以外のVALORANTチームと提携するのに合わせてハイパーXは、優先事項だと昨年述べているゲームコミュニティでの女性のサポートに、より幅広く関与する。「当社は、業界でインクルーシビティ(包摂性)と多様性に関してリーダーシップを発揮する活動と連携するチームや組織とともに活動を続けており、ミスフィッツ側が同じ価値観を持つ当社に接触してきた」と、ハイパーXでeスポーツのスポンサーシップを管理するキティ・カオ氏は述べた。
ミスフィッツ・ブラックは、オリジナルコンテンツでブランドパートナーを大々的にフィーチャーする予定だ。チームの発表動画では、メンバー数人がスプラットの製品を着用している。「当社のパートナーは、こうした種類のマーケティング機会も求めていると認識しており、ウィンウィンの関係を築けることに興奮している」とスプーント氏は語る。
ミスフィッツは、男性以外のチームを通じて新規パートナーを獲得した新たなeスポーツ組織だ。G2 eスポーツ(G2 Esports)は2月、コンピュータハードウェアメーカーのシーソニック(Seasonic)と「男女同等」な提携関係を結んだ。つまり、G2 eスポーツの男性のVALORANTチームも、女性のVALORANTチームも、同じ提携条件が適用され、シーソニック関連のアクティベーションに平等に関与する。「女性のVALORANTチーム『G2ゴゼン(G2 Gozen)』は、業界で最も成功している有力な女性のeスポーツ選手数人で構成されている。この件においては、男女同等ではない提携関係を受け入れる気はない」と、G2 eスポーツのコマーシャルディレクター、サブリナ・ラティ氏はいう。
「男女が公平でないことは大きな問題」
シーソニックが明確にした上で提携関係を結んだのは、女性のeスポーツにおけるG2 eスポーツの存在感が理由だ。「長いあいだ、プロのeスポーツは、男性中心の分野だった。明らかに、ゲームのレベルが高い女性は数多くいるが、競技の場では女性はまだ依然として少数派だ。全員女性のVALORANTチームをG2 eスポーツが結成すると聞いてすぐに、こうした新たな方向性の一部でありたいと思った」とシーソニックのグローバルマーケティング責任者ウォルター・サン氏は語る。
全員女性のeスポーツチーム(および、そのブランドパートナー)の急増は、比較的最近の現象だ。こうした成長の一部は、VALORANTのeスポーツの台頭によるものだ。ライアットゲームズが、VCTゲームチェンジャーズのような構想を支援しているため、VALORANTの競技シーンは、ほかの一部のeスポーツコミュニティと比べて極めて多様だ。
だが、2020年のVALORANTリリースのずっと前から、女性のチームを送り込んできた組織もある。たとえば、ディグニタス(Dignitas)は全員女性の「カウンターストライク(Counter-Strike)」チームを2017年に獲得したが、チームのプレイヤーの大半は3年後にVALORANTに移籍した。「効果的にゲームを変え、競争力を維持してきた数少ないチームのひとつだった」とディグニタスでパートナーシップ担当シニアバイスプレジデントを務めるジョン・スパイアー氏は話す。
女性のeスポーツ分野におけるディグニタスの経験は、ゲームコミュニティのこうした特定層へのリーチを目指すブランドとの多くの提携につながってきた。スパイアー氏は、最近の例として、昨年結ばれた化粧品ブランドNYXとの提携を挙げた。「化粧品は、万人向けのものでもあるが、消費者基盤の大部分を女性が占めている。化粧品は、VALORANTチームのルックスや気分、プレイの良さの中核を成している」とスパイアー氏は話す。
スパイアー氏は、前述のG2 eスポーツとシーソニックの男女同等な契約に励まされているが、性別に関係なく、ディグニタスのチームでは、長年、そのように公平であることが普通だったと語った。「それが当たり前でないようなら、組織にとって、より大きな問題のように思える」。
プレイヤー層の変化を理解しているか
従来のスポーツと違って、eスポーツでの成功は、身体の大きさや力よりもプレイヤーの戦略的考えや反応時間とより関係がある。多くの専門家は、業界での大きな男女不均衡には、ゲームに関する女性プレイヤーの生まれつきの能力不足ではなく、女性差別者による嫌がらせや何気ない性差別、女性のゲームスキル不足について一般に広まっている誤解など、女性の進出を妨げる文化的要因がより関係していると確信している。近年、メンバー全員が女性であるプロのeスポーツチームの数が業界で著しく増加していることは、こうした見解を支持するものだ。女性がeスポーツでますます目立つようになっていることから、ブランドは、こうしたプレイヤー層の変化をうまく利用しているチームに注目し始めている。
「どうかしている。女性は重要だ。多くの組織において、どうしてこれが優先されないのか、まったくわからない」とスパイアー氏は語った。
[原文:Esports orgs are creating non-male teams to attract new advertising deals]
ALEXANDER LEE(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島翔平)